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五十年後の世界

 光が裏返って今度は一転し闇だけの世界に。


 だがそれでも裁判長だけが見える。だから世界には俺と裁判長だけ。


 裁かれるものと裁くものだけがいる、だが、俺は裁かれないというのか? そんな馬鹿な!


「どういうことだ! 誰が彼女を殺した! 誰だ! 誰なんだ!」


 俺の怒りは闇に吸い込まれていく。


 矛盾した感情に俺の身体と心は支配されるも、それでも俺の怒りは生まれては消えていくばかり。この不条理さ。


「誰がと問われるのならば天といっていいでしょうね。自然死です」


 想定外の言葉に俺のなかの憤怒は消失するも今度は戸惑いが生まれだす。


 そんなことってあるのか? 彼女がそんな死に方をするなんて。


「どっどういうことだ? オヴェリアちゃんは病気とかだったのか?」


 今度はなんで死んだのかという混乱が生まれだし困惑にまた頭の中がいっぱいとなる。


 病死なんて有り得るのか? あんなにあの体が丈夫だった彼女が? どうして?


「時のせいだと言ってしまえばそれまでですかね。つまりは寿命だったわけです。

 まだ早いといわれましたが、あの年齢になればそうなる可能性もあるということで。

 まぁ僕はもう十分に生きたと心の整理がようやくつきだしましたね」


 新たな予想外の言葉に俺は驚くよりも恐怖を覚える 寿命? 年齢? 


 いったいこの老人は何を言っているんだ?


 彼女はあの時はまだ十五歳であったし、次の第二次聖戦なるものも話を聴く限りではそこから十年以内の話であるはずだ。


 だから彼女はまだ二十代であるはずなのに。もしかして……違う人の話をしているのでは?


「あの、あなたはいったい誰のことを話しているのですか? もしかして別人についてでは?」


「いいえアーダン。僕は君と同じ人の話をしてますよ。間違えるはずがない。

 あのオヴェリア・シャナンは心臓発作で亡くなりました。老衰といっても良いかもしれない」


「違う! オヴェリアちゃんはまだ二十代なはずだ! 

 それなのに老衰とか心臓発作とかわけのわからないことを言わないでくれ!」


 叫ぶと裁判長は微かに首を振った。何だその顔は? と俺はその老人の顔を見つめる。


 あちらも見つめてきて俺達の視線は互いに重なり交わり、それから俺の中で何かが弾けて気づいた。


 その顔は……あれ? お前ってもしかして。


「ちょっといいか? あなたはもしかして……ディータの親戚とかか?」


「いいえ、本人ですよ」


 記憶の中の声と今のその声がひとつとなった途端その老人の顔があの青年のものとなった。


 オヴェリアちゃんの婚約者であった祈祷師というより呪術師のディータ!


 そんな馬鹿な? なんで急に老けてしまったんだ!? 


 どうしてだ? いや、もしかして! ここは、この世界は!?


「ディータ本人なのか! そんな、信じられない……あの、その、いまは何月じゃなくて、何年なんだ?」


「それは簡単に答えられるが……それよりアーダン。先に君の感覚では何年経っていると感じているのか教えてもらいたい」


「何年……? 十年、ではないな、少しだけ時が流れているがそれでも、一年ではなく、三年ぐらいか?」


 俺の答えにまた周りから驚きの声が湧き上がった。それからディータも頷いた。


「三年、か。なるほどその答えは君的には正しそうですね。あの頃の君は二十あたりであったから、たしかにいまの君は人生に疲れきった二十三あたりに見えますね。

 ではお答えします。まずオヴェリアが死んだのは三年前です」


「三年前……」


「そして第一次聖戦とは今年でちょうど五十年前であり、君はつまり魔に堕ちてから五十年後の世界にいることとなります」


 そんなに時が……と俺は呆然としているとディータは再び裁判長としての顔に戻りそれから告げた。


「では改めまして被告人アーダン・ヤヲ。

 あなたは第一次聖戦末期から第二次聖戦時において、オヴェリア女王を幾度もなく襲撃し暗殺しようとするもすべて失敗し、最後は祈祷師ディータの手により封印され今に至りました。

 暗殺未遂であることから死刑ではなく無期懲役とするも、その罪もオヴェリア女王の薨去に伴う恩赦により消失したとします。

 よって被告は現在は罪はなく自由であることを宣告し、当法廷を閉廷することとします」


 無罪? と俺はその空虚な言葉を口にするもそれ以上何も考えられない。


 生きろと言われても俺は、なにを生きるというのか? 


 終わってしまった人生に対していったい何を? 


 それよりも何故俺は復活してしまったのか……俺には罪が有り……それは消えずにここに有り……


「意義あり! そいつは有罪よ!」


 声が響き俺の眼前に再び光の眩しさが戻りその叫びの方向へと振り返ると、彼女が、オヴェリアの姿がそこにあった。

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