ギャルと雨
昨夜の喧騒が嘘みたいだった。
庭には、昨日みんなでやった花火の燃えカスがまだ残っている。焦げた線香花火の棒、子供たちが夢中で追いかけた火花の名残。打ち上げの筒だけが纏められて静かに横たわっていた。
朝から雨が降っている。
しとしと、ざあざあと、強くなったり弱くなったりしながら、ずっと降っている。
親戚たちは早朝には出発したらしく、僕が起きたころには、すでに車の音も聞こえなかった。
「騒がしかったのに……いなくなると、あっけないよな」
僕は縁側で雨を眺めながらつぶやく。
横には、当然のようにウメコがいた。
ちゃっかりと僕の膝の上に腰を下ろし、背中を預けている。
「タケル、膝ぬくい〜♡ ウメコ的極楽♡」
「お前な……また当然のように座って……」
「空いてるのが悪い♡」
雨が軒を打ち、風鈴がかすかに鳴った。
喧騒が去ったあとに残る、田舎の静けさ。
それは、都会の“静か”とはまったく違う。
虫の声も鳥の声も、雨の音も、みんなちゃんと生きている音だ。
「……静かだね」
「うん。静か」
ウメコは、僕の胸に背中をぴとりと当てて言った。
しばらく無言のまま、雨の音だけがふたりを包んでいた。
「……今年の夏、もうすぐ終わっちゃうね」
「……ああ」
「また帰っちゃうんでしょ、都会」
「ああ……まあ、学校もあるしな」
しゅる、と。
ウメコの手が僕の手をそっと握る。
その手は、雨に濡れてもいないのに、どこかひんやりとしていて、だけど不思議と温かかった。
「タケル、ウメコね……今が、いちばん好きかも」
「え?」
「賑やかで、わちゃわちゃして、楽しかったけど――今みたいな、静かな時間の中で、タケルとふたりでいるのが、一番“幸せ”って感じするの♡」
「……お前はほんと自由だな」
「うん♡ 座敷童子だし♡」
笑ってごまかすように言うけれど、ウメコの瞳はまっすぐ僕を見ていた。
雨音が、ふたりの間を優しく満たしていた。
風もなく、時間だけが緩やかに進んでいく。
どこか遠くで雷が鳴った。
「……明日、晴れるといいな」
「うん。タケルが帰る日までは、晴れててほしい♡」
静かな田舎の朝。
夏の終わりの雨は、どこか切なくて優しかった。
ふたりでひとつの音を聞いているような、そんな気がした。




