ギャルとお庭デート
「今日はさ〜、お出かけとかいいから、のんびりしたい気分っしょ〜」
朝から騒がしかった昨日とは打って変わって、
ウメコは縁側に寝転んで、風鈴の音に耳を傾けながらのびていた。
「ウメコがのんびりしたいって、珍しいな。燃え尽きたか?」
「うるさ〜い。ウメコは今、“縁側の妖精モード”なの」
「どんなモードだよ……」
そう言いながらも、結局僕もつられてゴロゴロし始めた。
昼過ぎになって、暑さが少し和らいだ頃。
僕たちは裏庭に出て、シートを敷いて腰を下ろした。
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裏庭の片隅。そこに、一本の大きな梅の木が立っている。
いつの頃からあるのかは分からない。
祖母も「家が建つ前からあったんだってさ」と言っていた。
「……ここの空気、好きなんだよね」
ウメコがぽつりとつぶやく。
「この梅の木、なんか特別な感じするよな」
「うん。……たぶんね。あたしがここにいるのって、きっとこの木のせいなんだと思う」
「ん?」
「なんでもなーいっ♡ いまの無しっ」
慌てて誤魔化すように笑うウメコ。
でも、その横顔は、どこか懐かしそうに梅の木を見上げていた。
揺れる葉の隙間から、陽がこぼれて、
ウメコの頬に淡い光が落ちる。
「こういうの、いいね。騒がしくない午後。静かで、優しくて……」
「お前が静かなのはレアだけどな」
「うるさ♡ でも……タケルがそばにいるなら、たまにはこういうのもアリっしょ?」
そう言って、ウメコは僕の肩に頭を預けた。
「……昔ね、ここで誰かが梅の実がなるのをずっと楽しみにしてたんだって」
「誰?」
「さあ? ……でも、その人はもうとっくにいなくてさ。
だけど、こうして木は残ってて。ふふ、ちょっとロマンチックじゃない?」
それが誰だったのか。
なぜウメコがその話を知っているのか――
僕は、あえて何も聞かなかった。
蝉の声も遠のいて、代わりに風の音が耳に残る。
この時間も、この空間も。
きっといつか思い出になるんだろう。
そう思ったとき、ウメコがぽつりとつぶやいた。
「……タケルがいるから、今がちゃんと“今”って感じするんだ」
「ん?」
「なんでもなーいっ♡」
軽く笑って、ふわっと立ち上がるウメコ。
「じゃ、おやつ食べに戻ろ〜。おばーちゃんの白玉ぜんざい♡ 今日の分、ウメコが確保済み〜♡」
「お前……抜け駆けしてたのか……」
騒がしく、いつもの調子で家の中へ戻っていくウメコ。
僕はひとり、少しだけその場に残って、梅の木を見上げた。
――風が吹いて、葉が揺れる。
ふと、誰かの笑い声が遠くで混じった気がして、僕は目を細めた。




