ギャルとカウントダウン
「カウントダウン開始っしょおおおおお!!」
朝、目を覚まして窓を開けた瞬間、耳に飛び込んできたのは、まるでロックフェスの開幕みたいなウメコの雄叫びだった。
「おいおい、近所迷惑……っていうか、妖怪のお前が迷惑かけてどうすんだよ」
「ちがうし!今日は記念すべき、ラスト3日スタートの日なのっ♡
てことで、アクティビティ詰め込み放題デー、はじまりはじまり〜〜☆」
僕は寝癖のついた頭をかきながら、げんなりしていた。
でも、それでも――そのハイテンションが、なんだか少し嬉しかった。
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朝から、僕たちは川へ行った。
水には入らず、石を積んで水切りをして、ついでにウメコはインスタ映え風のポーズでスマホ(僕の)を連写していた。
昼は、隣町まで出かけて、ソフトクリームを食べ、駄菓子屋でしこたま買い込む。
「今日はね、ギリギリまで詰め込むの! 昨日の自分に負けたくないの!
今日のウメコは、MAXアクティブモード☆」
「……いや、もうちょい抑えてくれ。体力が尽きる……」
「甘いっ!タケルの夏休み残り時間、あと72時間を切ってるの!いま使わずしてどうするのっ!」
はしゃぐ彼女に、何度も振り回されながら、僕はふと気づいていた。
――あれ?
なんで今日に限って、こんなにウメコ、頑張ってるんだろう?
笑ってるけど、どこか焦ってるような。
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夕方、空がオレンジに染まり始める頃、家に戻った僕たちは、縁側でスイカをつつきながら、ぼんやりしていた。
セミの声、風鈴の音。
そしてウメコの横顔。
「……今日、めっちゃ詰め込んだな」
「でしょ? 有言実行のギャル妖怪♡」
彼女は笑ったけれど、その笑顔はどこか、少しだけぎこちなかった。
「なあ、ウメコ」
「んー?」
「……本当は、寂しいんじゃないのか」
その言葉に、彼女はぴたりと手を止めた。
一拍置いてから、視線を僕に向ける。
「……えへへ。タケルってさ、昔より察しよくなったよね〜〜」
「子供じゃないからな」
「そうね。……だから、ウメコもさ、大人ぶってみたんだけど、ダメだった。
寂しいの、めちゃくちゃ」
風が通り抜け、風鈴がちりんと鳴る。
「タケルが帰っちゃうと、また“ここ”に戻るでしょ。
誰もいない空間に、ぽつんと。
……それが一番キツいんだよね」
ウメコは、ふわりと笑っていた。
「でも、ね。今は違うの」
「……何が?」
「タケルと一緒に過ごしたこの夏、あたしの中にちゃんと“記憶”として残る。
前はただ居たってだけだったけど、今はね、“ちゃんと生きてる”気がするんだ」
ウメコは僕の手をそっと取って、きゅっと握った。
「だから、ありがとう」
――僕の中で、何かがほどけるように、すとんと落ちた。
「……じゃあ、明日も遊ぶか」
「えっ!? ほんと!? タケルやっさしぃ〜〜♡♡♡
ならウメコ、朝イチからコーデ全開で飛ばすっ☆」
「無理はすんなよ」
「うん。……でも、タケルと一緒なら、ちょっとくらい無理したくなるもん♡」
そう言って笑うウメコの笑顔は、
どこか切なくて、でも――誰よりも、まっすぐだった。




