ギャルと夏の終わり
次に目が覚めたのは翌日の夕方だった。
頭が重い。身体のあちこちが痛む。
でも、それよりも先に、僕は――
「ウメコ……?」
思わず、名を呼んでいた。
返事はなかった。
あの騒がしい、明るい声はどこにもない。
僕の視界の中に、金髪も、派手なネイルも、ハートのピアスもいなかった。
「ウメコ……?」
もう一度呼ぶ。けれど、静寂だけが返ってくる。
祖母に聞いてみた。
「この辺に、僕と一緒にいた女の子……来なかった?」
祖母は首をかしげるばかりだった。
「誰もいなかったよ。あんた、ひとりで倒れてたんだって。村の人が見つけてくれたのよ」
――誰も、見ていなかった。
誰も、知らなかった。
あの瞬間、僕を助けてくれたのは確かにウメコだったのに。
あの温もりを、あの声を、確かに感じたのに。
ウメコは、もういない。
縁側に出る。
風鈴の音が、ちりん……と頼りなく鳴った。
ウメコがよく寝転がっていた場所。
僕の膝に頭をのせて、文句を言いながら空を見ていたあの場所には、もう誰もいなかった。
「……やっぱり、妖怪だったんだな」
今さらそんなことを思う。
本当にいたのか、僕の幻想だったのか、分からなくなりそうになる。
でも、手には残っていた。
ウメコが手を握ってくれた時の、あの確かなぬくもりが。
そして――
“ウメコは、タケルの中で生き続けるよ。だから大丈夫。また、会えるから”
夢だったのか、現実だったのか。
あの声が、僕を支える。
――そうだ。
僕の中に、ウメコはいる。
いなくなったんじゃない。姿を変えて、僕の中でずっと、生きている。
あの夏の全部が、僕の血となり、心となって、今も息づいている。
だから、大丈夫だ。……大丈夫、だ。
でも、ほんの少しだけ。
ほんの少しだけでいいから、またあの声が聞きたいと、思ってしまう。
……次の夏が来たとき。
また、この家に帰ってきたとき。
縁側で風鈴が鳴る音に、僕はきっと耳を澄ますんだろう。
「……タケル〜〜♡ 迎えにきたよぉ〜♡」
そんな、バカみたいな声が、また聞こえてくる気がして。
――その日まで、ちゃんと、生きていこう。




