ギャルと梅ジュース
「タケル、ちょっと休んでいきな。これ飲みなさい」
縁側で草苅りを終えた僕に、祖母が梅ジュースの入ったグラスを手渡してくれた。
薄い琥珀色の液体に、氷がからんと揺れる。
「……ありがとう、ばあちゃん」
受け取ると、ガラス越しに指先がひんやり冷たくて、
額ににじんだ汗が少しだけ引いていく気がした。
「今月摘んだ梅を、ちょっと煮てね。梅の木がよく実ってくれて、ありがたいこった」
「裏のやつだよね。あの大きい……」
「そうそう。あれはこの家が建つ前からある木でねぇ……」
祖母はにこにこと笑いながら、また縁側のほうに戻っていった。
僕は手に持ったグラスをじっと見つめ、
ひと口、ゆっくりと口に含む。
すっ、と身体の中に夏の冷たさが流れ込むような、
甘酸っぱくて優しい味だった。
――と。
「……ふふ」
背後から気配がして、
振り向くより早く、ウメコが僕の肩にとろんともたれかかってきた。
「やっぱり……飲んでる顔、好き」
「は?」
「んふふ……ん〜……タケルの口、きれい……」
「お前な……」
「その梅ジュース……飲んでるタケル見てるとね、なんかこう……胸が、きゅ〜ってする」
「お前が飲めよ。もうひとつあっただろ」
「いらない。タケルのがいい……。タケルの、飲みかけの、それが欲しいの……」
うっとりとした目をして、グラスを見つめてくる。
「ちょ、やめろって……飲みかけとか、そういう……」
「ん、くれたら、嬉しいな」
――あまりに真剣な目だったので、
何も言えず、そっとグラスを差し出してしまった。
「……ありがとう」
そっと唇を寄せて、飲み口に口づけるウメコ。
口移しじゃないのに、妙に艶っぽく見えて、思わず目をそらした。
「……梅の味がするね」
「……当たり前だろ」
「でも……それ以上に、タケルの味がした……」
「してねぇよ!」
「……冗談♡」
「…………お前、ほんと……」
「……ねぇ、タケル。タケルは、この味、好き?」
「……うん。ばあちゃんの味だし、懐かしいし、うまい」
「そっか……」
ウメコはにこっと微笑んだあと、
さっきのグラスを胸元に抱きしめるようにして、目を細めた。
「……ウメコも、嬉しいな。そういうの、大事だもんね。忘れない味って」
蝉の声が、遠くでけたたましく響いている。
でも、縁側のこの空間だけ、少し違う時間が流れているような――
そんな気がした。
「もうちょっとだけ、タケルの隣で、涼んでてもいい?」
「……勝手にしろ」
「ん……ありがとう、タケル」
ウメコは、まるで宝物のように、
僕のグラスを胸に抱いたまま、静かに寄り添ってきた。
何も語らないけれど、
その梅ジュースの味が、ウメコにとっても特別なものであることだけは……
なんとなく、わかった気がした。