ギャルと川遊び
「たっける〜〜♡ 水着!水着で川っしょ♡♡」
朝からテンションMAXのウメコが、玄関でくるくると回っていた。
淡い黄色にピンクのフリルがついた水着。その上から透け感のあるシャツを羽織り、麦わら帽子を斜めにかぶっている。
……どう見ても、ここが山奥の川じゃなければ完璧だった。
「なあ、それ……完全にリゾート地の格好だよな? 山の川に似合ってると思ってるの?」
「えっ? ウメコ的には超アリじゃね? タケルがドキッとしたなら勝ち♡」
「してない」
「してる♡(断言)」
早くも論破されたことにされながら、僕はウメコと一緒に、家の裏手の川へ向かった。
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山から流れる冷たい水は、足を入れた瞬間ぞくっとするほどだった。
でも、夏の暑さにはちょうどいい。僕は膝下まで水に浸かって、石を蹴って流していた。
「うわ〜♡ やっぱ川さいこ〜♡ 映え写真撮っとこ〜♡」
ウメコはスマホをかざして、インスタギャル風にポーズを決めている。
――いや、それ、僕のスマホじゃん?!
いつの間にか奪われていたらしい。
ばしゃばしゃと水を蹴って、ウメコは川の真ん中あたりまで進んでいった。
そのときだった。
「たっ……タケル……っ、ちょ、これ、思ったより、深っ……!」
「え?」
次の瞬間、ばしゃっという音とともに、ウメコが川に足を取られて転んだ。
「うわっ、ちょ……足届かない、足つかない〜〜!!?」
「……おい、お前、もしかして……」
「ウメコ……泳げなーーいっ♡♡」
――あまりにも元気な悲鳴だった。
慌てて駆け寄り、手を引いて浅瀬に引き上げる。
びっしょりになったウメコは、水面でバタバタ暴れながらも、なぜか楽しそうだった。
「たのし……たのしかったけど、ちょっと死ぬかと思った☆」
「もう……だったら最初から言えよ」
「だって、タケルの前ではかっこよくいたいじゃん?」
「いまのどこが?」
「ぜんぶ♡」
まったく。
ウメコというやつは、こういうところだけ妙に素直で、やたら調子がいい。
ちなみにスマホは防水仕様だ。……助かった。
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結局その日は、川辺で石を積んだり、足をつけて涼んだりして過ごした。
「……でもさ、タケルが助けてくれるって、ウメコ信じてたから♡」
「だからって無茶すんなよ。ギャル妖怪、溺死はシャレにならないから」
「妖怪だけど、死んだら幽霊になるだけじゃね?」
「そういう問題じゃない」
蝉の声と水のせせらぎが混じる中、
ウメコは僕の隣で、石を積みながらにやにやと笑っていた。
――この夏、たぶん何度も振り回されるんだろう。
でも、不思議とそれが、嫌じゃなかった。