06 私の運命
私は驚きを隠せずに口を手で押さえた。
「俺は戻ってなんとか魔王様を止めてみる。お前もあまり無茶はするなよ」
「う、うん。わかった」
アオはそれだけ言うと、姿を消してしまった。
私はもう一度小屋に戻ったが、ある部屋から話し声が聞こえた。
「なんだろう……まだ誰か起きているのかな」
私はそっとドアに耳を当てる。
「あのチビッ子、治癒魔法を使えるみたいだな」
「軍に売ればけっこうな報酬がもらえるんじゃないか?」
「それもいいな。あんな勇者についていかなくてもよくなるって話だ」
中からは笑い声が聞こえた。どうやらリュウヤの仲間たちのようだった。
話の内容に私は震えあがった。このままでは、売られてしまう!
私が1歩下がると誰かにぶつかる。振り向くと、リュウヤが立っていた。
「ルナ? なんだ、まだ起きていたのか。早く寝ないとだめだぞ?」
リュウヤは手を伸ばしてきたが、私は怖くなり逃げ出してしまった。
「あ、ルナ!」
部屋に戻った私はまたベッドで震えながら丸くなった。
「どうしよう……早く逃げ出さないと、売られちゃう!」
あの後私はあまり眠れなかった。私がボーッとしていると、リュウヤの仲間の1人がやって来た。
「おい、早く支度しろよ。すぐここを出るんだからな」
「……はい」
私は静かに返事をした。昨日聞いた話が頭から離れない。
全員が小屋の外に出ると、魔法使いが呪文を唱え始めた。
逃げるなら、今しかない!
私が逃げようとすると、仲間の1人が強く腕を掴んだ。
「どこへ行こうとしている?」
「そ、それは……」
私が言い終わる前に、転移が始まった。
★★★
魔王・アルベルは怒りを露わにしていた。
「なに?! ルナがさらわれただと!」
「申し訳ございません……」
「すぐに魔物たちを集めろ! 人間どもからルナを取り戻すんだ!」
「魔王様、それでは昔から守られてきた人間を襲わないという約束が破られてしまいます!」
「先に破ったのは人間の方だろう」
「すぐにルナを魔王様の元にかえします。もう少しお待ち下さい」
「ならん! もう人間どもの好きにはさせん!」
アルベルはアオの言う事を聞かなかった。アオは静かにため息をついて城を出た。
「アオ様、これからどうするのですか?」
一緒についてきたオーガは心配そうに聞いた。
「ルナがもう一度指輪を使えば、居場所がわかるんだが……」
「あの娘は使うでしょうか」
「わからん。でも、そうしなければ魔族と人間の争いが始まってしまう」
「俺は一応魔物たちを集めておきます。もしもの時のために……」
「あぁ……頼んだぞ」
「はい!」
オーガはそう言うと、走って森の奥へ消えていった。残されたアオは空を見上げる。
「ルナ……お前は今どこにいる……」
★★★
私たちが次に転移した所は、いろんな人たちがいる街だった。
「わー……人がいっぱい!」
「なんだ、チビッ子は街にも来た事ないのか」
「こんなにたくさんの人がいるのを見たのは初めてだよ!」
「そうか、そうか。じゃぁ、ちょっと俺たちと一緒にある所まで行こうか」
そう言われて私ははっとする。まずい、このままでは軍に連れていかれる!
私は喜ぶのをやめて、すぐに全速力でリュウヤたちから逃げ出した。
「あ、こら待て!」
「逃がすか! おい、リュウヤたちも追いかけろよ!」
「う、うん。わかった」
後ろでリュウヤたちが話しているのが聞こえたけど、私は人にぶつかりながら逃げた。
やがて人気のない路地裏に入った。
「はぁ……はぁ……ここまでくれば大丈夫かな」
そうは言っても子どもの足だ。もしかしたらまだ近くにあいつらがいるかもしれない。
私は辺りを気にしながらゆっくりと歩いた。
すると、誰かに腕を掴まれる。とっさに私は悲鳴を上げた。
「いやあぁー! 連れていかないで!」
「ルナ、落ち着いて! 僕だよ」
よく見ると、リュウヤだった。私はほっとして泣き出しそうになった。
「あぁ、泣かないで。でも、どうしてあの時逃げたんだい?」
私は小屋で聞いた話をリュウヤに話した。リュウヤはとても悲しそうな顔をした。
「そんな……僕の仲間がそんな事を思っていたなんて……」
「だから私は逃げたんだよ。お願い、ここは見逃して」
「だけど……」
「大変だー! 魔物がこの街に攻めこもうとしているぞー! 皆早く逃げるんだ!」
リュウヤが何か言いかけた時、街の人たちが騒がしくなった。
「魔物がこの街に?」
「きっとアオたちだ!」
「アオってあのドラゴンかい?」
「そうだよ。じゃぁ、もう一度この指輪で呼んでみる!」
私が指輪を取り出すと、リュウヤがそっと手を重ねてきた。
「もしかしたら、君の居場所はここじゃないのかもしれないね……」
「リュウヤ……」
「なら呼ぶにはもっと見晴らしのいい所にしないと」
リュウヤはそう言って、私を抱きかかえた。
すると、リュウヤの仲間たちが私たちを見つける。
「リュウヤ、よくやった! ほら、さっさと戻るぞ」
「この子は、君たちには渡さない!」
リュウヤはそう言って走り出した。仲間たちはあ然とする。
「待て、リュウヤー!」
仲間たちの叫び声が聞こえたが、リュウヤは構わず走ってくれた。
しばらくすると、見晴らしのいい丘に着いた。
「ここなら、ドラゴンを呼んでも大丈夫だろう」
「リュウヤ、あの人たちはいいの?」
私の問いにリュウヤは頷いた。
「仲間がよからぬ事を考えている事に、僕は気づかなかった。もう、パーティーはおしまいだよ」
リュウヤはとてもさびしそうだった。本当に信じていたんだな。
「ほら、早くしないと魔物たちがここに来てしまう!」
「う、うん!」
そして、私は指輪を握りしめる。