(14)ルーナ、座り心地を革命する
今回は、ルーナの発明回です。
剣でも魔法でもなく、
ちょっとした工夫が生んだ便利アイテム。
どうぞ、ゆるっとお楽しみください。
ルーナは、サミが刈り取ってきた草に、
両手の平を向けて突き出して、
草を空間魔法で包み込むように発動する。
フォン! ブウゥウゥウゥ~~~ン
「んなっ?! なんだコレ?」
「「「「!…」」」」
すると、草の周囲の空間が透明で巨大な
半球形のシャボン玉が包むように見える。
それは、実際にシャボン玉があるのではなく、
シャボン玉があるかのように、半球形の
ドーム状の空気の歪みの輪郭が見える状態だ。
「なんだコレ?! なんだコレ?!」
「ちょっと、うるさいっ!
集中できないでしょおっ!」
「!?…す、すまない(汗)」
「んんんんんん~~~」
更にルーナは、意識を集中する!
ルーナがこの時、何をしていたかと言うと、
ドーム状のシャボン玉のような空間の空気を抜いて、
中を真空に近い状態にしていたのだ。
「よしよし! このまま このまま」
「おお…おおおお…」
「「「「おおおお…」」」」
見ると、草がみるみるうちに、しおれていく!
「うわっ! 草がっ! 草がしおれていく!!」
「「「「おおおおお~~~!」」」」
「しぃーっ!! 静かにっ!!」
「あうっ!」←(慌てて口を塞ぐサミ)
「「「「!!…」」」」
そしてしだいに、半球形のドーム状の中が、
薄らと濁るように白くなっていく。
それは、草の中の水分が水蒸気のように出たからだ。
最後には、中が見えなくなるほど真っ白になった。
気圧が低くなると、沸点も低くなり、
草の中の水分が蒸発しやすくなるのだ。
蒸発した草の水分が水蒸気となり、
半球形のドーム状の空間の中が、
水蒸気で満たされて白くなるのだ。
そして半球形のドーム内の気圧が、
外気よりもかなり薄くなった頃、
今度はパアッと雲が晴れるように
透明になっていく。
空気が薄いせいか、水蒸気も水の粒だ。
浮いていられないのだろう。
そこでルーナは、空間魔法を解除!
その瞬間!
「解除っ!!」
バシュン!
「うおおっ! なんだなんだ?!」
「「「「!!…」」」」
ルーナが”解除”と叫んだ瞬間に、
ドーム状の空間魔法が解除され、
解放された水蒸気が大きな音を立てて
爆縮したかのように一瞬で縮む!
その瞬間に、周りの大気が一気に集まるので、
大きな音がしたのだ。
そして今度は広がり、風に流され、
大気に拡散され、やがて消える。
そこで、草の状態を確認するルーナ。
「うぅん…まだ乾燥しきれてないな?
なら、もう一度!」
フォン!…ブウゥウゥウゥ~~~ン
「おおっ…」
「「「「!…」」」」
ルーナは、もう一度先程の工程を繰り返す。
そして2回目には、草はカラカラに乾燥していた。
「うん! 上手くいった!」
「ど、どういうことだ?
完全に草が枯れてる…」
「「「「…」」」」
「ルーナちゃん! これはいったい?」
「ええ~~~と…ちょっと説明が(汗)」
「ふぅん?」
「「「「…」」」」
この現象は、ルーナが日本人のオジサンだった頃、
テレビで観た、”真空乾燥”と呼ばれる手段だ。
だがルーナは、その原理をなんとなくだが頭では
理解しているが、自分の言葉だけで説明は難しい。
なぜなら、ここは異世界である。
せめて、小学生の理科程度の科学知識があるなら
ルーナにも説明ができるのだが、
科学知識の、かの字も知らない人たちに、
この世界にしかない言葉だけで説明などは、
できるはずがなかった。
お釈迦様の気持ちが少しだけ分かる気がした。
お釈迦様は、瞑想することでトランス状態へと入り、
いわゆる”幽体離脱”することで、
自分の生きる世界を客観視できた。
そして”この世は仮想現実”だと知る。
現実だと信じていた世の中が、実は幻だと知ってしまったのだ。
それを後の世で、”悟り”と呼ばれることになる。
お釈迦様は悟りを開いたとき、自分が見た世界の真理を
人々に伝えようとしたが、当時の言葉では説明しようがなく、
「言葉だけで伝えることなど到底できない」と嘆いたという。
――知らない概念を、知らない人に説明する難しさ。
今のルーナもまさにそれだった。
真空だの気圧だの、そんな言葉を知らない人たちに、
どうやって説明しろというのか。
『無理無理無理! 説明できるわけないって!』
心の中で、ルーナはお釈迦様に全力で共感していた。
「ごめんね これは、俺…私にも、
よく解らないんだよね…(汗)」
「そう…なのか?」
「「「「…」」」」
『マズイ!
これ以上突っ込まれたら、
俺が、この世界の者ではないと勘ぐられる?
そればかりか、異端者として排除される?』
ルーナは、心底ビビっていた。
さて、どうこの場をくり抜けるか?
すると…
「まあ、ルーナちゃんらしいよね!」
「へ?」
「どうせコレも、お姉さんの
シリルさんに教えてもらったんだろう?」
「そ、そうだったかな…(汗)」
(記憶が無いから分からない)
「そうだよ!
シリルさんは、シッカリ勉強して
失った腕さえも再生するような
とんでもない回復薬だったのに、
なぜがルーナちゃんが作ると、
゛若返りの薬゛になっちゃったよね!」
「ええー! そ、そうだっけ?」
(覚えが無いから分からない)
「シリルさんも呆れてたよね?
歴代の大魔女ですら、若返りの薬なんて
作れなかったと言うのに、肝心のルーナちゃんは、
偶然にできちゃっただけだから
自分でも解らないって言うんだもん!」
「あはは…そう…だねえ(汗)」
(分かる訳ねぇー!)
下手に変な返事ができないものだから、
ルーナは、そう言うしかなかった。
「ほら、今回だってそうだろう?
とんでもない事をやっているのにさ、
当の本人は、”わからない”って言うんだから」
「そう…ねぇ…(汗)
記憶に御座いません。(政治家風~)」
なんだかよく分からないが、
どうやら都合よく解釈してくれたようだ。
それなら、その解釈に乗っかる方が無難だろう。
「とにかく、この袋に枯れ草を入れてくれる?」
「ああ、わかった」
「「「「…?」」」」
サミを始め、誰もルーナが何を作ろうと
しているのか、分からなかった。
”クッション”とは聞いていたが、
クッション自体、ここに居る誰もが
どういう物なのかを知らないのだ。
「よしっ! これだけ入ればいいかな?
んじゃ、この口を糸で塗ってしまおう!」
「おおおっ…」
「「「「…!」」」」
ルーナがそう言うと、手に持っていた糸が、
針も無いのに、まるで生き物のようにジュルジュルと
袋の口の部分を縫い付けられていく。
プツン!
「さ、これでオーケー!」
「…これは?」
「クッションだよ!」
「くっしょん???」
「「「「…???」」」」
「これを…こうして…
ほら、お尻の下に敷いて座って?」
「ん? こ、こうか?」
「そっ! どう? 座り心地は?」
「ほおおっ! なるほど!
これなら長時間座っていても、
ケツが痛くならないかもな!」
「でしょお~~♪」
「「「「おおおお~~~!」」」」
パチパチパチパチ!!
思いがけない便利アイテムの誕生に、
皆が一斉に拍手!
やっと、ルーナの作りたかったモノが形となり、
皆が、そのクッションとやらの用途を理解した!
一見、ただの分厚い座布団である。
でも、座布団にしては大きすぎる。
尻から、ふくらはぎまであるのだ。
だが、サミはすぐに理解した!
「これはいい!!
ケツだけの1点で座ると痛くなるが、
こうやって、ケツからふくらはぎまでの、
広い面で座ると痛くならないのか!」
「そーゆーこと!」
「「「「おおおお~~~!!」」」」
パチパチパチパチ!
ようやく、皆がルーナの作るものが何か、
また、どういうモノなのかを理解したのだった。
だが、これで終わりではなかった。
「でも! それで完成じゃないよ?」
「まだ完成じゃないの?!」
「うん! これからだよ!」
「おお…そうか」
「「「「…」」」」
ルーナは、先程作っておいた板の枠を取り出した。
木の枠には底があり、見た目は四角い盆である。
そしてその枠の中に、クッションをはめ込む。
クッションの厚みは、30cmはあるだろうか。
でも木の枠は、15cmほどしかなく、
木の枠からクッションが飛び出ることになる。
そして、木の枠の底の裏には、
滑り止めとして、厚めの柔らかいシートが、
貼り付けられている。
これも、ルーナが村のゴミ捨て場で見つけた、
ラバー・スライムの死骸から作った、
ゴム・シートのようなモノである。
ラバー・スライムとは、”スライム”と名前が付くが、
厳密には、全く違う種族らしい。
スライムのように、ウヨウヨ動くところから、
ただ、そう呼ばれているのだとか。
また、ラバー・スライムの外皮は、タイヤ程度の
硬さがあり、魔物の皮に次ぐ防具の素材としても
よく使われるのだそうだ。
とにかく、イメージした形としては完成だ!
これなら、木製の四角い座席に載せるだけで
簡単にクッションの設置ができるだろう。
ルーナは、更にもう1つ作った。
せっかく長方形のモノも作ったので、
それを座席部分に固定して、
背もたれとしてセットした。
「おおおお~~~! これは楽チンだなぁ!」
「でしょお~~~♪
じゃあ、悪いけど馬車の中に運んでくれる?」
「お? お、おお…おんせっ!」
流石は、男の子!
構造上、かなり重くなったクッションを、
サミは軽々と持ち上げ、馬車の中へ運んだ。
••✼••馬車の中••✼••
「どっせい!…と」
ゴトン!
「これで、いいかい?」
「うん! 完璧!!」
「「「「おおおお~~~」」」」
サミは、ルーナの指示通りに、
クッションを馬車の座席へ乗せた。
早速、ルーナは座ってみる。
「うおおっほほほっ! これは楽だわ!」
「…そか」
「「「「…」」」」
「…ん?」
ルーナは、皆の視線に気づく。
まるで死んだ魚のような物欲しげな眼差し。
いたたまれない…
そんな中、特に、おばあちゃんが気になった。
他の皆は、それほど年老いてはいない。
いや、むしろルーナよりは歳下であろう。
とは言え、ルーナの肉体年齢は、
人間にすると、10~12歳ていど?
この中で、一番クッションが必要なのは、
必然と、”おばあちゃん”となる訳で…
「…おばあちゃん、コレ使う?」
「おや、いいのかい?
でも、せっかくアンタが作ったんだろう?」
「いいよいいよ! また作ればいいんだし!」
「そうかい? ありがとうねぇ~」
「じゃあサミ?」
「わかってるさ! どっせい!!」
サミは、おばあちゃんが座る位置に、
クッションを設置。
ついでに、肘掛もオマケに付けてあげた。
おばあちゃんは、この上ない笑顔で、
何度も何度も、サミに、お礼を言うのだった。
他の皆も、物欲しそうにサミを見ていた。
そして、なぜだか得意げなサミ。
『作ったの、俺なんだけどなぁ…』
そう、心の中でツッコミを入れたのは、
黙っておく、ルーナだった。
クッション回でした。
地味だけど、あったら嬉しい。
そんなアイテムを作らせてみました。
次回も、少しずつ異世界生活が便利になっていきます。




