03 俺の妻となれ
「はじめまして、小さな人間のお嬢さん。俺の名はアルベル」
「はじめまして。私は川崎 ルナです」
「では、ルナ。俺の妻にならないか?」
「はい?!」
魔王・アルベルは何を言い出すのか。
私とアオがぽかんとしていると、アルベルが私の手を握ってきた。
「お前はそのドラゴンの傷を治してくれたそうじゃないか。それに可愛くて、優しさもある。俺の妻にふさわしいと思ったのだが、どうかな?」
「魔王様、この者はまだ幼いです。魔王様にはふさわしくないかと……」
「いいや、ルナは治癒魔法が使えるのだぞ? これを逃す手はないだろう」
なんだ、結局はこの力のためか。喜んで損した。
私があからさまにがっかりしたのが見えたのか、アオが私を引き寄せる。
「魔王様、この者は私が見張っておきます。なので、ここで失礼いたします」
「アオ?」
それを聞いたアルベルは、つまらなそうにため息をついた。
「仕方ないな。妻というのは一旦保留にしておこう」
いや、妻になんかなるものか!
私がすねていると、アルベルは小さな瓶を出した。
「それはなんですか?」
「一応ここは魔物が暮らす土地だからね。人間がいると目立つんだ。だから、この香水を使いなさい」
アルベルが出した香水は2種類あり、1つは青、もう1つは赤だった。
「これは魔族に変身できるもので、青の方を使うと……」
アルベルは、青色の香水を私に吹きかけた。すると、小さな角と羽としっぽが現れた。
「わぁー! アオ見て! どこからどう見ても魔物だよ」
「ルナは小さいから小悪魔だね」
「……少し魔王様の趣味も入っていませんか?」
私は変われた事に喜び、アオは少し呆れていた。
「こらこら、ルナ。あんまりはしゃぐんじゃないよ。それに、水とかで香水が落ちたら元に戻ってしまうからね」
「は、はい! 気を付けます」
「あと、人間に戻りたい時は、こっちの赤色の香水を使いなさい」
「わかりました。ありがとうございます」
私が香水を受け取ると、アルベルはもう1つ何かを取り出した。
「それは?」
「これは契約の指輪だよ。これもルナにあげよう」
「本当ですか!」
「もちろんさ。さぁ、俺と契約して妻に……」
「私、アオと契約する! アオがいい!」
「な、なんだと?!」
アオとアルベルが驚いていると、指輪が光りだし、アオの顔に少し模様が出来た。
アルベルを見ると、がっくりとうなだれていた。
「あれ、魔王様?」
「契約は成立してしまった……その模様が出たのが証拠だ」
私はうれしかったが、アオはとても嫌そうにしていた。
すると、アルベルからまた手を握られた。
「俺は待っているからな。いつでも妻として迎えよう!」
「魔王様!」
「か、考えておきます……」
それから私たちは城を出て、またあの花畑に向かっていた。
「だから、もう少しゆっくり飛んでよーっ!」
★★★
「や、やっと着いた……」
私はフラフラしながら座りこんだ。
「なんだ、だらしないな」
「私の所では、あんなスピードで飛んだりしないのよ!」
そう言われてアオはそっぽを向いた。あ、聞かない振りだ。
「もう、すねないでよー」
「そうだ。お前の治癒魔法だが、あまり使うなよ。良からぬ事に巻きこまれるかもしれないからな」
「ねぇ、そんなに治癒魔法って珍しいの?」
「ここでは、治癒魔法は高度な魔法で使える者は少ないと聞いているな」
「そうなんだ……」
「しかも、幼いお前が使えるとなると、欲しがる者は大勢いるだろう」
アオはふぅーっとため息をついて横になった。
「まぁ、ここにいれば気にする事はないだろう。俺もいるからな」
「アオがいてくれれば安心だね!」
「あぁ。だから、そばから離れるなよ」
あれ、そういえばアオって見張り役って言ってたような……
私はがっくりと肩を落とした。ときめいてがっかりである。
すると、茂みが音を立てたので、私はちょっと驚いた。
「あぁ、お戻りになられたんですね」
現れたのは、さっきも会ったオーガだった。
オーガは私をちらっと見ると、首を傾げた。
「お前、どこかで会った事あるか?」
おいおい、さっき会ったばかりだろう。私が心の中でツッコんでいると、アオが説明した。
「お前も会った人間の娘だ」
それを言われて、オーガは私をじっと見た。その顔はどんどん驚きに変わっていく。
「あっ! あの時の小娘!」
いや、顔でわかりなさいよ。
「人間の小娘など、さっさと追い出しましょう!」
「だめだ。この者は魔王様のお気に入りなんだ。追い出す事は許さん」
「しかし……」
「それに、この娘はここで暮らすのだ。人間というのは隠しておけよ」
「……かしこまりました」
オーガは納得していないようだったが、私も歩み寄る。
「近づくな、人間!」
「私の事を人間って呼ばないで。私はルナだよ。よろしくね」
「ふんっ。名前などどうでもいい。人間は人間だ」
「でも、今の私はどこからどう見ても魔物だよ?」
「それもどうせまやかしだろ。俺はだまされない」
こいつ、意外と頭かたいな。
私がちょっとうんざりしていると、アオがオーガに話しかけた。
「一応、名前で呼ぶようにしろよ」
「はい! かしこまりました!」
アオが睨んだ事でオーガはすぐに了承した。アオの言う事は聞くのか。