ギャルと肝試し
「ねぇタケル、今日さ、肝試ししよーよっ♡」
ウメコが言い出したのは、夕暮れ前。
畳の上でごろごろしていた僕に、テンションMAXで乗っかってきた。
「急だな……。どこで?」
「裏山の、ほら。小学校のとき『あそこヤバい』って言われてた神社!」
ああ、あったなそんな場所。
今は誰も手入れしてなくて、木々に埋もれかけてる小さな祠。
地元の子たちの間じゃ“夜行くとマジやばい”って噂がある、定番の怖い場所だ。
「……行くのはいいけど、お前、怖いの平気なんだっけ?」
「バッカじゃん♡ ウメコはギャル妖怪だよ? 霊的存在側だよ? 怖いもんなんてあるわけな〜い♡」
大口を叩いて、ウメコはちゃきちゃきと準備を始める。
そのハイテンションにつられて、僕も懐中電灯を片手に仕度をした。
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夜八時すぎ。
裏山はすっかり暗く、虫の音だけが響いていた。
「うわ〜〜♡ 田舎の夜って、マジ闇〜♡ 星やっば〜♡」
「うるさいな。声でかいって」
「だってタケル、こんなにロマンチックなシチュで、ふたりきりだよ? きゃ〜♡」
「肝試しのテンションじゃないぞそれ」
はしゃぎながら山道を進んでいくウメコは、最初こそ勢いがあった。
でも、だんだんその歩幅が小さくなっていく。
「……タケル? なんか、今カサって言わなかった……?」
「風で葉っぱが動いただけだろ」
「……そだよねっ♡ 余裕っしょ♡」
ピタ。
ふと、ウメコの足が止まる。
前方の木陰に、ぼんやりと白い影のようなものが見えた……気がした。
「……タケル? 今、いたよね? いたよね!? 見たよね!!?」
「落ち着け。気のせいだって」
「やっぱムリムリムリむり〜〜!! ギャル的にこゆの無理っしょ!!」
次の瞬間、ウメコはばっと僕の腕にしがみついてきた。
さっきまでの強気はどこへやら、目をうるうるさせている。
「タケルぅ〜……帰ろ?ね?帰ろぉ?♡」
「行こうって言ったのお前だろ」
「だってぇ〜、まさかこんなに暗いと思わなかったんだもんっ!」
「ギャル妖怪とは……」
「ギャル妖怪だけど、感性は女子高校生なんだもんっ♡」
そう言って、僕の腕にぎゅっと抱きついたまま、ウメコは引き返す方向に強引に身体を向ける。
……
結局、目的地だった神社にはたどり着かず、肝試しはあっさり終了した。
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帰り道。
ウメコは僕の腕に寄り添ったまま、口をとがらせていた。
「……でもさ、怖いときにタケルが一緒にいてくれて、安心した♡」
「そういうの、最初に言えよ」
「だって、かっこ悪いじゃん? ギャル的に」
「溺れたときと同じ流れだぞそれ」
「うるさいっ♡ でも……今日も楽しかったぁ♡」
虫の声が響く帰り道。
肩がちょっとだけ触れる距離。
ウメコのぬくもりが、やけに近かった。
ギャル妖怪――実は怖がりなその子が、今、僕の腕に甘えている。
……またひとつ、この夏の思い出が増えた。