ギャルと都会
「……ねぇタケル、今日はさ、ちょっと“遠出”しよっか♡」
朝からなにやらそわそわと落ち着きのないウメコが、僕の隣で頬杖をつきながら言った。
「遠出って、どこに」
「ほら〜、隣町の駅前! スーパーとかカフェとか映画館とかあるアソコ! タケルのばあちゃんちの自転車、借りよう♡」
……なぜそれらを知っている。
あ、僕のスマホで調べたな。
「……あそこは“隣町”って言ってもそれは村民感覚で、中々距離あるんだけど」
「ウメコ、都会デビューしたいのお〜♡」
――と、言いながら
すでにノリノリで自転車のカゴに乗り込もうとしているギャル妖怪。
あ、ちなみに運転するのは僕です。
完全に僕の労力前提です。
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片道60分の道のりを、電動でもないママチャリでこぎ続けて到着したのは、
都会(比・村基準)と呼ばれる“隣町の駅前商店街”。
ウメコは最初こそ「うひょ〜♡ ビルあるじゃん!」と大興奮していたが――
「……人、多くない?」
「まあ夏休みだしな」
「服屋のガラス、なんか自分写ってる……都会こわい……」
と、だんだんテンションが急降下。
「ちょっ、タケル〜! 離れないでよ? ウメコ、都会で迷子になったら成仏しちゃう〜〜〜〜♡♡♡」
「お前元からそういう……いやなんでもない」
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そんな感じで、
僕が手を引きながら、なんとか一通りの店をまわって、
本屋で僕が参考書を見てるあいだも、ウメコは僕の背中にぴったり張り付きっぱなしだった。
「なぁ……ちゃんと楽しんでる?」
「うん……タケルが一緒なら♡」
「……もうちょっと都会の洗礼受けたギャルとして成長してくれよ……」
「いや、無理♡ タケルがいないとウメコ、都会で即死☆」
ギャルの皮をかぶってるだけで、
中身は根っから田舎者、というか“田舎に縛られた存在”なんだなと改めて思った。
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帰り道。
田んぼのあぜ道で、僕は休憩がてら夕焼けを見ながらが水を飲んでいると、
ウメコは急にぽつりとつぶやいた。
「タケルといっしょに、もっと遠くに行けたらなぁ……」
「なに言ってんだよ、今日は十分遠出だったろ」
「……ん〜、でもね、やっぱウメコ、この土地から離れるのって、なんかすっごいエネルギー使うっていうか、体が重くなるっていうか……」
そう言って、彼女は麦わら帽子を深くかぶり直した。
「でも今日みたいに、タケルと一緒なら――もうちょい遠くまで、行けそうな気がする♡」
「……どうせ今夜も僕の布団に突撃してくるんだろ」
「する♡」
こいつ、結局どこにいても、僕にべったりじゃないか。
でも、それが妙に安心できるのも事実で。
ウメコの声が、夕焼けの中でやけにやさしく響いた。




