(19)オジサン幼女、朝食で心が折れる
おはようございます!
今回は、ルーナとサミの朝のひと幕。
異世界の「当たり前」と、
元・日本人オジサンの感覚が、
静かに、しかし確実にズレていきます。
朝食という些細な出来事が、
ルーナの心にどんなダメージを与えるのか……
どうぞ、肩の力を抜いてお楽しみください。
・⋯━☞マイーヤ(ハンドール)☜━⋯・
・⋯━☞宿屋ヤタク☜━⋯・
・⋯━☞ルーナとサミの部屋☜━⋯・
ドンドンドン!
「ひゃあっ!! なに?」
ルーナは、激しく叩く音に目が覚めた。
「ルーナちゃん! 起きて!」
ドンドンドンドン!
「ルーナちゃーん! 起きてよー!」
「はいはい そんなに叩かなくても ほいっ!」
シュン!
ルーナは、のそのそとベッドから降りると、
魔法で作った壁を一瞬で消した!
これは魔法ではなく、魔導具の効果だ。
ただ、マジック・バッグに収納しただけである。
だが、この事案は、この世界の魔女、魔法使い、
として特に”魔導具開発に適した魔術師”の間では
昔から研究対象である。
手に触れずにマジック・バッグに対象物を収納
する事などは、この世界の者にはできないのだ。
でもルーナは、あっさりとできてしまっていた。
これはルーナの中の”オジサン”が、
日本(地球)出身である事が理由として大きいだろう。
日本の学校で習った世間一般的レベルの科学知識や、
この世界の者には無い斬新な考え方や概念によって、
魔法、魔術、錬成に対して、新しい可能性を開いた。
いや、”開いてしまった”と言うべきだろうか。
それこそが、ルーナをチート魔女にした結果なのだ。
しかしルーナは、この事に気づいてなどいない。
「うおあっ?!………」
ドッ!
「きゃっ!」
ドサッ!
「いでっ!」
「きゃふっ! もぉ! 何やってんの?」
「いだだだだっ………(汗)」
サミは、不意に壁が消えたものだから、
振る腕が空振りすると、勢い余って前倒しになった!
………ルーナの上に。
ルーナとサミは、そのままベッドの上に倒れ込む。
サミがルーナをベッドに押し倒す体制になったのだ。
これも、出鱈女神の加護のせいなのか?
「……って、痛くないぞ?」
「ちょっとー! 重たいんだけどぁ~?」
「え? ん? あれれ?」
「で?……いつまで乗ってんの?」
「………いい匂いがする」
「嗅ぐなっ!! 早くどいてぇっ!!」
「ああー! ごめんごめん!」
ササッ…
サミは、やっとルーナの上から離れる。
『ああもぉ…朝っぱらから、
出鱈女神の加護の強制力が全開だな(汗)』
「………(恥)」
(ドキドキドキドキ……)
サミは、顔と耳を真っ赤にして、
恥ずかしさの余り慌てて背を向ける。
この時は、サミの方が乙女っぽかった。
「で、なに? 朝っぱらからなんの用?
私の安眠の邪魔をしたんだから、
それなりの正当な理由がなければ、
ただじゃおかないから!」
「そんなぁ! って、もう”ニの鐘”が鳴ったよ!」
「……にのかね?」
「あれ? 知らなかった?」
「……知らない」
サミの言う、”ニの鐘”とは、
朝、お日様が完全に登った時、
空が明るくなった頃に鳴る鐘の事である。
この世界には”時間の概念”が無いのだが、
この街では、1日に4回鐘がなるのだ。
朝の日の出の頃に鳴る鐘を”一の鐘”。
太陽が完全に登った頃に鳴る鐘を”ニの鐘”。
太陽が真上に来た頃に鳴る鐘を”三の鐘”。
太陽が沈む夕暮れ時に鳴る鐘を”四の鐘”と呼ぶ。
この鐘の事を、”時の鐘”と呼ぶらしい。
”時間の概念”は無いのに、
”時の概念”はあるようだ。
この鐘の音こそが、
この世界の時を告げる唯一の手段なのである。
時を刻む、”時、分、秒”は存在しないのだ、
そんな話をサミから聞き、この日初めて、
”時の鐘”の存在を知ったルーナだった。
「へぇ~そうなんだ?」
「これも知らなかったの?」
「ううっ……」
「あっ、別に知らなかったからって、
責めてなんかないよ!
ただ、意外だなぁ~って思ってね?」
「……ううむ」
『いかん!
サミが俺を疑っている?!
確かにサミよりも歳上の俺が、
時の鐘を知らないなんて不自然だよな?
ヤバいヤバい! どう説明しようか?』
ルーナは、焦った。
血の気が無くなり顔を真っ白にし、
アタフタとうろたえる。
そんなルーナを見て、
今度はサミが冷静になるのだった。
「あははっ! 別に責めちゃいないさ!」
「ふぇ?」
「だってルーナは、今まで魔導具の事ばかり
考えていたんだろう?
この街について知らない事があったって、
仕方ない事さ!」
「!……そう?」
「うんうん!
さあ、下へ降りて、朝食にしようよ!」
「……そうだね」
「………」
(……やっぱり、何か隠してるよな)
そう言って、ルーナとサミは、
荷物を持って部屋を出る。
この時のサミは、そう言ったが、
心の中では、ルーナへの疑問が増えていた。
だが、今は何も聞かない方がいいと思うのだった。
ルーナとサミは、1階に降りて、
カウンターに鍵を返すと、食堂へ向かった。
・⋯━☞宿屋の食堂☜━⋯・
「「「「ワイワイガヤガヤ」」」」
「おおおおー!」
食堂には、人が沢山いた!
昨日は、元々持っていた甘い実を食べたので、
食堂には来なかったのだ。
なので、座る席が無いほどの人の多さに驚いた。
「うわぁ! こんなに客がいたの?」
「ここは、宿屋だけど食堂も兼ねてるからね!
宿泊しない行商人や冒険者たちも、
よく食べに来るんだよ」
「……なるほど」
「それと、ここの料理はなかなかなもんだぜ?」
「ほほぉ? それは聞き捨てならんなぁ?
お手並み拝見といこうか、うぅん?」
「あはははっ! そうこなくっちゃ!」
「ふふん!」
ルーナとサミは、人が減るのを待ち、
空いた席に向かい合わせに座る。
そんな二人を見たウエイターが、
ルーナとサミの席へやって来る。
「いらっしゃーい!
今日の朝のメニューは、”豚の塩焼き”だよ!」
「豚っ?!」
「お~! それは楽しみだ」
「楽しみ?!」
「はーい!」
そう言って、ウエイターは行ってしまう。
『いや待てっ! 豚の塩焼きだとっ!
朝から肉って、重くね?
パンとコーヒーはないのか?』
……と、そう思った。
思わず口を半開きにし、眉間にしわを寄せ、
眉を八の字にしたルーナを見てサミは言う。
「あれれ? 豚の塩焼きは苦手だった?」
「いや、苦手と言うか……
朝からは重いなと言うか……」
「……そっかあ~ごめんね気づかなくて
なんなら、ルーナだけ
メニュー変えてもらおうか?」
「うぅん! いいよ!
これも、経験だよね!」
「……ふぅん なら、いいけど?」
『メニューは変えられるのか』
と、思いながらも、これも経験だ。
どんなものか、食べてみよう。
そして、しばらく待って……
「お待ちどうさま!」
トン!……トン!……
「おお~~~」
(嬉しそうなサミ)
「おお・・・」
(悲しそうなルーナ)
豚の塩焼き。
見た感じとしては、
本当に豚肉を塩で焼いただけ。
他に野菜や付け合せなども無い。
『マジか……』
ルーナは、そう思ってフリーズした。
すると、ウエイターが声をかける。
「ああ、お嬢ちゃん、
このままだと食べ辛いかな?」
「おじょつ……(愕)」
(ショックを受けるルーナ)
「食べ辛いのなら、
お父さんが小さく切ってあげてやってね!」
「お父さんって……」
(あまり嬉しくないサミ)
「では、ごゆっくり~~~」
「「…………(汗)」」
(思わずフリーズするルーナとサミ)
そう言って、ウエイターは行ってしまう。
『誰が、お嬢ちゃんだ!
俺はあんたよりも、ずっと歳上だぞ!!』
などとは、口に出して言えなかった。
だが、何を思ったかサミは……
「た、確かに、少し切った方が食べやすいか?
じゃあ……」
「……」
「よっ……よっと・・・」
ゴシゴシ……
「…………」
(ええ~~~(汗))
サミは、ルーナの豚の塩焼きを、
ナイフで小さく切り分ける。
その様子を、フリーズしたまま、
ただ呆然と見つめるルーナ。
そして、ルーナの豚の塩焼きを切り終えると、
サミは、先に食べ始める。
「ふん……美味い! うむうむうむ……」
「………………」
(うわぁ~~~)
「ふむふむ なかなか 美味いよ?」
「……………………」
(うえぇえぇ~~~)
「うんうん! 塩が効いてきて~」
「…………………………」
(当たり前だろ 塩焼きなんだから
他になんの味が、するってんだ?)
「あれれ? 食べないの?」
「………………………………」
(だから、朝から肉はちょっと……)
この宿屋には、冒険者たちがよく来る。
なので、肉体労働がために、
スタミナのつく料理が自然と多くなる。
それを知った人たちが来る食堂なのである。
「食べるよ」
「うん! 食べてみて?」
パクッ・・・
「うむ…んん…んん…んん……」
「どうだい?」
不味くはない……。
でも、美味いとは正直言い難い。
焼き過ぎで焦げ焦げだし硬いし、
なにより塩が効きすぎである。
朝から肉ってのも、うえ~ってなるのに、
後で胸やけがしそうだし、喉が渇きそうだ。
「……んっく!(飲み込んだ)
塩辛くて硬い……」
「うん! 美味いだろう?」
「……だから、塩辛いってば」
(何を聞いてんだお前?)
「あれれぇ? そう?
その塩が効いていて
美味いと思うんだけどなぁ?」
「……そか」
(サミが美味いと思うなら何も言うまい)
なんだか、ガッカリした。
ルーナは、決して肉が嫌いな訳ではない。
いや、むしろ好きな方である。
『肉は好きな方だけど……
これは、ないわぁ~~~(汗)』
そのうちに、サミに本当に美味い肉料理を
食べさせてあげようと思うルーナだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
異世界では「普通」でも、
こちらの感覚では「それは無理……」
そんな小さなカルチャーショックのお話でした。
朝から塩辛くて硬い肉。
しかも幼女扱いされるオジサンの心情。
これは、なかなかの精神攻撃です(汗)
次回も、ルーナとサミの
少しズレた日常が続きます。
よろしければ、またお付き合いください。
感想など、よろしくお願いしますね!
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