ギャルと金縛り
夜中、ふと違和感で目が覚めた。
……と言っても、完全に目を覚ましたわけじゃない。
頭の中はぼんやりしていて、夢と現実の境目みたいな感覚。
――なんか、おかしい。
うまく息が吸えない。
いや、吸えるけど、なんだか胸が圧迫されてるような。
何よりも――
身体が動かない。
「……う、動け……ない……?」
意識ははっきりしているのに、手も足も、びくとも動かない。
目もかすかにしか開かず、周囲がうっすらと見える程度。
まるで、見えない何かに押さえつけられているような。
金縛り――だろうか?
薄暗い部屋の中で、畳の匂いと外から聞こえる虫の声だけが頼りだった。
……そのとき。
「……すぅ……ん……ふぁ……」
微かに聞こえる寝息。
――近い。耳元で聞こえるくらい近い。
そして、のしかかるような重み。
胸のあたりに、なにかやわらかくて、温かいものが触れていて……。
目を凝らすと、うっすらと見えた。
――金髪に近いピンク髪。麦わら帽子じゃない、寝癖つきの。
「…………ウメコ……?」
僕の上に、ウメコが乗っていた。
正確には、仰向けに寝ている僕に、正面から抱きつくような格好で、すやすやと眠っていた。
顔は胸元に埋まって、両手は僕の身体をぎゅっとつかんでいる。
太ももが絡まってて、体重が完全に僕に預けられていて――
この金縛り……ウメコのせいじゃん。
「……お、お前……」
声も出せず、ただ呼吸だけでウメコの温もりを感じる。
やわらかくて、甘くて、ちょっと汗ばんだ、夏のにおい。
しばらくして、ようやく指が動いた。
そっとウメコの肩を突こうとする……が、
「ん〜……たける〜……んふぅ……♡」
……めっちゃ笑顔で寝てた。
しかも、しっかり僕の胸に顔をすり寄せてるし。
こっちは目も開けられない金縛りなのに、
原因はまさかのギャル妖怪の添い寝スタイルだった。
「……お前、寝てるときまで自由かよ……」
ようやく動けるようになった腕で、そっと彼女の頭を撫でた。
ウメコは満足そうににへら〜っと笑った。
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翌朝。
「え? ウメコ、寝てたらタケルのとこ行っちゃってた? マジで?♡
ウメコ的には無意識だったわ〜♡♡」
「いや、思いっきり僕の上で寝てたんだけど」
「ギャル的無意識ってやつっしょ? タケルの匂いが落ち着くからかな〜♡」
「……それもう座敷童子とか関係なくない?」
「あるし♡ タケル限定座敷童子だから♡」
くったくのない笑顔とギャルポーズを決めるウメコ。
金縛りの夜の原因が、まさかの“甘えんぼギャル妖怪”だったなんて、誰に言えるだろうか。
……夏は、まだまだ長い。