(16)街は楽しく、門は厳しく
マイーヤ到着です。
とはいえ、楽しい街歩きの前には、どうしても避けられない“お約束”がありまして……。
今回は、そんな街の入口でのお話です。
次回はいよいよ、あの場所へ――。
乗合馬車の全員分のクッションを作り、
馬車の旅は少しは快適になったと思う。
と、言うのは、まだ完全とは言い難いからだ。
なぜなら、いくら硬い座席にクッションを設置し、
座り心地は良くなったとは言え、やはり完璧とは言えない。
車輪の回転部は、台車に直接設置されていて、
サスペンションなど無いので、地面からの衝撃が、
ダイレクトに台車に伝わるのだ。
それに、舗装されていない道を行くのだから、
揺れを完全に吸収する事は不可能である。
なので、クッションを敷いて座っても、
台車の揺れまでは、どうしようもない。
それでも、かなり改善はできたと思う。
お尻も痛くはなくなったし、腰も随分楽になった。
でも、手摺や肘掛なども無いので、
一言で、「快適!」とは言えなかった。
でも、クッション無しのまんまで、4日も揺られるのは、
今ではもう考えられない。
サミは、クッションが小さすぎるせいか、
あまり座り心地がいいとは言えなさそうだったが。
あれから、2日が経った。
時速で言えば、5~6Kmほどであろうか。
人の早歩き程度の速度だった。
でも今は、以前より少し速く走れるので、
ママチャリでボチボチ走る程度。
倍ほどの速度で走る事ができたと言うことだ。
その分、休憩もしっかりとれたので、
他の皆も、”楽だった”と言ってくれたので御の字だ。
でも、日本での暮らしが長いルーナにとっては、
できる事なら、もう乗りたくないものである。
確かにクッションを使う前に比べたら、
かなり楽にはなった方だとは思うが、
サスペンションの着いた自動車の乗り心地を知る
ルーナにとっては、お世辞にも”楽”とは言えないのだ。
とは言え、あれから魔物に遭遇する事もなく、
また、盗賊などにも出くわさなかったので、
良かったと言うべきか。
そして…
「おお、見えてきたよ!」
「「「「!!…」」」」
と、御者が言う。
ルーナは、座席から降りて、
御者の座る真後ろの開口から外を覗く。
「おおおっ! すんごい長い壁っ!」
「あははっ! お嬢ちゃん、マイーヤは
初めてなのかい?」
「うん! そうだね」
「えっ? ルーナちゃん、
マイーヤには、お姉さんのシリルさんと
何度も来た事があったよね?」
「あっ! そ、そう…だったわね
あははっ…あはははっ…(焦)」
「はは 相変わらずだなぁ~ルーナちゃんは?」
「うぅん! サミと一緒に来るのが初めてなの!」
「あ、そうだね!
せっかくマイーヤに来たんだから、
2人っきりで、お茶でもしようよ?」
「別にいい」
「ええ~~~ん? つれないなぁ?」
「…」
「「「「あははははっ」」」」
『おおうっ! ヤバい! ヤバい!
また、やらかすところだった!
しかし、元のルーナの記憶が一つも無いのは、
下手な事が言えないから、気が抜けないよ
マジで、やりにくいなぁ…』
と思い、できる事なら、マイーヤでは、
ソロで活動したかった。
でも、女の子1人で大きな街を歩くのは危険だと、
護衛もかねて、サミが付くのが条件だから仕方ない。
でも俺、55歳なんだが?
と、ツッコミたくなる。
乗合馬車でも、おばあちゃん以外は、全員歳下。
サミだって、実年齢は知らないけど、
たぶん、まだ20代半ばってところだろう。
それより…
サミは、俺の実年齢を知っているのだろうか?
でも、今更聞けない事ではある。
いや、たぶん自分よりも歳上なのは知ってるはず?
以前にも、サミが俺と知り合った頃から、
俺はあんまり変わってないと聞いた事があるから。
そりゃそうだ!
俺は、魔女なのである!
この世界では、魔女は人よりも長寿である。
聞いた話では、随分と長生きな魔女には、
800歳を超える魔女も居るんだとか?
それは、村でも知られていたこと。
当然、それはサミも理解しているはずである。
と、なると、俺はサミよりも歳上だとしても、
サミが先に、居なくなる…のか。
それはそれで、なんだか寂しいな…
「考えないでおこう…」
「え? 何が?」
「なんでもない…」
「ふぅん?」
いかん! 思わず心の声が口に出てしまった。
何時からだろう?
こんな事を、考えるようになったのは。
だが、まだまだ人生は…魔女生は長い!
今から考える事ではない。
そう。今は今を楽しまなければ!
そんな事を考えてるうちに、乗合馬車は
街の門に連なる列の最後尾に到着。
「どぉ! どおー!」
「グワァー!」(ライド・リザードの鳴き声)
「結構、並んでるね?」
「だな…」
そう御者と話していると、
乗合馬車の座席で、ルーナは何度か視線を感じた。
行商人らしき男が、遠慮がちに荷台と御者席を見比べている。
「…あの御者さんの馬車、少し変わってませんか?」
「気づいたか。普通はあんな造りじゃない」
「…(笑)」
(ニヤける御者)
御者を後ろから見ていたが、
他の人たちの会話を聞いたからか、
御者は背筋をピン!と伸ばす。
『どうだ? いいだろう?』
と、まるで、気取ってるかのように。
『なにやってんだか…(呆)』
そう心の中で呟くルーナだった。
市門が見えてきた頃、御者がふと前を見て言った。
「今日は、やけに列が短いな」
「へえ、そうなんですか?」
「普段なら外郭まで並ぶ。
市の日が近いと、行商と職人で溢れ返るんだが…」
御者は肩をすくめた。
「最近は身分改めが厳しくてな。
面倒を嫌って、近づかん者も多い」
「そうなんだ…」
そして、やっと門前にまでたどり着く。
衛兵が馬車を止め、淡々と告げた。
・⋯━☞門前☜━⋯・
「外来商人は、商人札の提示を」
「へっ?…商人札?」
ルーナは、慌ててポケットや
ウエストポーチの中を探る。
実はルーナは、マイーヤで商人登録をしていた。
門番の衛兵は、ルーナの顔を覚えていた。
なので、ルーナに向かって、商人札の提示を求めたのだ。
なぜなら、ルーナの姉のシリルは、大魔女になりうる
優秀な魔女として有名であり、ルーナもその妹として、
マイーヤでも、知られていたのだった。
だが今のルーナは、自分が商人だったなんて知る由もない。
なので、自分が商人札を持っていたなんて知らなかった。
だから、探しても見つかるはずがなかった。
「はあ? お嬢ちゃん、商人だったのかい?」
「えっと~~~みたいですね(汗)」
「じゃあ、商人札は?」
「…忘れた?」
「えええっ?! ってか、なんで疑問形?」
「おいおい、どうするんだよルーナちゃん!」
「どうするったって…(焦)」
すると門番の衛兵は、こう言う。
「では門詰所へ。 仮通門札を出す」
「…はい(汗)」
ここで、ルーナとサミは馬車を降りた。
そして、詰所へと連れられる。
・⋯━☞門前詰所内☜━⋯・
詰所の中は、木机と帳簿、壁には街紋。
いかにも異世界感があり、少し興奮した。
でもなぜか既視感がある。
もしかすると、ルーナの記憶の奥底に残っているのだろうか?
「では、その椅子に座って…」
「はい…ええと…
えっ?! 日本語?!」
「ん? どうした?」
「ああ、いえ…」
ルーナは、驚いた。
衛兵がルーナの個人情報について書こうとするその紙には、
日本語で書かれていたのが見えたのだ。
そう言えば、この世界の文字を見るのは初めてだった。
この世界へ来て、日本語で話せたのも驚いてはいたが、
まさか文字までも日本語だなんて…
まあ、これも異世界転生ものの、あるあるだな。
それより、紙はあるんだな。それも驚きだ。
異世界あるあるでは、羊皮紙が出てくると思ったのに。
ま、これもこの世界の常識ってことで…
そう思い、無理やり納得する事にした。
名前、来訪目的、滞在日数。
事務的な問いが続く。
「名前は、”ルーナ”だったな?」
「る…はい、そうです」
(知ってるのかよ)
「で、今回の来訪目的は?」
「え? ああうん、ええと…
商業ギルドと、冒険者ギルドにちょっと」
(この街のゴミ捨て場に用があるなんて言えない)
「ふむ…」
「…」
(あれ? もっと、詳しく聞かないんだ?)
「仮通門札だ。日暮れまで有効だ。
商業ギルドで再登録を済ませろ
失くすなよ? 再発行には小金額1枚だ
払えなければ罰として、1週間鉱山行きだ、いいな?」
「?!…はい わかりました(汗)」
(うえええええ~~~やだあ~~~)
「もう知ってはいるとは思うが~
街中での攻撃魔法の発動は禁止だ」
「も、もちろん承知してますですハイ!」
(攻撃魔法は覚えていません)
「商業ギルド並びに冒険者ギルド内でも、攻撃魔法の発動、
また正当な理由なき抜刀、人情沙汰は御法度だ」
「はいです」
(わかってるっちゅーねん)
「それから…」
「…」
(まだあるのかよ…)
「うんたらかんたら~~~」
「……」
(ああこれ、校長先生の能書きみたいなやつだ)
「ペラペラペラペラ~~~」
(もう勘弁してえ~~~)
………
……
…
やっと解放されたようで、
永遠とも思えるほど、
形式的な説明を聞かされた気分だ。
ルーナは、詰所を出ると伸びをする。
・⋯━☞詰所前大通り☜━⋯・
「んん~~~」
「お疲れ様だったね」
「まったくだよ 私が悪い事をしたみたいに、
あれこれ聞かれてさぁ~ 嫌になっちゃうよ」
「あはは、まあまあ!」
「ふん」
なんだか、幸先が悪いな…
このまま、何事か問題がなければいいけど。
せっかくの街でウキウキ気分だったのに、
出端をくじかれた気分だ。
「うううう~~~」
「あっはっはっ! そんなにむくれないで?
ほら! 商業ギルドに行くんじゃなかったの?」
「うん いく」
「なら、行こうか!」
「…うん」
石造りの建物が並び、行き交う人々の声が混ざり合う。
行き交う人々には、ルーナは父親に宥められる子供に見えた。
するとそこへ…
カッポ カッポ カッポ カッポ
ガラガラガラガラガラガラガラガラ
「ほら! 危ないよ!!」
グイッ!(ルーナを強く引っ張るサミ)
「きゃあ!!」
「道路の真ん中は馬車が走るんだから俺よりコッチへ!」
「お、おお…(汗)」
(ドキドキドキドキ…(焦))
突然、サミに服の肩を掴まれて強く引かれたので、
めちゃくちゃドキっとした!
思わずサミの腰にしがみ付くルーナ。
するとすぐ側を馬車が走るので、マジ怖かった(汗)
「クスクスクス…(笑)」
(道行く女性のクスクス笑う声)
「…(恥)」
(思わずフードを深く被るルーナ)
「可愛い♡」
(道行く少女の声)
「…(怒)」
『何だこれ?
まるでサミの方が、歳上みたいじゃないか!
まさか俺が歳下に見られてるんじゃないだろうな?
いや、子供に見られてる?
ムッキーーー!!』
なんて、心の中で叫んでいた。
ルーナは、サミの腰に掴んでいた手をパッと放し、
サミとは少し離れて後ろを歩くのだった。
サミが後ろを振り向くと、顔を赤くして頬を膨らませ
下唇を突き出し拗ねた顔でそっぽを向いて歩くルーナ。
そんなルーナを見て、可愛くて可笑しくて微笑ましく思うサミ。
「あれぇ? なんで怒ってるの?」
「なんでもなぁーいっ!!(怒)」
「ぷぷっ…はいはい(笑)」
「なんで俺が…・ぶつぶつぶつ」
「ぶぶっ!…クスクスクス(笑)」
そんなルーナが可愛く仕方がなくて今後が楽しみなサミ。
だがルーナは、前途多難な気がするのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
馬車旅も終わり、いよいよ街編に突入しました。
ちなみに「シリル」という名前は、
どこかの国の言葉で「尊敬」という意味だそうです。
次回は、冒険者ギルドでちょっとした……いえ、
ちょっとでは済まない出来事が起こります。
どうぞお楽しみに。




