(22)甘い木は、甘い実から生る。
今回のお話は、ゴミ捨て場から始まります。
けれど、芽吹くのは“絶望”ではなく“希望”。
甘い木は、甘い実から生る。 そして未来もまた、小さな出会いから生まれるのかもしれません。
少し切なく、少し温かい第22話。 どうぞお楽しみください。
・⋯━☞ ハンドール公爵領 ☜━⋯・
・⋯━☞通称商業街マイーヤ☜━⋯・
・⋯━☞元スラム街ゴミ捨て場☜━⋯・
ルーナとサミは、
朽ち果てた廃墟の物陰に隠れていた。
・⋯━☞朽ち果てた廃墟の物陰☜━⋯・
「……あの人たちが居なくなるまで待とう」
「へ? なんで?」
「なんでって、いったい何をする気なんだい?」
「何って……」
「ここへ来たのは、ゴミ集めのためだろう?」
「そうだけど!……そうだけど……」
ルーナは、またチラリと3人の親子を視線に向ける。
父親は足を引きずり、子供たちはそんな父親を
両側から支えるように歩いている。
でも、そんな2人の子供たちも、
声がかすれ、喉はヒューヒューと鳴り、
健康ではないのは、一目瞭然であった。
そんな3人の親子を見るルーナの目には、
胸がぎゅっと痛み、ジワリと涙が滲むのだった。
「そうだけど、目の前に困ってる人がいたら
放っておけないじゃない?」
「そんなの時と場合によるよ!
今の俺達があの人たちに、
何をしてあげられるって言うんだい?」
「だから、怪我を治してあげたり、
スライムトイレを作ってあげたり、
服を作ってあげたり……」
「おいおい……正気かよ(汗)」
「甘い木も植えてあげようよ」
「なんだって? ちょっと待て。
なんでそこまでしなきゃいけないんだい?
そういうことは、領主に任せて……」
「だって……ほら!」
「!……」
ルーナは、マジック・バッグから、”甘い実”を取り出した。
”甘い実”とは、特に食べ物や料理の生成に、
そして、魔法薬などの精製に適した、
見た目の形と歯ごたえは”リンゴ”だが、
色と味は”桃”に似た、”甘い木”と呼ばれる木に生る、
豊富な魔力を含む果実である。
土でも砂地でも逞しく育つ木であり、
また、この地のような、不衛生な土地でも
問題なく育つだけではなく、
そのまま食べても回復効果があるし、
なりより食用にもなるので、
きっとこの地の人たちの”希望”となり、
そしてまさに、”魔法の実”そのものとなると、
ルーナは考えたのだ。
「それは、甘い実?」
「そっ! これを植えたら、
数週間で、甘い実をつける立派な木に育つよ!」
「木になるの?! 種からじゃないの?!」
「え? うん 知らなかった?」
「……しっ、知らなかった」
「あれま」
この情報は、ルーナの家にある
ルーナの先祖代々から伝わる
”魔導書”にしか載っていない情報である。
実はルーナの持つ魔導書とは
”日本語”で書かれており、
もしかしたら魔女とは、地球の日本と、
なにかしら関係があるのかも知れない。
だが、ルーナがこの世界の文字を読むと、
全て瞬時に日本語に翻訳されてしまうので、
魔導書が元々日本語で書かれているなんて、
ルーナは未だに気づいてはいなかった。
いや、深く考えていなかったのだ。
従って、「サミ」も含めてこの世界の人たちは、
たとえ魔導書を見たとしても読めないので、
この事実を知る人はいなかったのだ。
なので、今日この日まで、
『甘い木は、甘い実から生る』
という事実は、サミが初めて知ることとなる。
そしてこの時、ルーナは、
この世界に、やがて大きく影響を与えうる
小さな波紋を作ってしまったことに、
気づいてはいなかった。
「へぇ……知らなかったんだ?」
「……うん」
「そか……」
「……なあ、ルーナ?
これってもしかして、とんでもない大発見じゃ……」
「まあ、いっか!」
「……は?」
「これ、あの人たちに渡して来る」
タッタッタッタッ……
「ちょっ! まっ!…………
あああ~~~もぉ~~~!!
ルーナってば、なんでこう考え無しに……」
タッタッタッタッ……
そう言って、ルーナは親子3人に向かって
走り出してしまった!
そしてサミも、そんなルーナを、
文句を言いながらも追いかけるのだった。
・⋯━☞ゴミ捨て場中央☜━⋯・
ゴミ捨て場では、3人の親子がゴミ拾いをしていた。
そこへ突然、黒いワンピースを着た、
小さな女の子が飛び出して来た!
タッタッタッタッ!
「ねえっ!」
「きゃっ」
「わっ」
「なんだ? 誰だ、お前はっ!!」
「ひっ……あ~~~えっと……
えっと……えっと……(焦)」
(父親にビビるルーナ)
「「「……はぁい?」」」
「…………(汗)」
ルーナは、父親である男性の威圧に慄いた!
父親である男性の低い声、肩幅が広く太い腕、
上から見下ろされる警戒の目。
なにより、額の眉の間に大きな三日月傷が、
普段のルーナだったなら、
「カッコイイ」
などと思うところだが、このときばかりは、
ビビってしまって、顔を下に伏せたのだった。
なので、どう接して、どう説明し、
どう反応すれば良いのか戸惑った。
するとそこへ、サミが追い付いてきた!
タッタッタッタッタタ!
「ルーナちゃん! 待って!」
「サミ?」
「……君たちは……?」
「「…………(震)」」
(ドキドキドキドキ……)
するとサミが、何を勘違いしたのか、
いきなりルーナを責めてきた!
「ルーナちゃん! 何したの?!」
「はいーーっ?! ナ、ナニモシテナイ!」
「……(怪)」
「「……(震)」」
ルーナはサミの意外な問いかけに、
思わず、片言になってしまう。
ルーナにしてみれば、ただ声をかけただけ。
なのにいきなり父親らしき男性には怒鳴られ、
子供達には怖がられてしまう。
サミも状況が理解できず、
仕方なく3人の親子に話しかける。
「あの……この子が、何かしましたか?」
「ちょっ……」
「ああいえ、俺も突然この子に声をかけられて、
驚いてしまってね?」
「そうだったんですね?」
「ほぉら! 私は何もしてないったら!」
「わかったよ ごめんよ(汗)」
サミは、ルーナを責めたことを謝る。
すると父親らしき男性が話し始める。
「まあ、驚いたと言うのも、訳がありましてね
俺も、てっきり……」
「……うん?」
父親らしき男性は、2人の子供達を両手で庇うように
抱えながら困った表情で話す。
痩せこけて何日も満足に食べたいない様子の子供達。
足を怪我している様子の父親。
この人達が今なぜこうなってしまったのか。
怯えているのにも訳がありそうだ。
サミは、続けて話しかける。
「あの、何かあったんですか?」
「……実は」
父親らしき男性は、
ゴミの中の四角い木箱にこしかけ、話し始める。
「俺達家族は、一月前までは食べるのに不自由ない
くらいには生活ができていました。」
「「……コクリ」」
(黙って頷くルーナとサミ)
「この子達双子がちょうど5歳になった日に、
俺の女房が紡績の町ドラーツからの
馬車での帰り道で事故に遭いましてね」
「「!!……」」
「打ち所が悪かったようで、
この街にたどり着くことなく
亡くなってしまったのです」
「「…………」」
(表情が曇るルーナとサミ)
「「……すんすん(泣)」」
(すすり泣く子供達)
「俺は冒険者だったのですが、
魔物に足をやられましてね。
歩くのも不自由なもんだから仕事ができなくて……
この子達に、十分に食べさせてやれなくて」
「なんてこと……(悲)」
「ルーナちゃん……」
「だから、このゴミ捨て場から
金になりそうな物を見つけては手入れして、
街の道具屋などに買い取ってもらおうと……」
やはり、ルーナの想像していた通りだった。
彼らは、このゴミの山から使えそうな物を拾い、
そして手入れして街で売って食べていたのだ。
でも、今見た彼らの様子からして、
まともな収入ではないのは一目瞭然である。
でもこの時、ルーナには見えていた。
彼ら3人からは、魔術師としての素質のある魔力を。
この感覚は、決して知識や経験からではない。
ルーナの魔女としての、直感的なものだ。
ルーナは、ウエストポーチのマジック・バッグから、
白野菜を3つ取り出した。
「えっと、とにかくこれを食べて?」
「!……これは、白野菜じゃないですか!」
「そうです 食べればきっと足の怪我も
幾分か良くなると思いますよ?」
「いいんですか?」
「はぁい! どうそ!」
「ありがとうございます!」
「「ありがとう!」」
「いえいえ」
ルーナは、親子3人に一つずつ白野菜をあげた。
父親は、目に涙を滲ませながら、
かぶりつくようにムシャムシャ食べていた。
子供達も、嬉しそうに、そして美味しそうに食べた。
すると、父親の怪我をしていた足がうっせらと光り、
父親の痛みに耐えていたしかめた顔が、
フッと、楽な表情に変わった!
父親は、スッ!と立ち上がり、
怪我をしていた方の足を上げ下げしている。
まだ若干、違和感がありそうではあるが、
どうやら、足の怪我が少し回復したようだ。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「「お姉ちゃん、ありがとう!!」」
「うんうん! どいたまして!」
「どいたましてって……(笑)
”どういたしまして”だろう?」
「そうとも言う」
「ぷっ……まったく(苦笑)」
どうやら、この家族達からの警戒心は解けたようだ。
それを察したルーナは、ある提案をする。
「ねぇ? 女の子さん?」
「なぁに? 女の子さん!」
「ぶっ!……」
「ぷぷうっ!!……(笑)」
ルーナの女の子に対しての聞き方もだが、
相手の女の子からも、ルーナと同じように呼ばれ、
ルーナは思わす、吹き出す。
『この短時間で打ち解けるとは、不思議な子だ』
と、サミはルーナにそう思うのだった。
それはともかく、ルーナには感じるものがある。
そう。特に、”女の子”の方にだ。
「んと……女の子さんには、凄い魔術師としての
素質があるように感じるんだけど?」
「「まじゅつひぃ?!」」
「ま・じゅ・つ・し・ね!」
「「まじゅつし?」」
「そっ! 魔術師ってねぇ?
特に魔導具を作ることが得意なんだよぉ!」
「「まどーぐう?! すごぉーい!」」
「そう! 凄いのは君がね!」
「そうなの?」
「うん!」
ルーナには見えていた。
女の子の方から、冒険者ギルドで見たまじゅつし達とは
比べ物にならない程の魔力のオーラが!
そしてルーナは、その女の子に対して、
鑑定魔法でステータスを見てみる。
ピコン!
・⋯━━☆★☆━━⋯・
《マルカ》
性別︰女性
職業︰魔術師
年齢︰5歳
LV︰5
HP︰20/20
MP︰80/80
STR︰2
ATK︰2
DEF︰2
INT︰18
SPD︰3
DEX︰2
MAT︰7
LUK︰8
EXP︰128
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魔法特性︰儀式魔法(5/30)
・⋯━━☆★☆━━⋯・
錬金特性︰魔導具錬成(未覚醒)
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加護 ︰手置帆負命の加護
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称号 ︰木工の達人(未覚醒)
・⋯━━☆★☆━━⋯・
「ん?!……」
ルーナは、女の子のステータスを見て、
先ず、名前が”マルカ”だと分かった。
でもそれより、驚いたのは……
「ぶふうっ!」
「え? どうしたの? ルーナちゃん」
「あ、いやいや、
この子のステータス見てたんだけど、
なんか面白い神様の加護があっからさ」
「え? どんな神様なの?」
「うん! ちょっと今から見てみるね!」
「うん……」
ルーナは、
「手置帆負命の加護」
を、タップしてみた。
ピコン!……フォン!
・⋯━━☆★☆━━⋯・
《手置帆負命の加護》
加護レベル ︰4/30
その他の加護︰家造りの神
(熟練度18%)
︰木工の神
(熟練度24%)
︰ものづくりの神
(熟練度21%)
・⋯━━☆★☆━━⋯・
「んぶはっ!……」
「なに?! どうしたの?」
「いや、だって……
この子、凄いよ もう加護だらけ!」
「ええっ?!」
ルーナとサミは興奮するが、
当の3人家族は、何がなにやら「?」であった。
するとルーナは、突然暴走する!
「マルカちゃん!」
パシッ!
(マルカの肩を掴むルーナ)
「ひぃっ……」
(怯えるマルカ)
「ちょっと、ルーナちゃん 何を考えてるんだ?」
サミが、心配するのも当然。
なにしろサミは、小さい頃からルーナを知ってるいる。
時々、奇想天外な暴走をするところを。
「ねえ……私と一緒に、錬金術を勉強しない?」
「はあぅ……え? なんで私の名前知ってるの?」
「そんなこと、どうでもいいから!
ね、一緒に勉強しよ?」
「ルーナちゃん?!」
「「……?(汗)」」
もう、ルーナは止まらない!
ステータスを見て、マルカには魔術師としての
素質があると知ったルーナは、
”仲間ができた”と思い、嬉しくて仕方がなかった。
ルーナは、いったい何を企んでいるのか?
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ルーナはまた、とんでもない種を蒔いてしまいました。
甘い木。 そして、マルカ。
小さな選択が、やがて世界に波紋を広げるとしたら……?
次回、ルーナの“暴走錬金術師スカウト作戦”はどうなるのか。 お楽しみに。
”ドラーツ”とは、どこかの国の言葉で、”糸”という意味だそうです。
”マルカ”とは、どこかの国の言葉で、”作る”という意味だそうです。




