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愛と嫉妬のバランス

 五十年経つとあの小さかった『苺』がこんなに大きくなるのかと俺が驚きながら食べているのをアルマは鼻で笑いながら同じく食べ、それからラムザが言った。


「これアグ叔母様がヤヲさんとホリン氏の二人を弄んでいますね」


「そうなのか?」


 俺の反応にアルマが席から立ち上がる。


「そうなのかってそうなのよ! この程度のことも気づけないの? 七十にもなってこの認識能力の欠如! そら人生がこうなるわよ」


「こういう時に限って七十台を持ち出すのはやめろ。俺はまだ二十数年ぐらいしか生きていないぞ」


「そうだったわね。このガキジジイは」


「そっちは……そのまんまガキか」


「十八でーす。まぁあんただけは気づいていないでしょうが、入室した御婆様はそのいかがわしさにすぐさま気付いて不機嫌そうに見えたのはつまりはそういうことよ」


「そうだったのか。入る前の声は明るかったのにすぐに暗くなったからおかしいとは思ったんだ。

 気分屋にしてはすごい変化だったしさ」


「なんなんこの男は。人の気持ちが全然分かっていなさすぎ。自分のことしか考えていないのが丸分かりじゃない」


「自分のことしか考えないは否定しないぞ。だが俺は他人の心どころか自分のことだってよく分かっていないからな」


「なに開き直ってんのよ! そんなんだからこうして旅をしているんでしょうが。都合の悪いところは記憶にございませんわかりませんって、あまりにもめんどくさすぎるのよあんた」


「えーっと話を戻しましょう。アグ叔母様はホリン氏を好意的に接することでヤヲさんの嫉妬心をたぎらせて楽しんでいる、これですね」


「なんだそれは? そんなことして楽しいのか?」


「楽しいわよ」


 アルマは胸を反らしながら言った。


「なんでお前が代わりに自信たっぷりに応えるんだ」


「だって楽しいってすぐに分かるもの。少し年下の若い男二人が自分を巡ってああだこうだしているのは楽しいに決まっているの。

 おまけに二人とも……いえ、片っ方は顔も良い男なんだから愉快で仕方がないはずよ」


「それはお前の感想であってだな。俺の知っているアグはそういうタイプではないと思うが」


「何を知っているっていうの? 女のことどころか二十五の女心なんてあんたに分かるはずないでしょうが」


「それを言ったらなんでお前にそれが分かるんだ?」


「分かりまーす。十五の御婆様が一目瞭然したのと同じく女には分かるの。そんなことしないとか言うけど、やっていることはそれそのものじゃない。

 すぐに沸き立つあんたの嫉妬心を鎮静化させる遊びよ、わざとに決まっているでしょ。まぁ世の中には天然でやる理由なき誘惑者とかいますけどね」


「人はそれを悪女と呼ぶが、自分の大叔母がそうだとは思いたくはありませんね。意識的にやってもらいたい」


「だからなんでそんなことをする必要があるんだ」


「楽しいからだって言っているでしょうが! 分からないかなー!」


「分かるわけないだろ。むしろどうして知っているんだよ。どっかで習うのか?」


「そう言われるとなんでかしらね。まぁそこは兎にも角も大叔母様はあんたの反応を楽しみつつホリンとの関係も楽しんでいたの。

 しっかしまぁそのホリンに対する嫉妬心の強さ……みっともないなーダザイオサム?」


「……しょうがない。そう感じるしかないんだからそうなる」


「随分と素直じゃないの」


「事実だからな。俺はアグがホリンと仲良くしているのを見ることだけが耐え難かった。

 そこはもう否定のしようがない。想像するだけで胸が痛くなったんだ」


「その一方でホリン氏はヤヲさんを嫉妬していますね」


「しかもそれに気づいていないのが酷い……とことん人の気持ちが分からないのよね。もしかして呪いか何か?」


「どんな呪いだがまぁそうなるな。このあいだ話してくれたおかげで分かったがその頃の俺はまるで気付かなかった。ホリンが俺に、逆でなく? なんでそうなるんだ、と説明されてもそう答えるよな」


「あまりにもあんたが御婆様のお気に入りに見えたからそれはもう憎悪の的ね。自分はそこでこんなに苦労しているのにと。

 でもたぶんホリンはあんたにそのことで当てこすったり嫌がらせとかはしなかったと思うのよね。彼がそういうタイプだったら大叔母様みたいな人は相手にしないでしょうし。どっかの誰かさんと違ってさ」


「……そうだな。たまにそういう時があるだけで普段のあいつはとても親切で良い男だった。

 俺の方はその態度に対して反感を抱いていたがな」


「この場合はどっちもあんたの態度が悪いことになるわね。

 でも御婆様は大叔母様がホリンに好意的だからバランスを取ったのかもしれないわ。そうでなきゃあそこから追い出したりなんてしないでしょうし」


「バランスはとっていないよな。オヴェリアちゃんに好かれるのとアグに好かれるのとは違うし」


「あのさーあんたほんとーに酷い男ね。

 一国の女王の寵愛をそんなに無下に扱うだなんて、この世界でたった一人よそんなの! どんだけ偉いのあんたは。茶農家って世界一偉いとでもいうつもり?」


「まぁまぁ落ち着けアルマ。だからこそ御婆様はヤヲさんを傍においたのではないかと。ホリン氏はやはり野心満々でしょうし」


「でも大叔母様はそこは気にしていないというか……でもあれかな、ホリンとの年齢差とかを考えたら、

 その野心故に自分は相手にされているという考えもあって、あっ!」


「そうか……逆に野心のなさが駄目ということもあるのか。けれども俺にとってのアグは野心そのものでそれ以上のものはもてなかったな」


「まぁ単純に顔の問題とか?」


「お前は何を言っているんだ!」


 ラムザの言葉にアルマは手で制した。


「ちょっとそこまで怒らなくてもいいじゃない」


「そうだな、そこは疑いようが無いな」


「あんたもそこまで言わなくていいじゃない!」


「お前は俺に何を言いたいんだ? まぁそんなこんなで俺はオヴェリアちゃんと大事な話をしたわけだ。

 果物を一緒に食べただけだがな」


「だからそれが大事なのよ分からないかな? 会食は仲を深めるのになによりも大切なのよ。

 理解していないようだけど極めて政治的なことよ。そうであるからつまりはねあなたとは一緒に食べたくありませんがとても強いメッセージになるの。御婆様のホリンへの返事はそれよ」


「そこなんだよな。そこは今日初めて知ったわけだがあの頃は知らなかった。

 だから後日にホリンから聞かれたよ。ザクの大事な話ってなんだって」


「そら聞きたくなるわね。でもあなたは何もわからずに正直に話して不審がられるというところね」


「そういうところだ。そして俺は彼から色々なことを聞いた。たぶんどこにも伝わっていない話を」

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