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第六章 火の町

煙は、もうはっきりと通りの高さまで降りてきていた。


焦げた木の匂い。

油の焼ける匂い。

そして、風に乗って流れてくる熱。


江戸の町は、炎の中に入ろうとしていた。


日本橋の通りでは、人々が逃げ始めていた。


「橋を渡れ!」


「川へ出ろ!」


叫び声があちこちで上がる。


桶を抱えた男たちが水を運び、火消しが屋根へ登る。鳶口で板を叩き落とし、燃え移りを防ごうとしている。


だが、風が強かった。


火の粉が空を舞う。


赤い粒が屋根に落ちる。


そこからまた火が生まれる。


悠人は、その光景を見て言葉を失った。


歴史の中の出来事ではない。


現実の火だった。


町が燃えている。


人が走っている。


火消しが叫んでいる。


そのすべてが、夜の中で混ざり合っていた。


巫女は静かに言った。


「江戸は、火の町です」


悠人は聞いた。


「止められないんですか」


巫女は首を振った。


「この火は」


炎を見ながら言う。


「町を変える火です」


悠人の胸が強く打った。


町を変える火。


つまり、この夜のあと江戸は作り直される。


都市の形が変わる。


そして、未来の東京へ続く。


巫女は言った。


「あなたは」


悠人を見た。


「まだ見るべきものがあります」


「何を」


巫女は炎の空を見上げた。


「江戸が」


少し間を置いた。


「東京になる始まりを」


炎が夜空を覆った。


江戸の町が、燃えていた。


そしてその炎の向こうに、悠人はかすかな光を見た。


白い光。


江戸には存在しない光。


それは――


東京の光だった。

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