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魔王の記憶

「首都バーハラがここまで復興しているとは。ジーク様も空の向こう側からお喜びになっているだろうな」


「昔の人なのにそこは草葉の陰とか言わないんだ」


 俺は車窓からグラン・ベルンの街並みを見ながら感嘆した。


 世界最強の国であり世界の中心を自負するグラン・ベルン。


 勇者ジーク2世が統治する大国である。


「ちょっとあまり窓からきょろきょろしないで貰える? 田舎者だと思われたら嫌じゃないの」


 アルマは眉をひそめるがその発言に小首を傾げた。


「実際に田舎じゃないか」


「五十年前の骨董品が何を言っているの! 時空的な感覚を持ちだしたらあんたなんか田舎者どころか時代遅れものじゃないの! 偉そうにザク国を田舎扱いしないでくれる?」


「はいはい落ち着いてどうぞ。えーっとヤヲさん、ここはグラン・ベルン北のシアフィルです」


 ラムザがそう言うと俺は再び車窓から外を見た。どこからどう見ても、都会である。


「えっそこ? 北部地方じゃん、首都じゃないの? だってこんなに街が綺麗なんだが」


「やれやれこれだから二流の時代遅れ者は困るわね。これが都会だなんてどれだけかしら。お里が知れちゃうわ」


「……まぁ実際に俺は都会出ではなくて少し南の」


「はいはいエバンス出身よね。知っていますからよ。

 西南の国境付近のいわばグラン・ベルンの地方もとい田舎。

 かつてそこは隣国の領土であったがグラン・ベルンの領土拡大に伴って編入されていった歴史があるのよね。

 だからエバンス人は自分をグラン・ベルン人だという意識は希薄だけど、自分はグラン・ベルンに属しているという自負心は強いと。名誉大国人な気質ってところね。

 だからいまのように他国人相手には自分はグラン・ベルン人だという意識で向き会いがちなわけ」


「うーむ大都市における地方民ってまさにそれだが……それにしてもすごく詳しいな。」


「ふーむ……こんなの一般常識なんですけどねー」


「なんだよほんとに。ザク国だとグラン・ベルンの勉強をそんなにするのか?」


 俺の疑問にラムザが割って入る。


「まぁまぁまぁそこは置いておいて予習を行いましょう。歴史をおさらいするわけですが、

 その、ヤヲさんという先人に対して歴史を教えるというのは誠にご僭越するところですが」


「いや、その時代の人であってもその当時のことを知っているかは別の問題だ。

 俺が知っているのは極一部のせいぜい半径五m以内のことが主なことだし。

 あとは大人の話や噂話の類ばかりで全体なんか知らない。

 どうしてグラン・ベルンの首都は制圧されたのかや魔王がどこからとか、俺の知識は五十年前から一切更新していないんだ。だから構うことはない、

 逆にどうかこの間のように教えてもらいたいぐらいだ」


 俺の言葉にラムザは笑みと感謝で返すもアルマが鼻で笑う。


「殊勝なことを言っているけど、客観的な事実については受け入れるけど、

 その半径五m以内のことについては、たとえどのような事実が現れても自分は更新しないという宣言と捉えていいかしら?」


「俺はそんな宣言などしていない」


「どうかしら? あんたって外の世界はいくら認識を変えようが内の世界に関しては頑なに認識を変えなさそうじゃない?

 自分の中の真実でこり固まっているとかさ」


「そんなことは、ない。事実さえ目の当たりにすればきっと……」


「そう……」


 俺は自分の語尾が小さくなっていることに気付き反撃が来ることを焦ったが、アルマはそこで退いた。


 意外であったがしかし、不気味と感じるしかなかった。


「ではいいですか? まずは大きな流れで説明します。東の龍の山脈において勢力をつけた魔王が西進し、ついにグラン・ベルンの首都を陥落させたところから勇者ジークの物語が始まるわけですが、いかがです?」


「いかがと言われても、まぁそうだなとしか言えないな」


「なーんだつまんない」


「つまらないってなんだ?」


 俺が言うとアルマが返した。


「だってここは実はそうだったとか、今はそうなっているのかとか、そういったのを聞きたいのに随分とまぁつまらない返しね。

 そんな教科書通りなことを言われたってこっちはもう知っているわけよ。

 ちょっとはサービス精神でも働かせたらどうなのよ? もちろん嘘は駄目だけど上手くやって欲しいわ。

 そうでないなら、なんだって私達があんたなんかとお話しないといけないわけよ」


「楽しいとかつまらないとかどうでもいいだろ。いまの説明で過不足なしだ。

 東の山脈を統治委任されていた貴族が魔王となって……厳密に言うと首都を陥落させてから魔王と呼ばれるようになったわけだけど、グラン・ベルンの首都バーハラを陥落させたわけだよな」


 その言葉を聞いた二人は固まっている。


 俺は変なことを言ったのかと思い自分の言葉を思い起こすが、そこには不審な点は特になかった。

 あるはずもない、当時の正しい事実だが。


「もう一度、いまの言葉をお願い致します」


 真剣なまなざしを向けるラムザに対して俺は言い間違いをせぬようにゆっくりと同じことを繰り返した。


「ありがとうございます。その貴族のことですが、その貴族とは、どなたでしょうか?」


「いや、知らない。そっちこそ知らないの?」


「知らないってそりゃないでしょ!」


 いきり立つアルマに俺は怯えた。なんで、こんな緊張感に溢れているんだ?

 だっていまはざっとした歴史の話をするはずであったのに。


「やめろアルマ。いや、良いのですヤヲさん。いつか思い出していただければよいわけです。

 決して隠さないでいてもらえたらそれに勝ることはございません」


 ラムザは笑顔で口調こそ穏やかだが目が笑ってはいなかった。


 絶対に真実を引っ張りだすという意思が伝わり俺は震えた。


「本当に知らないんだ。別にこれは隠しているとかじゃなくて解放軍として上からそう伝えられていただけでな。

 おっおいそんなに目を輝かせないでくれ。俺は魔王が誰かはまるで知らない。

 でも、そう、貴族でジーク様の知り合いみたいな感じはあったな。

 そうなるとあれって……一族のものとかじゃないのかな?」


 一同はそのまま首都バーハラへ到着した。

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