表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/64

回想 俺がオヴェリアを殺す

「ちょっとそりゃ困るよ。はいはいこっちこっちはい回避。まったく滅びを祈らないでよ」


 闇のなか知っている声が聞えた。


 以前どこかで、というかいまこの腕の中にいるものの声であるはずなのに、闇の外から、腕の外から声がする。


 そんなことがあるはずがない、だが俺は……瞼を開き見上げると、彼女がいた。


 オヴェリアの姿をしたものがそこにいるも、違うとはすぐに分かった。


 いま自分が抱きしめているものがそうであるのだから、だから眼の前のは違うもの。


 それにその魂も、違う。俺にはそれが分かる。


 たとえ姿形が同じだとしてもすぐに分かる。


「お前は、以前に……」


 呟くとそれは笑みを浮かべた。彼女ではない笑みだと俺はある意味で安堵した。


 完全に違う淫靡な笑みと。


 彼女はそう微笑まないとそう認識するとそれは徐々に姿を変えていき、見知らぬ美しい少年へと変わっていく。


 雰囲気がどこか古臭くても神々しささえあるその姿。


「覚えてくれてありがとう。でも危険だよ君。魔王様に向かってそんなことを願っちゃ。願いが届いたら完全に当てに来られるよ。せっかく僕が魔弾が当らないように加護を与えたのにさ。せっかく完全に一人になるまでずっと待っていたっていうのにさ、やめてよね」


 わけのわからないことをいう少年に対して俺は何も返せない。


 そもそも一人ってなんだ? 俺はいま二人で……


「オヴェリアちゃん?」


 俺は呼んだ。見ることができず、まず呼んだ。


「オヴェリア!」


 声が返ってこない。見ると、彼女は静かだった。


 いつもの小煩さも減らず口も叩けずにとても静かになっていた。そして同時に冷たさと軽さも腕に伝わってくる。


「オヴェリアちゃん!」


 呼び出し揺らしたがそれは力なく口元から一筋の血が流れるだけであった。


「心臓を貫かれたようだね。さすがは魔王様、苦痛を感じさせるどころか自分が死んだという感覚すらなく仕留めてくれたようだね。ある意味で幸福な死でよかったね。これでようやく最後の一人を仕留めたから魔王様はお休みになられるだろうな」


 少年の声は耳には入るも通り過ぎていく。俺は腕の中の彼女を抱きしめる。


 強く抱きしめ自分の熱があてれば生き返ると思ったように、そうしないともう元には戻らないかと思うように。


「それでさ、本題に入るよ。あの時のことは覚えているよね? 忘れるわけないか。そう君が魔王様を仕留めようとしたあの時に、俺の呼びかけに応じてくれたじゃないか? 嬉しかったね! よくぞ完璧に反応してくれたよ。君はすごく素晴らしい心を持っているんだね!」

 

 少年がはしゃぎながら語るのを俺はただ見ているしかない。


「あれでさ僕は上に取り上げられたんだ。魔王様の危機を救った英雄としてさ。まさかあそこまでうまく行くとは思ってなくてさ、いまも嬉しいんだ。いつもこの能力でどうしたら活躍出来るのか悪戦苦闘していたがあそこで夢が実現したわけ。

 それでさ、いつか機会があったら君に恩返しをしたいと思ってさ。ほら魔弾を当たらなかったのもそのひとつの力でね。僕の部屋に来た時にそうしたんだ。すごいでしょ? そういうのは僕は得意なんだよね。ちょっと癖が強い能力なのが難点だけど」


 うるさい声がずっと聞こえる。そんなことはどうでもいい。もしも望むのなら。


「なら俺を滅ぼせ」


「落ち着いて、そんなの出来ないって。それじゃ恩返しにならないだろ。叶えるべきはこれからの君の生存や幸福についてのことだよ。大丈夫、未来は明るいよ」


 そんなものは俺にはない。さっきそれが滅びそしていま完全に滅亡している。


「だったら……彼女を、この子を生き返らせろ!」


 俺が混乱しながら絶叫する。不可能なことを有り得ないことを、奇跡を願った。


 しかし返ってきた声は落ち着いた低いものだった。


「え〜出来るけどやめた方が良いよ」


「出来る! 何を言っているんだお前?」


 嘘やハッタリではないその声、どういうことだ。


「だからそれはというか、それだけはやめた方が良いと言ったんだよ。他のにしよう、ね?」


 その声に言葉に俺は少年を見つめる。見れば見るほどに少年は姿を変えていく。


 お前はいったい誰なんだ? 

 お前は……もしかして……思った途端に、それはそれになった。


「龍なのか?」


「僕との契約はよした方がいいよアーダンさん。というかやらないと思うけどね」


 金色の筋に彩られた黒い龍がそこにいた。巨大さもなく偉大さもない小さくも美しい龍が現れた。


 龍とは奇跡を起こすもの。


 だがそれには代償が必要があり、本人が望まなければそれは成し遂げられない。


 龍は強制しない、ただ人の祈りと覚悟が奇跡と一つとなることを叶えるもの。


「俺の命を捧げるから、どうか!」


「いらな〜い。というかそれは君にとって最もいらないものになっているじゃないか。分かるでしょ?」


 俺の言葉は詰まった。そうだ、だから簡単に投げ捨てられる。価値が、ない。


「もっとも龍の契約の場合は基本的に本人の命は代償にならないからね。

 生きてその代償を払ったことを苦しまなければその価値はない。自らの意思によって失ったことを日々苦しみ続けないといけない。苦悩と後悔と諦め。だからこその等価交換だ。そして君のいまの状態だと契約が結べないなぁ」


「どうしてだ? どうして駄目なんだ」


「どうしても何も、君の大切なものはもう失われたよね、違う? 何も無いじゃん」


 俺はアグを思いそしてオヴェリアを思った。そうだ、そうなんだ、俺にはもう……ホリン亡きアグの生を願うことすら出来ない。


「僕の能力の一つに対象の心を読み大切なものの似姿と声を真似られるものがあるんだ。

 これは相手の代償を探るということもあってね。だから契約時の偽りはあり得ないってこと。そう僕の契約は最も大切な存在を捧げて奇跡を起こすということさ。

 まっ多くの龍は本人の身体上の特性とそこへの自意識を見抜いての代償決定だが、僕のはちょっと違ってね。本人の身体の代償では奇跡は起こせない。心のだ。まぁ、つまりは人間の愛というやつ。愛を捧げさせて奇跡を起こす」


 龍は言葉を切ってから苦笑いしながら首を振った。その自嘲している姿を俺は無心のまま見るしかなかった。


「なんとも人間からしたら魅力のない龍だね。他の龍は五感やらなにやらで契約者はたくさんいるのにね。まぁ自分の身体のことだから比較的簡単に決断できるのだろうが、僕にはこれまで一人だっていなかった。いるはずがない」  


 龍はため息をついた。


「その愛するものを殺してまで手に入れたいものってなんだろ? 僕だって答えられない問題提起だ。なんでこうなったことやら。だから龍の中で地位が低くて可哀想なやつなんだよ。

 望むのなら無敵の力や全知の力だって与えよう、永遠の命も可能かもしれない、ただしお前の最も大切なものを自らの意思と手で犠牲にできるのならな、とかいう悪い冗談みたいな話。

 大切なものがない場合だと当然に契約ができない。殺したら生涯後悔するぐらいの存在。自分しか愛していないというのなら永遠に死ぬしかないから契約不能だ。つまり誰もいなくなったいまの君と同じ状態だ。契約はしたくない。だからやめておけといった」


 契約はできない……いや、したくない、やめておけといったのは、つまりは、できる?


「できないのではなく、やめておけといったのはなんだ? 無理だと言わないのはなんだ?」


「……じゃあ、うん、無理だよ。出来ない出来ない」


「違う、そうではないはず出来るはずだ。出来ないなんて言わせない」


 俺の言葉に龍は怯んだ。俺は彼女を抱えながら前に出る、そこには必ず希望があるはずだ。


「龍の力は偉大だ。あんたらに出来ないという言葉や無理といった言葉などないはずだ。

 やめておけとはなんだ? はっきりと言ってくれ! 俺はどんな困難でも受け入れる」


「やめておけというか、無意味なことだからだよ。なら話すけど奇跡の前借りとして蘇生は可能だね。だがそれは一瞬であり、まぁもって十数秒の命となるかなぁ」


 言葉に俺の心は熱くなると同時に冷えて痛み、爆発する。


「どういうことだ! なんでそんなに短いんだ! どうしてそんなことに!」


「そんなの、君が殺すからに決まっているからだよ。その手で残酷にね」


 衝撃に俺は腕の中の骸を引き寄せた。俺が甦る彼女を殺す……そんな馬鹿なと思うよりも俺は納得が先に来た。


 自分が彼女を殺しにかかるという光景が脳裏に浮かびそれから、頷いた。そうなるんだと。


「やったことがないから想像だとこうなるのかな?

 最も大切なものを奇跡の前借りで以って甦らせて、契約の履行のために僕の力を得た君は無意識のなかその娘を、殺す。その子が死んだら君は龍の力を失い意識が戻り彼女を殺した記憶を得る。

 つまり君はその娘を十数秒の命を与え殺すってわけ……ハハッ」


 龍は笑った。


「あっごめん。君がすごく真面目に考えているところなのにね。えっとそう、それでこの件はおしまい。君は無意味な罪悪感を抱えてその後の人生が始まるわけだが、あまりにも愚かで下らない奇跡だと思わない? こんなにやるだけ無駄なこともないよ。分かったよね? その娘は死んじゃってもうこの世にいないのだからもう一度殺す必要なんて無いじゃないか。じゃあ、これからのことを考えよう。僕が思うにね」


「……俺がオヴェリアちゃんを殺す」


 俺は呟きそしてもう一度言った。


「俺がオヴェリア・シャナンを殺す」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ