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ギャルの気持ち

――あたしは、ずっとここにいた。


気がついたときには、もうこの家にいた。

この家の天井、畳の匂い、軋む柱の音。

すべてが、あたしにとっての“世界”だった。


人が来て、去っていく。

家族が変わり、名前が変わり、言葉も服装も、どんどん変わっていく。


でも、あたしは変わらなかった。

ずっと同じ場所で、同じ時間を繰り返していた。


ただ「いる」だけだった。

誰にも見られなくても。

誰にも話しかけられなくても。

誰にも気づかれなくても。


――それが座敷童子。

それが“ウメコ”だった。


でも、あの夏。

タケルが来て、世界はちょっとだけ変わった。


まだ小さかったタケルが、この家にやってきて。

不安げで、でもどこかワクワクした目で、この世界を見ていて。


そして――

あたしと「目が合った」。


ちゃんと、あたしを“見てくれた”。


その瞬間、時間が動いた。


タケルが話しかけてくれて、笑ってくれて、

「また来るよ」って言ってくれた。


その言葉を胸に、何度、あたしは季節を越えただろう。

春を越えて、夏を待ち、秋をやりすごし、雪のなかでまた春を待つ。

――その全部が、タケルのためだった。


都会に帰ってしまったタケルについて行こうとしたこともあるよ。

でもね、あたし、家の外に出ようとすると身体が重くなるの。

まるで足首をつかまれてるみたいに、前に進めなくなる。


結界、ってやつなのかな。

それとも――縛られてるのは、あたしの“想い”なのかな。


でも、不思議なんだよね。

タケルが大きくなるにつれて、少しずつ、ほんの少しずつだけど。

あたしが動ける範囲も広がってるの。


最初は玄関を越えるのもつらかったのに、

いまじゃ裏山の神社も、川辺も、隣町さえ――一緒にいるなら、行けた。


あたし、変わってる。

タケルのおかげで、ちょっとずつ。


最初はさ、「この子が見てくれる間だけでいい」って思ってたんだ。

でも、気づいたら――

見られるだけじゃ、もう足りなくなってた。


触れたい。

話したい。

笑いかけたい。

怒ってほしい。

甘えたい。

ずっと、そばにいたい。


あたしのぜんぶが、いまじゃタケルでできてる。


妖怪だし、ギャルだし、変な存在かもしれないけどさ。

それでも――

“好き”って気持ちだけは、本物なんだよ。


ずっとこの家にしがみついていたあたしが、

“外に出たい”って思えるようになったのは、タケルの存在があったから。


あたしがついて行ける距離が少しずつ延びているのは、タケルが成長しているから。

あたしが変われてるのは、タケルが大人になっているから。


だからね。

もうちょっとだけ、この夏が終わらないでって思ってしまうんだ。


お願い。

あたしを、置いていかないでね。


――ずっとここにいたあたしを、

最初に見つけてくれた、たったひとりの“君”へ。

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