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ギャルとりんご飴

「たっけるぅ~~~~~~~~♡♡♡」


玄関が開いた瞬間、勢いよく現れたウメコは、見慣れない姿だった。

ピンクベースに白い花模様の浴衣。髪は高めのお団子でまとめ、うなじがちらりと見えている。

なぜか手には、ギラッと光るラメ入りのうちわを持ち、草履をカラコロ鳴らしていた。


「どうよ! ウメコの浴衣ギャルスタイル♡」


「……似合ってるけど、すっごい派手だな……」


「わかるぅ〜〜〜♡ ギャル魂、浴衣にも全開っしょ♡」


見た目こそ完全に“夜の原宿から来ました”って感じだけど、

彼女の浴衣姿には、なぜかちゃんと風情がある気がした。


「タケル、今年の祭り、いっしょ行こって約束してたよね♡」


「したっけ?」


「ウメコ的にはしたっしょ♡♡♡」


そんなわけで、ウメコと2人で地元の夏祭りへ向かうことになった。



---


田舎の神社を中心に開かれる小さな夏祭り。

でも屋台はそこそこにぎわっていて、子どもたちの歓声や太鼓の音が夜に溶け込んでいた。


「うわ〜〜〜〜! りんご飴あるぅ〜!!♡ タケル見て見てっ♡♡」


ウメコは嬉しそうに小走りして、りんご飴の屋台に駆け寄った。

大粒の赤い飴が、透明なカラメルでつやつやと光っている。


「ウメコ、それ好きだよな」


「タケルが昔くれたやつ、初めて食べたの♡ ウメコ、それで完全にハマったの♡♡」


そう言って、袋入りのりんご飴を両手で抱えるように持つ。


「ほらっ♡ タケルもひとくち食べる?」


「いや、いいよお前のだろ」


「ちがうよ、タケルと食べるからおいしいんだよ?」


そんなウメコの言葉に、ちょっとだけ胸が熱くなる。


2人でひとつのりんご飴を回し食べしながら、屋台を見てまわった。

金魚すくいではすくいすぎておじさんに怒られ、射的では「これ才能あるかも♡」とか言いながら全外し。

それでも、楽しそうに笑うウメコに、僕もつられて笑ってしまう。


「タケル、あれあれっ♡ 花火打ち上げるって! いい場所行こっ♡♡」


手を引かれて、神社裏の丘へ登る。

あたりには誰もいなくて、草の上に並んで腰を下ろした。


夜風が心地よくて、遠くの町の明かりがちらちらと見える。

そして、ドン、と一発目の音。


夜空に、色とりどりの花火が広がった。


「わぁ……♡ やっぱ花火って、エモいっしょ……」


「エモいって、何が?」


「ウメコの中の“人間の夏”って感じ?

消えちゃうし、切ないけど、めっちゃきれいで、ちょっと泣きたくなるような……」


「……珍しく真面目なこと言うな」


「タケルがいるからだよ?」


ふいに、ウメコがこちらを向いた。

浴衣の裾が揺れて、夜の風がふわっと髪を持ち上げる。


「ねえタケル。……この夏も、一緒にいてくれてありがとね♡」


「……何だよ改まって」


「んー。なんか、言いたくなっただけ♡」


花火の音が空に響くなか、

ウメコは僕の肩にもたれ、りんご飴の棒だけになった袋を握りしめた。


「また来年も、再来年も、ウメコはここで待ってるから。

だからタケル、ちゃんと来てね?♡ 絶対、来るって約束♡」


その声はいつもの冗談めいた調子だったけど、

なぜか胸に深く残った。


肩に寄りかかる重みと、火薬の匂い。

夏の夜の中で、僕は少しだけ、大人になった気がした。

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