表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/22

ギャルの昔話

梅の木の記憶


この家には、一本の梅の木がある。


裏庭の片隅に、静かに、しかし誇らしげに枝を伸ばしているその木は、祖母の代よりも、もっとずっと前――この家が建つよりも、遥か昔からそこにあったと言われている。


 


昔々、この土地には何もなかった。


ただ草が生い茂り、虫が飛び交い、風が吹き抜けていくだけの、どこまでも続く原野。そんな中で、ぽつんと一本だけ、梅の木が立っていた。


 


時が流れ、その土地を訪れたひとりの男がいた。


土地の空気を吸い、大地に足を踏みしめ、ふと見上げた先にあったのが、その梅の木だった。


「ここに家を建てよう」


男はそう言った。


理由はなかった。ただ、この木が好きだったのだという。


それが、今の祖母の家の始まりだった。


 


家が建ち、家族ができ、そこにひとりの娘が生まれた。


娘は、よく笑い、よく遊ぶ子だった。特に梅の木が大好きで、季節が巡るたびに小さな手で枝を撫でたり、花の香りに顔をうずめたりしていた。


「ことしも、うめ、いっぱいなるかなぁ」


そう言って、空を見上げる娘の瞳は、梅の花よりもやわらかく、美しかったという。


 


けれど、娘はある年、病にかかり、やがて床に伏せてしまった。


夏が終わり、秋が来て、木枯らしが吹く頃。


布団の中で、娘はぽつりとつぶやいた。


「……もういっかい、うめ、みたかったなぁ」


そして――


家族に見守られながら、娘は静かに息を引き取った。


 


その翌春、誰も手入れをしていないはずの梅の木に、花が咲いた。


例年よりも、はるかに多く。どこまでも華やかに、どこまでも鮮やかに。


人々はそれを「娘の想いが咲かせたものだ」と噂した。


 


それからというもの、この家では、ふとした時に気配を感じるようになったという。


廊下を走るような音、どこからか聞こえる笑い声、畳の上に残る小さな足跡。


最初は誰もが戸惑ったが、やがてそれが「悪さをしない、ちいさな神さま」なのだと信じられるようになった。


やがて、その存在は“座敷童子”と呼ばれた。


 


そして時代は流れ――


タケルがこの家を訪れたあの夏の日。


ウメコは、そこにいた。


明るく、元気で、どこか寂しげで、だけど楽しそうな笑顔で。


 


本人は多くを語らないが、裏庭の梅の木の下に座ると、時々、ぽつりとつぶやく。


「昔ね、ずっとここにいた女の子がいたんだって」


「梅の実がなるの、楽しみにしてたんだって」


それは、まるで他人事のようで、どこか懐かしむようで、ちょっぴり涙ぐんでいるようでもあった。


――でも今は。


タケルと出会った。


ウメコを見つけてくれた。


今までの孤独を払拭するように彼との時間を過ごした。

大好きな彼と、2人の時間を。


そして……。

 

裏庭の梅は、今年も静かに、枝を広げていた。


まるで、そこに宿る誰かの記憶を、そっと守るように。



いつまでも、いつまでも。

いつか継承されるその時まで---



種は、蒔かれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ