表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/19

9

アイと私は、あのプールでの一件以来、学校でも堂々と一緒にいるようになった。そのことを、陰でとやかく言う人たちもいた。あぶれ者の私とアイがデキてるんじゃないかって、不埒な噂まで飛び交った。それでも私は、アイと一緒に行動することをやめない。移動教室の時も、登下校も、アイの隣を歩く私。クラスの垣根を超えれば、まだ学校中の生徒から人気者であるアイは、その後も告白をされ続けた。その度に、罪悪感に塗れながら断り続けるアイのことを、私はいつも隣で励ましている。

 アイと私は二人とも電車通学なので、最寄駅まで並んで歩く。その道中に、お墓があるのだけれど、アイは時々お墓の方を見てぼんやりと目を細めることがあった。


「アイどうしたの?」


「ううん。ちょっとね。ここに、おじいちゃんとおばあちゃんが眠ってるから」


「そうなんだ」


 アイは転校生なのに、祖父母がこのお墓に眠っているということは、もともとのルーツはこの街にあるのかもしれない。確か、親戚の家で暮らしているって言っていたし。そんなことを考えていると、アイがすぐに「ねえ、駅前のクレープ食べない?」と誘ってくれて、私はお墓のことなんてすぐに頭から抜け落ちた。



 私がアイのそばにいることで、私へのやっかみは以前よりもうんと増した。


「あの子、ずっとアイと一緒にいるけど何様のつもり?」


「一組でハブられてるんだって。だからアイに近づこうなんておこがましいよね」


 私は、周囲からの声に耳を塞ぎ、自分と、アイだけの世界に浸っていた。現実逃避だと思われても仕方がない。だって、私はあの教室の中では息ができない。アイの隣にいる時しか、私は私でいられないから——。



 アイと常に一緒にいるようになってから、さらに一ヶ月の時が流れた。

 7月、始まりかけた蝉の合唱が、教室の窓の外でゆらめく陽炎をつくりだしているみたいに、ぐわんぐわんとうるさいくらいに響いていた。


「ねえ、話があるんだけど」


 キツイ目をした美雪と蘭が、私の席の前に立ちはだかる。昼休みに、お弁当を食べようとしている時だった。

 この日、アイは家の用事で学校を休んでいて、私は教室で一人、なりを潜めていた。

 プールで私の足を引っ張った美雪は生徒指導を受け、一時停学処分を受けた。でも、その停学期間も一週間前に終わり、私は再び美雪の監視下にいる。


「なに?」


 美雪や蘭とはできる限り会話をしたくない。そんな気持ちが声に滲み出て、暗い影が落ちる。


「あんたさあ、私がプールで足引っ張ったこと、先生にチクったでしょ?」


「まじで最低! なんで自分が足攣ったのを美雪のせいにするの?」


 バン、と美雪が私の机に手をついて、衝撃でお弁当が床に落下した。運悪く、反対向きで。お弁当の中の具材が、べちゃりと飛び散った。

 何が起こったんだと、教室に残っていた人たちがこちらを振り返る。ああ、またやってるよ。あいつらか、とげんなりしたような表情がたくさん浮かんでいる。私はそんな彼らの顔さえ、見えないふりをした。


「……っ」


 悔しくて、私は強く唇を噛み締める。

 美雪たちに言い返せない自分に腹が立って、情けなくって、反吐が出そうだ。

 こんな時、アイがそばにいてくれたら立ち向かう勇気が出たのかもしれない。けれど今日の私は一人だ。一人の私は、あまりにも脆く、弱い。

 私は、口の中に広がる血の味を感じながら、床に転がったお弁当箱を拾って、素手でおかずを拾い始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ