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「アイ……」
幸いはっきりと意識を取り戻した私は、うっすらと目を開けてアイと先生の顔を交互に見た。最初、ぼんやりとしていた視界がだんだんとクリアになっていく。アイが不安で押しつぶされそうな表情をしていたけれど、すぐにほっと安心したものに変わった。
「よ、よかった……。どうなっちゃうかと、思った」
深く息を吐くアイの肩に、先生がぽんと手を置く。
「ありがとう、雨宮。お前のおかげで織部が助かった」
先生もきっと、動転したことだろう。生徒が溺れる様子を目の当たりにしてしまったんだから。
「織部、大丈夫か? すまない。俺の監督不足だ」
先生が頭を垂れて私に謝る。私はすぐに首を横に振る。
私が溺れたのは先生のせいではない。
たぶん、美雪か蘭のどちらかが私の足を引っ張ったんだ——。
遠くのプールサイドに立ち尽くすクラスメイトたちが、複雑な表情で私たちを見つめている。哀れみでも悦びでもない。彼らは、私たちのことを、迷いなく私を助けたアイのことを、どう思っているんだろうか……。
「先生、織部さんを保健室に連れて行ってもいいですか? 自分も、ちょっと休みたくて」
「あ、ああ。そうだな。二人とも、今日は保健室でしばらく休みなさい」
アイの提案で、私はアイと共に保健室に向かうことにした。身体を拭いて制服に着替え、まだ乾き切っていない髪の毛をタオルで拭きながら、廊下を歩く。足の痺れはすっかり良くなっていた。
「アイ、助けてくれてありがとう」
「ううん。友達なんだから当たり前だよ。あの人……小山内さんが、彩葉の足を引っ張ったってすぐに分かって、ぞっとした。とにかく助け
なきゃって、必死だった」
アイのまっすぐな言葉が灯火となって、恐怖心で凍りついていた私の心を簡単に溶かしてくれる。
ああ、好きだなぁ。
アイのこと、私は特別な存在だと思っている。
もちろんこの「好き」は友達として、に違いないのだけれど。こんなにも心がぽっと照らされて温かく、澄んだ秋の空みたいに和らいでいく感覚は初めてだった。
保健室にたどり着くと、養護教諭の先生が私たちから事情を聞いてくれた。
しばらく休みなさい、と言ってくれたので、私はアイと並んでベッドに腰掛ける。
先生は仕事が忙しいのか、「ちょっと空けるわね。誰か来たら、職員室にいるから」と言って保健室から出て行った。私たちは自然に二人きりになった。