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05 月明りでのひととき

 私は目を閉じたが、なかなか痛みはこなかった。

 そっと目を開けると、オーガが私を庇っていた。

「オーガ!」

 オーガはもうボロボロだった。立っているのもやっとなのだろう。

「オーガ、大丈夫?! ごめんなさい、私のせいで……」

「いいから早く、お前はアオ様の所に戻れ……」

 オーガはそう言うと、片膝をついた。

「だめだよ! ちゃんと治さないと!」

 そして私はオーガの傷に手をかざした。徐々に傷は治っていき、それを見た勇者たちは驚いていた。

「すげー、本当に治癒魔法だ」

「なんで魔物が使えるんだ?」

「わからない。でも、他の魔物の怪我まで治されたらキリがない。ここで仕留めないと!」

 勇者は剣を構え、呪文を唱え始めた。

「ま、待って! 話を聞いて!」

「魔物の言葉など聞くものか!」

「私は魔物じゃないんだよ!」

「え?」

 私は持っていた赤い香水を吹きかけた。すると、角やしっぽはなくなり、元の人間の姿に戻った。

「嘘だろ?! なんで人間がここにいるんだよ。しかも小さな子だし」

 勇者の仲間は状況が理解できていないようだった。そりゃ、そうだよね。

 勇者は剣をおさめると、私に手を差し伸べてきた。

「君、魔物と一緒にいたら危ないよ。こっちに来なさい」

「魔物は悪い人たちじゃないよ! ちゃんと話し合えば分かり合えるよ」

「あの子は魔物に洗脳されているのかもしれん」

 勇者の仲間の1人がそう言った。

「私は洗脳されてなんかいないよ!」

「大丈夫だよ。僕たちと一緒に帰ろう」

 勇者は私の腕を掴んだ。私は必死に抵抗する。

「離して! 私の居場所はここだよ!」

「早く転移魔法を!」

 勇者の言葉に、魔法使いが呪文を唱え始めた。

「待て、その者から手を離せ!」

 すると、茂みの中から、勢いよくアオが飛び出してきた。

「ドラゴンめ、こっちに来るな!」

「ぐぁっ!」

「アオ!」

 勇者はまた剣を出してアオに斬りかかった。アオは避けきれず、攻撃を受けた。

「やめて! アオを傷つけないで!」

 私は必死に止めたが、勇者は聞いてはくれなかった。

「アオ様、しっかりして下さい!」

 オーガがアオに近づく。魔物の皆がいれば、アオは大丈夫だ。でも……

 私は転移魔法で消えかかっている手をアオに伸ばした。

「アオーっ!」

「ぐっ……待て、ルナーっ!」

 その時、アオは初めて私の名前を呼んだ。

 その声はちゃんと私に届いていて、私は少し微笑んだ。

★★★

 勇者たちと一緒に転移した所は、坂がありその上に小屋がある所だった。後ろは森である。

「ふー。一旦ここでひと休みしましょうか。転移魔法は疲れるのよ……」

「そうだね。君もここで休むといい」

 勇者は私の手を取って言った。私が俯いたままだったので、目線をあわせるようにしゃがんだ。

「まだ混乱していると思うけど、ここなら大丈夫だからね」

「……」

 私は黙ったまま勇者を見つめる。

「すまない、この小屋の周りに結界をはってくれ」

「わかったわ」

 勇者に言われて、魔法使いは呪文を唱え始めた。

「あぁ、自己紹介がまだだったね。僕はリュウヤ。君の名前は?」

「……ルナ」

「ルナ、君は僕が守るから安心してね」

「……元の場所にかえして」

「ごめん、それはできないんだ。君はだまされているんだよ」

 私は首を横に振った。

「違う! 皆いい魔物だもん。人を襲ったりなんかしないよ!」

「ルナ……」

 勇者改め、リュウヤは少し戸惑っているようだった。そこへ、さっきの魔法使いがやって来る。

「リュウヤ、その子には何を言っても無駄よ。ほっとくのが1番だわ」

「そうだぜ。チビッ子はもう部屋で寝ていな」

 他の仲間もやってきてそう言った。チビッ子じゃないやい。

 私はリュウヤの手を振り払って小屋の中に入り、すぐにベッドに潜って丸くなった。

「皆、どうしているだろう……アオは大丈夫かな……」

 それから少しの間私は眠っていたらしく、途中で目が覚めて静かに小屋を出た。

 空を見上げると、今夜は満月だった。

 私は持っていた指輪を握りしめる。

「またアオと会えますように……」

 私がそう願うと、指輪がほのかに光りだした。

「なに、この光は……」

 すると、森の奥で何かが動いたような気がした。

「誰……?」

 ガサッと音を立てて姿を現したのはアオだった。

「アオ!」

「しっ! 静かにしろ。あいつらに見つかるだろ」

「よかった、また会えた!」

 私がアオのそばに行こうとすると、アオに止められた。

「待て、ルナ。その周りには結界がはってある。それ以上近づくな」

 私は言われてすぐに立ち止まる。

「アオ、怪我はもう平気なの?」

「あれくらいの攻撃、なんてことないわ」

「そっか、よかった。他の皆は? 大丈夫なの?」

「その心配よりも、困った事が起きた」

「困った事?」

 私が首を傾げていると、アオはため息をついた。

「お前がさらわれた事で、魔王様がお怒りなんだ。すぐにでも人間の国に攻めこもうとしていらっしゃる」

「そんな……!」


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