(8)魔女の発明は、大金貨十枚の価値だった
今回は、ルーナが作った魔導具の「価値」が
周囲の人々に知られてしまうお話です。
本人は軽いノリなのに、周りは大騒ぎ。
そんな温度差を楽しんでいただけたら嬉しいです。
・⋯━☞馬車置き場☜━⋯・
ルーナは、馬車に向けて魔導具を発動してみる。
「ええと…格納!」
ヒュン!…
「うおおおおおおー!! 消えたぁ!
できたぁーーー!! いええーーい!」
ルーナが収納した馬車は、
まるで蝋燭の炎が消えるように、
一瞬揺らめいて目の前から姿を消したのだ!
「すんげぇなぁ!
ラノベや漫画アニメでもよくあるけど、
本物のマジック・バッグって、こうなるんだぁ?」
ルーナは、ひとり興奮していた。
畑仕事をしていた村人たちに、
目撃されていた事も知らずに……
「ふぅん?」
「なんだろうねぇ?」
「なんだか楽しそうね」
「元気ならいいんじゃない?」
「まあ、そうだなあ」
村人たちが、ルーナのはしゃぐ声を聞いて、
少し安心した様子だった。
なぜならルーナは、最愛の姉を喪ったばかり。
村人たちは、ルーナを心配してくれていたのだ。
そんな村人たちの気持ちを知らないルーナ。
それもそのはず。
今のルーナは、姉を喪ったルーナなどではない。
姿はルーナではあるのだが、
中身はオジサンである。
そう。中身はまったく別人なのだから。
そんなルーナに気づかない村人たちは、
幸か不幸か、なんと言うべきか…
今のルーナにとって、姉を喪ったことなど、
ハッキリ言って、他人事だ。
これも、仕方がないことである。
だが、優しい面持ちでルーナを見る村人たちだが、
そんな中、ひとり違った気持ちで見つめる者が居た。
その者は、ルーナに向かって歩み寄る。
ルーナは、そんな何者かの視線には気づいてはいない。
「おおっと! こんな事はしてられないな
馬車を戻して、熱が冷めないうちに、
次の魔導具研究に入らなきゃ! 搬出!」
ポン!
「おお~~~!」
ルーナが、”搬出”と言うと、今度は馬車が、
まるで出来の悪い三流特撮映像のように現れた!
さきほど、収納魔導具に格納した馬車が、
また元の位置に、ポン!と現れたのだった。
「あっはっは! これは面白い!
まるで魔法のようだ!
ってかコレ、魔法なんだっけ?」
なんて、間抜けなことを言っているが、
ルーナは魔法の存在しない世界から来たのだから、
それはそれ、仕方がない!
すると、そこへ突然 出鱈女神が目の前に現れた!
パッ!
「うおっ!!」
『あっらぁ~~~やっちゃったわねぇ~~~』
「はっ? なんだよいきなり!?
って、今度はスケバンコップの姿なんだな?」
今度の出鱈女神は、
「スケバンコップ」の姿でルーナの前に現れた。
『貴女がすぐに気づけるように、
視覚と聴覚を刺激してあげただけよん?』
「ああそう? で、何がやっちゃったって?」
『今に分かるわぁ!』
フッ!……
「あ、おい!」
そう言って、出鱈女神は姿を消した。
すると、その直後だった。
そこへ…
「やあやあ! なんとも素晴らしい魔導具ですな!」
「わっ!…え?」
突然、背後から声をかけられて驚くルーナ。
その人は、定期的にこの村へやって来る行商人である。
畑仕事をする村人たちからは、ちょうど隠れる位置だが、
声を掛けて来た行商人からは、丸見えだった。
ルーナは、しまった!と思った。
「あら、見てたのね?」
「うわっはっはっ! 見てましたとも!」
「あはは…(汗) そ、そう?
では、私は仕事がありますので、これで…」
「確かぁ~シリルさんの妹さん?
……でしたよね?」
「!!…は? なんだって?」
”シリル”
ルーナは、その名を聞いて、ドキっとした。
そう。シリルとは、ルーナの姉の名前である。
実はルーナは、ここで初めて姉の名前を知ったのだ。
過去の記憶からも、姉の名前なんて知ることはなかった。
「あなたは…だれ?」
「ふわっはっはっ! これは失礼した!」
『声でかいな、おい……(汗)』(心の声)
「私は、この魔導大国マイーヤでは、
ちょいと知られた行商人の、ゲパックと申します」
「は、はあ…
ど、どうも ルーナです 初めまして」
「…ん? それは、何をしているんだ?」
「……へ?」
ルーナは、慌てて姿勢をビシッ!と正して、
腰を45度に曲げ、ゲパックに向かってお辞儀をする。
まるで、公私をスイッチするかのように。
これも、社会人のオジサンとしての礼儀だろうか。
だが、そんなルーナに対してゲパックは首を傾げる。
今しがた、ルーナが礼儀としてしたような、
お辞儀の習慣の無いこの世界の人にとって、
ルーナの行動は、なんとも滑稽に見えるのだ。
なので行商人ゲパックは、ルーナのお辞儀に対して、
「?」と、なるのは仕方がないことである。
しかしゲパックは、構わず話し続ける。
「思いがけず見させていただきましたが、
いやいや、素晴らしいですな!
馬車を丸ごと収納できる魔導具とは!
王都でも、そんな魔導具なんて見た事がない!!」
「は、はあ…それは、どうも?」
今度はルーナが、行商人ゲパックの驚き様に
意味が分からず、思わず首を傾げる。
ルーナにとって、馬車が丸ごと収納できることは、
実際簡単にできてしまったのだから、
『こんなものか』
程度のことに過ぎないのだ。
なので、この世界では、”当たり前の事”。
とさえ、思っていた。
まさか、自分が何の気なしにしている事が、
『規格外』だなんて知る訳がない。
だがこの時ルーナは、ただ、
『面倒くさそうな人に出会ってしまったな』
としか、考えていなかった。
なので、このまま立ち去ろうとするが…
「では、私はこれで…」
「私もマジック・バッグは幾つか扱っていますが、
馬車が丸ごと収納できるほどの物は、
これまで見た事も聞いた事もないですよ!!」
「!…は、はぁ……そうですか」
「はぁい!
言い方は悪いですが、まさに非常識!」
「ぐっ!…」(顔をしかめるルーナ)
「この魔導大国マイーヤでは、
”大魔女”と呼ばれたシリルさんでさえ、
これ程の物は作れないのではないでしょうか?」
「…シリル」
ここでルーナは、初めてシリルに対して意識した。
それは、姉としてではなく、ライバルとしてだった。
今のルーナにとって、シリルは実の姉ではないのだから、
それは仕方がない事なのかも知れないが、
人と比べられる事が、どうにも不快に感じてしまう。
日本では、それなりに仕事はできたが、
けっして優秀な仕事人ではなかったルーナ。
人と比べられる事が、やけに心に刺さる。
なので正直な気持ち、行商人ゲパックの言葉に、
ムカついてしまうのだった。
だが、そんなルーナの気持ちに気づかないゲパックは、
怪訝な表情のルーナに構うことなく、
興奮気味に、ペラペラと話し続ける。
「私事ですが、もし馬車を増やすとなると、
御者も雇わなければならないですし、
無事に荷物を運ぶためには、荷物や人員を守るために
それ相応に、護衛も雇う必要もあります」
「はあ…でしょうね?」
「はぁい! ですから、
あなたのその規格外な魔導具さえあれば、
私のそんな懸念も、解消できる訳です!」
「…はい
あの、何が言いたのでしょうか?」
「はぁい!! よくぞ聞いてくれました!
そこで、ご相談なのですがねえ…」
「…………(汗)」
そんな時、興奮する行商人ゲパックの声に、
畑仕事をしていた村人たちが集まって来る。
「なんだなんだ?」
「どうしたの?」
「おや、ゲパックさんじゃないか?」
「ルーナ? 何かあったの?」
「あ、えっと…」
「おやおや、これはこれは、リーフ村の皆様方!
お騒がせして、申し訳ありません!」
「リーフ村?」
この時ルーナは、この村の名前を初めて知った。
だが今は、そんな事など、どうでもいい。
はやく、この場から離れたい一心だった。
「あ、あはは…なんでもないですよ?
じゃあ、私は忙しいのでこれで…」
立ち去ろうとするルーナ。
だが……
「おやおや、皆さん! お集まりですな
何か、揉め事でもありましたか?」
「!…ああもぉ…(汗)」
すると今度は、村長までもがエンカウント!
ますますルーナは、この場を離れる機会を失う。
「これはこれは、リーフ村のラング村長殿!
今、シリルさんの妹さんの魔導具について、
お話させていただいたところです!」
「うぬぬ…」
「ほぉ? ルーナの魔導具…ですか?」
「はぁい! 実に素晴らしい!
村長殿なら、既に知っておられるでしょうが、
私もこれまで見た事のない物ですぞ!!」
「ちょっ…(汗)」
行商人ゲパックは、そう言うが、
村長がルーナの持つ魔導具がどの様な物なのか、
知っているはずがない。
なぜなら、今しがた完成したばかりの物なのだから。
その魔導具の試運転として、たまたまルーナが
試験的に実践していたところへ、
行商人ゲパックに見られてしまっただけなのである。
あまり目立ちたくないルーナ。
もう帰りたいのに、帰れない。
ゲパックに解放されなくて、気分が暗いマックス。
でもゲパックは、興奮がクライマックス!
「実に、実に実に素晴らしい!
いえ、素晴らしい一言では表現できません!」
「まあまあ、落ち着いてくだされ!
素晴らしいとは、いったいどのような?」
「ほら、この娘さん、ルーナさん…でしたか?
ルーナさんが持っている、その小さな魔導具です!」
「!……」
(思わず魔導具を包み込むように持つルーナ)
「ほぉ? ふむ…確かに小さな物ですが、
それが、ゲパックさんが興奮する程の物だと?」
「はぁい! はぁい! はぁああい!
そこです! こんなにも小さな魔導具なのに、
馬車を丸ごと収納できてしまうのですから、
それはもう、他にない逸品ですぞ!」
「なんと?!」
ザワザワザワザワ…
「あああんもぉ…余計なことを(困)」
行商人ゲパックの言葉に、強く反応する村長。
そんな村長を見て、マズイと思うルーナだったが、
どうやら、この場から立ち去る雰囲気ではなさそうだ。
そして、追い討ちをかけるように、
村長がルーナの持つ魔導具に興味を示す。
「ふむ ルーナよ、その魔導具を
今ここで皆に見せてはくれないかい?」
「!…で、でも、
これはゴミ捨て場で見つけたものを、
私がちょっと改良しただけの物ですよ?
けっして、ゲパックさんが過剰に賞賛するような
大それた代物ではありませんよ!」
「何を仰いますか! そんな事はないですぞ!」
「そうじゃ
ルーナよ、そんなに自分を過小評価するでないぞ?
その品の善し悪しは、私たちが決めることじゃわぃ」
「いやいや、でもですねぇ、
これはできるだけ大きな物を収納できるようにと、
一つだけ収納できる設定にしただけですから!
なので、たとえ豆一粒収納しただけでも、
もう他には何も入らなくなるんですよ?!
こんな、使えないものを…そんな…」
「それですよ!」
「えっ?」
「他に無い、規格外に大きな物を収納できる!
それこそが、私の求めているモノなのです!!」
「!!……そうですかぁ? それじゃあ…」
ルーナは仕方なく、また実践してみる。
ルーナが、”格納”と言うと、目の前の馬車が消え、
そして、”搬出”と言うと、また馬車が現れる。
そんな規格外な事を平然とやってのけるルーナ。
だが、ルーナにとっては、簡単に作れてしまった魔導具。
何の事はない普通の事という認識であるが、
ルーナ以外の人たちにとっては、驚きであった。
「すっばらしい!!」
「おおおっ! これは驚いた!」
「おおおっ!」
「すんげぇ!!」
「まあ! 馬車が消えて、また出たわよ!」
「おいおい! こんな事有り得るのか?!」
「ええ? えええええ?
ちょ、みんな驚きすぎですよ!!」
皆のリアクションに戸惑うルーナ。
「これはもう、国宝級ですぞ!!」
「はあっ?! 国宝級ぅっっっ?!」
「はぁい! 私が思いますにはぁ~~~
大金貨10枚は出してでも、欲しいですな!!」
「「「「大金貨じゅうまあ~~~い~~~?!」」」」
「はぁあいっ!!」
「お、おおぅ…(焦)」
まさに、ルーナこそが驚きだった!
大金貨10枚と言えば、日本円で1000万円である。
何の気なしに作っただけの、何てない魔導具。
ルーナはただただ、オロオロするしかなかった。
ついに「規格外」が表に出てしまいました。
本人の感覚と、世界の評価のズレが
これから少しずつ物語を動かしていきます。
次回も、よろしくお願いします。
シリルとは、どこかの国の言葉で、”尊敬”という意味だそうです。
ゲパックとは、どこかの国の言葉で、”荷物”という意味だそうです。
マイーヤとは、どこかの国の言葉で、”魔法”という意味だそうです。
リーフとは、どこかの国の言葉で、”薬”という意味だそうです。
ラングとは、どこかの国の言葉で、”長”という意味だそうです。




