(9)ゴミから生まれた逸品は、大金貨23枚の価値!
今回は、ルーナが作った魔導具の価値を巡って、
本人を差し置いて交渉が進んでいくお話です。
気がつけば、話はどんどん大きくなっていて……。
交渉というものは、たいてい静かに始まる。
だが、その静けさの裏では、必ず誰かが得をし、
誰かが取り返しのつかない何かを失う。
ルーナは、そのことを――
まだ、この時は知らなかった。
「で、結局のところ…」
行商人ゲパックは、満面の笑みを浮かべたまま、
例の魔導具から、ついと視線を外さなかった。
「その魔女の発明、
いくらでお譲りいただけるのでしょう?」
「えっ?! ああええと、そうですねぇ…」
ルーナは腕を組み、右手を口元に寄せて考え込む。
『やはり、ゲパックの言う大金貨10枚で良いのでは?
いや、しかし…何も深く考えずに作った…
いや、出来てしまった、言わば粗悪品だ。
まだまだ改良の余地はあるはず。
そんなモノを大金貨10枚なんて、法外な…
でも、せっかくだから…』(心の声)
などと考えて返事を渋っていた。
でもルーナは、ゲパックの気が変わらないうちに、
大金貨10枚で、手を打とうと思いきや…
「やはり、ゲパックさんの言う…」
「ゲパック殿!」
「?!…」
村長がまた、でしゃばってくる。
(出端を挫かれるルーナ)
ゲパックは、村長へ体を向ける。
「はい、なんでしょう?」
「?!…」
(口をパクパクさせるルーナ)
「この魔導具は、ルーナさんが血のにじむ努力にて
ようやく作り上げた至極の逸品なのです!
それに、この村でも必要なもの」
「ううむ まあ、そうですなぁ…」
「…(汗)」
「そんな逸品を、この村から出すこの意味を、
ゲパック殿は、どうお考えでしょうか?」
「ううむ……」
「!……」
(村長の言わんとする事を察すルーナ)
「つまり、世に出すか出さないかで、
世界の常識が変わるか変わらないかという事なのです!」
「うむ 確かに」
『そんな、ご大層な…(汗)』(心の声)
「それほどのモノを、ゲパック殿は言い値で
手にしてしまおうとしている。
私の言いたいこと、解りますよね?」
「うっ、ゴホン! そうですなぁ…」
『やめてぇ! それ以上持ち上げないでぇ(汗)』
なんだか、話が大きくなってない?!
ソレ、ただのゴミからできたモノですけどぉ?
村長の暴走は、まだ続く。
「では、大金貨30枚は、どうでしょうか?」
『なぁんば言うとっとぉ~~~?!』
(熊本弁の心の声)
「うええっ?! 流石に、大金貨30枚は…(汗)」
『そうですぜ旦那? それを世間一般的には、
”ヤカラ”言いますねんけど?』
(心の中でなぜか、えせ関西弁で突っ込むルーナ)
「ふむ 先程も言いましたが、
この逸品は、世界の常識を変えてしまう…」
「15枚っ!! 大金貨15枚ならいかがでしょう!!」
「ふん! まだ、解ってないようですな?」
「んんっ! で、では、大金貨20枚!
20枚ですよ?! どうです?!」
『うっひょお~~~(焦)』
(もはや心の悲鳴)
「うんや! 何を言ってるのかねゲパック殿!
どうせ王都の大貴族には、この倍以上の言い値で
ふっかけるのではないのかね? うぅん?」
「んぎぎっ…で、では…大金貨22枚!」
「いんや! 大金貨25枚ですな!
いや、オークションなら、もっと上がる可能性も?」
「あああううう…こ、これ以上わぁ~~~(焦)」
「ちょっと、アンタら…(焦)」
村長とゲパックとの間に挟まれ、
オロオロするばかりのルーナ。
この時のルーナは、完全に蚊帳の外だった。
やたら背の低いルーナは、2人の間に挟まれ、
ただ下から見上げてキョロキョロするだけ。
完全に視界に入ってはいなかった。
ルーナが作ったはずの、ゴミから生まれたモノが、
いつの間にか、ひとり歩きを始めていて、
気がつけば、手の届かない所まで行ってしまった?
いつしか、そんな逸品とされた魔導具を持つ手が震えていた。
「ん…んん~~~~~~
わっ、わかりました!!
大金貨22枚と金貨5枚!
もうこれ以上は無理ですよ村長ぉっ!!」
「…ま、いいでしょう?
では、大金貨23枚で、お譲りしましょう!」
「はあっ?!…ああもう!
仕方ありませんね!」
「あの~~~コレ、私のですよねぇ?(汗)」
どうやらルーナの頭の上で交渉は成立したようだ。
ルーナのゴミから作った、空間拡張収納魔導具は、
大金貨23枚で取引きされた。
ルーナを、差し置いて……
「ところで、ルーナさん?」
「ふぇ? あ、はい?」
「この魔導具には名前はあるのでしょうか?」
「名前…ですか?
うう~~~ん…………
駐車場が必要ない魔導具だから…
えっと、じゃあ、”車庫いらず”ではどうかな?
車庫とは、車を保管しておく倉庫施設って意味ですね」
「車庫いらず? ふぅん 面白いですな?
なるほど! そんな意味があるんですね?」
「ええ、まあ」
この時、この魔導具の鑑定結果では、
「車庫いらず」という、正式名称となった。
まさかの蚊帳の外で、取引成立。
ゴミから生まれたはずの魔導具は、
いつの間にか「逸品」になっていました。
次回も、よろしくお願いします。




