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過去を取り戻す旅

「いや、その、俺は」


 俺が止めようとするもラムザとアルマは世界地図を広げてあれこれ言い始めている。


 あたかもそれは、事前に打ち合わせをしているかのような勢いそのものであった。


「勇者ジークたちと御婆様の出会いはそこからだから、そこを経由させてから終着点は砂漠の魔王城までね。

 ふふっすごい距離になるわ」


「計算上では世界半周しているのと同じぐらいになるな」


「素敵! 御婆様ったら私と同じぐらいの年でそんな大冒険をしていただなんて羨ましいわ」


 手を叩きながらアルマが立ち上がると俺も慌てても立ち上がり、その肩を掴んで座らせようとするも、動かない。


 梃子でも動かぬというのはこういうことなのか? 


 流石はオヴェリアちゃんの孫だと俺はそこについてだけは感服した。


「待て話を進めるな! 俺はそんなことをするつもりは」


「つもりはなくとも、するの! これはもう決定事項よ。

 あまりにも真っ当かつ正式な理由が付くんだから誰にも邪魔はできません!」


「それってお前がただ旅行をしたいだけだろう!」


 俺が叫ぶとアルマは顔を逸らした。


「まぁ失礼ね! 御婆様がお亡くなりになりその喪の三年間の最中は全面的に娯楽の類は禁止で、私とラムザの新婚旅行も中断されることとなったわけ。

 この間にやっと喪が明けて、これまで貯めていたエネルギーを使いたいだなんてちっとも思ってすらいないわよ。

 勘違いしないでね」


「語るに落ちているぞ!」


 俺がまた叫ぶと今度はラムザが言った。


「そうは言われますが僕はアーダンさんはこの旅をしなければならないと思いますよ」


 今度は右側のラムザが立ち上がり俺はこちらを座らせようと肩に手をやるも、こちらも座らない。


 見た目と違って足腰がしっかりしている!


「その場面での目撃者であるディータ御爺様の言葉であなたの記憶の一端が甦った。

 あなたの呪いは人や場所によって解かれるものであるのかもしれません。

 人の点は残念ですがこの国には過去のあなたと縁のある人はもうほぼおりません。

 ここにいるだけでは何の手掛かりを得られないでしょう」


「唯一は……ディータもかなり後に知り合ったがあまり縁がなく。それどころか避けられてもいたからな。

 どうしてかはよく分からないけど。オヴェリアちゃんの傍にいたとかかなぁ」


「……ええっとまぁそこは僕にも分かりませんが、ともかく御爺様はあなたとお会いしたくはないそうです。

 だからあなたの件は僕たちに任されたわけですし、僕としましたら最良の方法を選択したいだけです」


 俺は溜息をつきながら両方の肩から手を離し着席した。二人も釣られて着席する。


「基本的にあなたは自由なのですよ。ここにいるのも構いませんし、どこへ行くのにも問題はなしです」


「自由とは言うがまるで刑だな。過去も未来もないものに相応しいが俺にはどこにも行く場所が無い」


「だったら過去ぐらい取り戻したらどう? 何も知らずに死ぬとか逃げじゃないの? 」


 アルマの言葉に俺は首を振らずに反射的に微かに頷くと二人もまた同じぐらいに頷いた。


「もしもお前の望む全ての真実が現れ俺は罪の自覚を得たとしたらどうする? その先に死はあるのか?」


「あるわよ。旅の終わりに私の手で死をもたらしてあげる」


 刀の鯉口を鳴らす音が部屋に響いた。良い音だと俺には感じられた。


 そしてその音色もまた彼女の音とそっくりであるから、黙った。


「自ら犯した罪をちゃんと知ることができ、その重さに打ちのめされながら死を望んでください。

 あと自決は自らを許す行為だと私は思いますので、どうか自分を許さないように。

 そしてご安心を。国家の大罪人を生かしておくほど私は慈悲深くありません」


「いいや慈悲深いよ。とてもね、なら分かった。

 自殺はしない。この命はお前が納得したら好きにすればいい。

 それもまたひとつの罪滅ぼしまたは決着の形だ」


「そうよ。その滅びには罪を知ることが肝心なのよ。

 では旅立ちましょう、その前にさラムザ。

 ひとつ約束して。すごく大事なことなんだけど

 私の前でこいつをアーダン呼びをしないって」


 アルマの言葉にラムザの表情は激しく歪んだ。

 その整った顔でそんな表情ができるのかと驚くぐらいに。


「分かるでしょ? 彼の名をこれに使われると私の中ですごく引っ掛るの。

 肌に爪を引っ掛けられて皮膚から血が滲み出てくるみたいに、不快なの。

 そろそろ心臓に爪が掛かっている感さえあるから彼の名で呼ばないで」


「何を言っているのか分からないが、俺は俺だけど。なんでそうなるんだ?」


「解釈の不一致って言葉を知ってる?」


「知らない」


「でしょうね。とりあえずそういうことだから、お願いだから受け入れて。彼はね、違うの」


 目を見開くアルマの大きな瞳の色が赤みがかっている。


 俺はその必死さに恐怖を覚えよく分からないまま頷いた。


「わっ分かった。望むのなら俺の名は封印すればいい」


「ありがとう」


 アルマの表情は元に戻るどころか微笑みをはじめて見て俺は困惑する。


「お前みたいなのが感謝するレベルなのか」


「これについては命に関わることだったから当然よ。いちいち心臓が痛くなるんじゃやってられないわ」


「なにか身体が悪いんじゃ?」


「頭が悪いんですよヤヲさん」


「ラムザ! おっとそう、それ、それならいいわ。

 ああ良かった。これはあんたの故郷のエバンス地方では、現在でも良く使われている名前だから大丈夫だと心が判断したわけね」


「外国のことなのに詳しいな」


「一般常識よ。変なこと言わないで」


「えっ? どういうこと」


「まぁまぁひとまずここは受け入れてくださりありがとうございます。

 おそらく旅の終わりには名前も元には戻ると思いますので」


「名前を取り戻す必要は特にはない。俺には名すらいらないからな。

 それにこの旅でなにも取り戻しはいない、ただ終着点に向かう旅だ」


「いいえ、過去を取り戻す旅よ」


「では過去を取り戻しに行きましょう」




 アーダンが立ち二人も続いた。

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