01 始まり
「今日は何して過ごそうかな」
はじめまして。私、川崎 ルナ、30歳。ただいま街を散歩中です。
「あ、今クレープ屋さんで新発売が出てるんだっけ」
私はスマホでネットサーフィンをしていた。しかし、これがいけなかった。私は周りが見えてなかったのである。
「きゃあぁーっ!」
誰かの悲鳴が聞こえたので顔を上げると、暴走車がこちらに向かっていた。
「え?」
私は避ける事も出来ずに、気づけばもう、はねられていた。
私の体は宙を舞い、勢いよく地面にたたきつけられた。
「っ?!」
暴走車はそのまま去っていった。残された私は動く事が出来なかった。
全身が痛い。周りの人が騒いでいるのがうっすらとわかる。
あー、クレープの新発売、食べたかったなぁ。そんな事を思いながら、私はゆっくりと目を閉じた。
★★★
私が次に目を覚ましたのは、病院のベッドではなかった。
周りを見渡せば、日も当たらない森の中だという事はわかった。
「私、さっきまで街にいたと思うんだけど……」
おや? なんだか声が高いような気がする。手を見ればなんだか小さい。
これはおかしい。そう思った私は、自分の姿が確認できる所を探した。
「あれ、なんか水の音がする」
走って行ってみたら、確かに川が流れていた。私はそっと水面を見る。
そこにうつっていたのは成人女性ではなく、まだ幼い少女の顔がうつっていた。
「え、これは誰? 私なの?」
よく見れば、服装も冬服ではなく、涼しそうな夏服だった。しかも、なんだか民族衣装に近い感じがした。
「待て待て。一旦落ち着こう。私は事故にあって意識がなくなったんだよね」
それからの事がまったく思い出せない。そうか……
「私、あの時死んだのか……」
しかし、それならここはどこだろう。森の中って事はわかるんだけど、それ以外の情報がまったくもって無いのだ。
私が腕組をして考えていると、水面がブクブクと泡立ち始めた。
「あれ? なんだろう……」
私が近づこうとしたら、ザパーッと大蛇が出てきた。
「きゃあぁーっ! でっかい蛇ーっ!」
私は驚いて森の中へ全速力で走って逃げた。
しかし、幼い体ではあまり遠くへは行けず、すぐに息切れした。
「はぁ……はぁ……一体なんなのよ。なんで、あんな化け物がいるの」
私は疲れて腰を下ろした。ふと地面を見れば、枯れそうな花があった。
「かわいそうに、ここ陽も当たらないから枯れそうなのね」
そっと花に手をかざすと、たちまち花が元気になった。
「え、これってどういう……」
私は自分の体を見れば、所々すり傷があった。また手をかざしてみたが、傷は治らなかった。
どうやら、私が治せるのは私以外のものだけらしい。
「さて、これからどうしよう……」
このままここにいても危ないだけだろうし、一応歩いて森を抜けよう。
少し歩いていると、案外早く森を抜けれた。そこは一面花畑だった。
「わぁーっ! きれい!」
私は喜びのあまり花畑に行こうとしたが、奥の方に違和感があったので行くのをやめた。
「花畑に似合わないものがいる……」
そう、そこにいたのは青い巨大なドラゴンがいたのである。しかも大怪我をしていた。
「なんだか、苦しそう……」
私は恐る恐るドラゴンに近づいた。それに気づいたのかドラゴンがこちらを向く。
「なんだ、貴様は。俺に近づくな!」
頭の中に声が響いてくる。これはテレパシーか。
「大丈夫よ、私はあなたに危害を加えないわ」
「人間の言う事など信じられるものか……」
「あなた、怪我しているでしょ? ほら、よく見てて」
私は少し元気のない花を見つけて、先ほどしたように手をかざした。
すると、たちまち花は元気になった。それを見たドラゴンは目を見開いている。
「お前のその力はなんだ」
「私にもわからないの。でも、この力を使えば、あなたの怪我を治せるかもしれない」
ドラゴンはじっと私を見つめてくる。その金色の瞳はとてもきれいな色をしていた。
「……好きにすればいい」
「ありがとう!」
そっぽを向いたドラゴンにお礼を言って、私は怪我の所まで歩いていった。
そこに手をかざすと、怪我は徐々に治っていった。
「よしっ! これでもう大丈夫だよ」
「不思議な娘だな。魔物に関わろうとするなんて」
「だって、大怪我しているのに見て見ぬふりはできないもの。でも、これ誰にやられたの?」
ドラゴンは何も言わなかった。まぁ、言いたくないのだろう。私もそれ以上聞かなかった。
「あ、そうだ。まだ自己紹介してなかったね。私、川崎 ルナ。ルナでいいよ」
「俺は別に興味はない」
「興味ないって何よ! あなたの名前は?」
「俺たち魔物に名前など無い」
「え、そうなの? なら、私がつけてあげる」
「なに?」
「そうねー。青いドラゴンだからアオってどうかしら」
「おい、ドラゴンはどこにいった。それに適当だな」
「いいじゃない、わかりやすい方がいいと思うけど」
ドラゴン改め、アオはふんっと鼻を鳴らしながらそっぽを向いた。
私はそれからお腹が空いたので、近くにあった木の実を取ろうとした。
しかし、この体では全然届かなくて何回もジャンプした。
「おい、今度は何をしている」
「あの木の実を取りたいのよ。でも、高すぎて届かないの」
すると、アオはゆっくりと起き上がり木の実を取ってくれた。
「ほれ、これでいいだろう」
「ありがとう、アオ」
「まったく、いらぬ手間をかけさせるな」
「ご、ごめんなさい……」
私は素直に謝って木の実をかじった。あ、これ意外とおいしい。
「ここら辺は、毒の実もあるから気をつけろよ」
「はーい」
木の実を食べ終わった私は、横でくつろいでいるアオのそばに座った。