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止まれば二本、進めば三本

「っで聞いたの?」


「聞かない」


「え~あんたヘタレじゃないの?」


「誰ができるんだよ」


「なんというか腰が引けているのよね~コソコソなんかしちゃってさ。御婆様にはあんなに偉そうにしている癖になんなん?」


「オヴェリアちゃんとアグは関係が違いすぎだろうが」


「だから意地悪されるのよ」


「えっ? なにそれ?」


「まぁまぁ落ち着いて。それにしても御婆様はお遊び過ぎですね。いくら面白げな関係であるとはいえ」


 ラムザが止めたために俺達二人は黙り車窓から外を眺めた。列車が走りシガレッツの地から離れていくのが地の色や木々の種類の変化で理解できていく。


 熱気を含んだ空気も少し変わり晩夏を思わせる風の匂いや、これから訪れるような秋の雰囲気を感じ取っていた。


 アルマは窓を少し開けタバコに火をつけて吸った。俺はアグの匂いがしてきて目蓋を閉じようとしたが、意識的に開いた。


 胸に感じた痛みにも心中で首を振る。感傷に浸ることを拒絶するように。それからアルマが煙と共に言った。


「遊び過ぎ、か。まーそこはね、多少あってもしょうがないわよ。

 自分より年上の叔母が自由恋愛というお遊戯ができるのが羨ましいという嫉妬もちょっと入っているのかもね。昔のザクの女は親族間で行われる娘の縁談や婿選び仲人でその恋愛感情を満たしていたようだし。

 今回の件は自分一人なうえに煮え切れない年上の叔母のことだからやり辛いでしょうね」


「するとなんだ? 俺は年下の子にそういう遊びの材料にされたのか?」


「まっまぁそこは、ね。まっいいじゃない。御婆様と良好な関係を結んでいられたからそういう話が舞い込んできてさ。

 あんたなんか御婆様がいなかったら何ひとつとして良い方向に行っていないんだから、感謝しなさいよ」


「ああ、そこは、否定しない」


「いやいや多少は否定してくださいよ。しかしこれを聞くと御婆様はどちらかというとヤヲさんを大叔母様と結ばせたがっていたようですね。

 やはり野心を感じられないところが良かったのか。当時の御婆様の状況下だと近づいてくるものを警戒しなければなりませんし」


「そういう政治的な判断であるのなら、こいつでもいいかという御婆様の御意志は理解できるわね。

 妙にというか不思議なぐらいにザク王家に恩を売ったり、ここからのし上がるといった野望が無いし。

 というかさーなに? そんなにザク王国に魅力を感じないの? 失礼過ぎるわ。あんた何様? たかがお茶農家の養子の家出人の分際でさ。

 お茶の淹れ方が異様に上手くて御婆様をいつも喜ばせていたっていうけど、言い方を変えるとまさに茶坊主じゃないの?」


「茶の件とかなんでそのことを知っているんだ?」


「だからさぁ、いちいち言わせないで、知ってて当然でしょうに。私はあんたのことは何でも知っているんだからもういい加減にしてよ!」


「なにいきなり怒ってんだ? だいたいお前は俺をどうしてほしいんだ? 手下にしてほしいと言えというのか? 

 そんな外国の王族に取り入るとかそんな発想すら湧かないぞ」


「じゃあなんでこの列車に乗れているのよ! これはザク王室の力が無いと乗れないわよ!」


「そっちが乗せているんだろ? 俺は乗せてくれと頼んだ覚えはないぞ」


「結果的にそうなっているでしょ! なにその変な能力! なんかいつの間にかザク王族の一員になってそうなぐらい結果的に図々しさが通る能力がありそうで怖いわ!」


「あるかそんなもん! 俺は剣を教えてくれと頼んだだけだ。俺にとってオヴェリアちゃんは剣を教えてくれる立場の女の子に過ぎないしアグは年上の美しい人でそれ以上でもそれ以下でもない。他は俺とは無関係だが、ただホリンは違ったみたいだがな」


「おそらくホリン氏はあなたのその立場については意識していたと思うんですよ。

 祖国の女王と懇意となりもしかしたら王女と結婚できるかもしれないという立場にいるあなたが。その件に関しては対抗心を燃やす可能性はあったでしょう」


「こんなのに燃やしてもねぇ。でも大叔母様はきっとホリンの方が好きだったでしょうね」


「そんなの分からないだろ。アルマはすぐにそう言う」


「いいえ、分かるわよ。あんたもこれに同意するわよね?」


「……そうだな。剣の腕はあちらが上で男ぶりも良い。負けているという意識があったからこその嫉妬だったかもしれない」


「複雑ですね。あちらはヤヲさんの政治的なところに嫉妬しているかもしれないという関係か。それでホリン氏と会われてからのアグ叔母様は如何でしたか」


「いつも通りだった。ホリンとも話をしているし俺との稽古も普段通りしていた。

 まるで俺達の想いとは裏腹に彼女は生活していた。だから俺はこうも思った。この人はもう結婚という発想が無いかもしれないのかもと」


「……二人も死なれたんじゃそう思うのも無理はないわよね。しかもいるところは戦場で次の相手もまた死ぬかもしれない。

 ザクのお婆ちゃんたちは大叔母様と同じ刺青を入れている人が多いもの。さすがに二本の人はあまり見ないけどね」


「オヴェリアちゃんもそう言っていたな。叔母様は諦めていると、あまりそういう話もしないのだと」


「自分は男を不幸にする女だと思っていたかも。けれども諦めきれない男が二人いた、ということね」


「そしてジーク様は次の国へと移動した。それがここだ」


 列車は停車し三人は外に出ると夕方の涼しい風が吹き季節は違えど、俺はあの時のことをを思い出す。


 あの謎の怪奇現象を。

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