(1)魔女の帽子が降ってきた!
この物語は、
「便利そうだから作った」
「なんとなく拾った」
「暇だったからやってみた」
そんな軽い動機が、なぜか大事件に発展していくお話です。
見た目は幼女。
中身はどこにでもいそうな、くたびれたオジサン。
本人は至って真面目に生きているつもりなので、
周囲がざわついても、だいたい首を傾げるだけです。
肩の力を抜いて、
「なんだこれ?」と笑いながら読んでいただけたら嬉しいです。
ふと気がつくと、俺は空を見ながら草むらで仰向けになって寝転がっていた。
どう考えてもおかしいのに、その時の俺は「まあ、たまにはこういう夢も見るか」と妙に冷静だった。
春なのか初夏なのか、そよ風がとても気持ちよく、土と草の匂いが心地よい草原だった。
ここは何処だろうか? 空気がとても美味い。
少なくとも日本ではなかった。
『はて? 確か自分の部屋で寝ていたはずなのに…』
と思ったが、これは夢だと思うことにした。
そして、雲ひとつ何も無い青い空に、一粒の黒い点が浮いていることに気がついた。
「うん? なんだアレ?」
それは、フラフラと左右に揺れていて、段々と大きくなってくるようだった。
どうやら自分に向かって何かが落ちてくるようだと気づいた。
「なんだろ…ここへ落ちてくるのか?」
なにやら得体の知れないソレは、黒く丸い円盤のようにも見えた。
俺は、そのフラフラと落ちてくる物が、自分に当たると思って避けようと体を起こそうとした。
風に土や草の匂いは感じるし体の感覚もある。
なのに、なぜだか体は金縛りのようにピクリとも動かなかった。
そして…
パフッ!
「うわっぷ! ちょっ! なんだよおい!」
それは、俺の顔に覆いかぶさった!
その瞬間、目の前が真っ暗になるが体が急に動くようになった。
俺の顔に覆いかぶさっていたソレは重いものではなく、革製のとても軽いものだったので、痛みや衝撃などはほとんど感じなかった。
そして、それを掴んで顔から剥がして体を起こしてみた。
するとそこは草原ではなく、見知らぬ古ぼけた木造の小屋のような狭い部屋の中のベッドの上だった。
「?!…え?」
その光景は、まさに小屋!
所々すきま風が入る割れ目があり、素人が創ったかのような木造の小屋であった。
「なんだここ ボロポロじゃねぇか!
うっぷ! しかし、すんげぇ臭いだな」
俺は思わず、鼻を手で塞いだ。
小屋の中は、まるで漢方薬や茶葉や色々な花が混ざったような、鼻につく強烈な匂いが充満していた。
壁には薬草なのか乾燥させた草花が掛けられている。
木製のテーブルの上には、栄養ドリンクほどの小さな空のガラス瓶や、陶器製の皿たちの他に、何に使うのか分からない器具たちが乱雑に並べられている。
それに、バイブルのような分厚い本。魔導書だろうか?
壁際にある釜戸には大釜が乗せられ、その大釜からは白い湯気が立ち上っている。
壁から天井の煙突へ続くダクトらしきものには長い年月も使われていたことを物語る煙の跡がある。
釜戸の後ろの壁には大きなしゃもじや、かき混ぜ棒の様な物が何本も掛けられている。
ほんの少し前まで、ここで何か魔法薬らしきものを、精製していたのを物語っていた。
自分が居るベッドのすぐ側の窓の外には、ビルなどの近代的な建物や電線や電柱などはまったく見当たらない。
車や電車バスなどの乗り物なども何一つも見つけることはできず、人々はまるでスイスの民族衣装のようなカラフルな服を着て畑仕事をしている。
お日様は既に高く登っている。もう昼前頃だろうか?
その他には、ただ畑と草原と遠くに山々が見えるだけ。
それだけでも、ここは令和の日本だとは思えない。
そう、異世界だと思わせる風景が目の前に広がっていた。
それだけでも驚きなのに、自分の手を見てまた驚いた。
「ここは…何処なんだ?
はあ?! な、なんだこの手…
小さい…まるで子供のような?
って、なんだこの声?!
ってか、これ帽子?
魔女の帽子みたいな…」
そうなのだ。空から降ってきて俺の顔にかぶさったものは、魔女が被るような大きな丸いつばで頭の先がとんがったエナン帽だったのだ。
そして俺の着ている服は、真っ黒なワンピース?
まるで有名な日本アニメの「魔女の配達屋さん」の主人公が着ているようなソレだった。
それに、小さな手には先細りの細い指。
五十を過ぎたオジサンのガサガサなゴツイ手指などではなかった。
そして声もまるで子供と言うか、少女の声そのものだった。
俺は、自分の顔を確認したくなり、小屋の中で鏡を探してみた。
「そうだ鏡! 鏡はどこだ?」
バタバタ!
俺は、ベッドから降りると、小屋の中で鏡を探してみた。
鏡はすぐに見つかった。
壁にヒビの入った古い鏡があったので覗き込んでみた。
「?!…だれ?」
鏡に映ったその顔は、小学生の高学年くらいの、とても可愛らしい女の子だった。
背中まで長く伸びて、しなやかな綺麗な黒髪。
大きな二重の、血のように赤い瞳。
ちょんと、つまんだような小さな鼻。
少し厚みのあるプルプルな唇。
ほんのり赤く染まった柔らかなプニプニ頬っぺ。
華奢で頼りなく小さな肩。
自分でも、思わず抱きしめて頭を撫でたくなるような、可愛らしい少女が鏡の中に居た。
「マジかよ…」
これは夢か現実か?
それを確認する方法とは…
テンプレだが、自分の頬をつねってみた。
「あいっ!…痛い?
夢じゃない…のか?」
俺は、オジサンだったはず。
なんの取り柄もなく、人に自慢できるような功績もない、そこら辺に転がっている小石のような普通の五十過ぎのオッサンだった。
これがもし現実ならば、どうやら小さな可愛い女の子になってしまったようだ。
ならば、こんな状況からして、ここは異世界なのだろうか?
「はは…中学生の孫が居てもおかしくない歳のオッサンだったのに、今の俺はこんなにも小さな少女かよ?
うん! やっぱり、これはきっと明晰夢ってやつだな。
それより、魔女の帽子に、魔女の黒服…
やっぱり魔女っ娘なのか?」
などと独り言を言っていたら、唐突に扉が開かれた。
ドタン! バァン!
「きゃあ!!」
突然の大きな物音に驚き飛び跳ね、思わず女の子のような悲鳴をあげてしまった。
俺の小屋にやって来たのは、今の俺と同年代くらいの少年だった。
「魔女さぁん!! もう起きたあ?」
「へ? あ、う、うん…え? ま、魔女さん?」
「昨日、頼んでいたポーション、もう出来てる?」
「うぇ? ぽ、ポーション? え? ええ?」
「…え?」
俺も少年もほぼ同時に、目をまん丸にして互いの顔を見合せて首をかしげた。
このとき、俺も少年も「?マーク」が頭の上に浮かんでいたと思う。
それもそのはずで、俺には、この少年とポーションを作るなどと約束した覚えなどはないからだ。
それに、この少年が誰なのか名前も知らないのだ。
それどころか、今の俺は自分の名前すら知らないのだから。
さて、どうしたものか…。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第1話は、
「あ、これは普通の転生じゃないな」
と感じてもらえたら成功です。
この先、主人公は
自分では大したことをしていないつもりのまま、
周囲の評価だけが勝手にインフレしていきます。
次回から、
剣と魔法とゴミ捨て場(?)が、
少しずつ本気を出してきますので、
よろしければお付き合いください。




