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8.正しい選択〜夫視点〜

愛する妻が今日私に紹介してくれているのは、今まで隣国にいたため一度も会ったことがなかった親戚のはずだった。

だが目の前に立つ人物は私にとってよく知っている女性で、私のかつての恋人シャナだった。



『…ニーナの叔母のシャナ・ブラウンと申します。病気療養のために隣国にいたので挨拶が遅くなり申し訳ございませんでした』


初対面のふりをして彼女が挨拶をしてくれたことに、安堵しながら私も言葉少なに返事を返す。


『ニーナの夫のオズワルド・ライナーです』


私達のぎこちない挨拶をニーナは緊張からだと思ってくれたことは幸いだった。




三人での会話に冷や汗が流れてくる。きっとシャナも同じだろう。私達はかつて恋人同士であったことをニーナに知られるわけにはいかない。


シャナとニーナは血が繋がっているだけあって見た目がよく似ている。

それは私がニーナに結婚を申込んだ理由でもあった。


愛する人から『他に好きな人ができた』と告げられ振られたあと誰かを愛することに臆病になり、誰とも付き合うことはなかった。だが貴族の義務として結婚して跡継ぎを残さなければならない。


身分が釣り合っていれば誰でも良かった、目的は義務を果たすことだ。

少しでも快適に暮らすことが出来ればと願い、かつて愛した人に似ている人を選んだのだ。


なんて身勝手で酷い男だったのだろうか。


だが私のそんなくだらない思惑を知らない純粋で穢れを知らない妻は、私の心を少しずつ溶かしていった。


決して派手な女性ではない。性格も控えめで会話の中心になる人ではないけれども、さり気ない気遣いで私に安らぎを与えてくれる。


彼女のそばにいると心が落ち着く、自然と笑みが溢れる二人だけの時間、この幸せを与えてくれた神に心から感謝した。

いつしか彼女に愛されたいと心から願う自分がいた。そして私は打算で選んだ相手を真剣に愛するようになっていた。



だから愛する妻に知られたくなかった。かつて愛した人が彼女の叔母だったことを。

もし知られたら…、私がどうして妻に結婚を申し込んだのかその理由に気づいてしまうかもしれない。


そうしたら彼女はどう思うだろう。私を今と同じように愛してくれるだろうか…。 

  


 いいや、だめだ。

 絶対に知られるわけにはいかないっ。

 嫌われたくないんだっ。




軽蔑されたくなかった、愛する妻の心を失いたくなかった、今まで通り私のことを愛してもらいたかった。だからシャナとの過去は隠し通すことにした。


シャナも『過去のことは姪に告げる必要がないわ、苦しませてしまうだけだもの。二人だけの秘密にしましょう』と言い、お互いに口外しないことを約束した。

そのあと可愛い姪を今まで通りに近くで見守ることは許して欲しいと望んだので『…常識の範囲でなら』と了解した。





それからはシャナとは妻の叔母として普通に接している。

私にとって過去であり未練や疚しい気持ちは一切ないが、本音を言えば複雑な気持ちなのは確かだ。

だがニーナにとっては憧れの叔母であり大切な家族なのだから、邪険にすれば彼女が傷つくだろう。それに不自然な態度をとって『どうして…?』と疑われて何かの拍子に隠していたことに気づかれるのが一番怖い。



それに、…かつて愛した人を見守りたいという思いも少しだけあった。

シャナが別れを選んだ理由を知った今となっては、自分だけが幸せになっているのに後ろめたさのようなものを感じていたのかもしれない。


憎しみ合って別れたわけではない彼女にも新たな幸せを見つけてもらいたいと思う。


今のシャナには相応しいのは私ではない。それは大人の彼女だって分かっているはずだ。



 シャナ、君の幸せを陰ながら願っているよ。


この思いに嘘はない。


だが彼女のこれからの幸せをしっかりとこの目で確認することで、自分とニーナの幸せが脅かされることはないと安心したい自分もいた。


シャナのことを疑っているわけではないし、姪であるニーナを傷つけるようなことをする人ではないとも分かっている。

だが万が一ということもある。

心配しすぎかもしれないが、些細な不安も取り除いておきたかった。

それほどまでに愛する妻と築いた幸せを守りたかったのだ。




ニーナとは『隠し事はなしに』と約束していたが、このことだけは生涯隠し通していこう。


この選択は正しいことだと信じていた。




だから何も変わることなく、心を込めてニーナへ愛を囁き続けた。そして妻は待望の子供を身籠ってくれた。


「ありがとう、ニーナ。体を大切にしてくれ」


私は感動に涙ぐみながら妻を抱きしめながら労りの言葉を口にする。


「…ええ、そうね」


ニーナが返してきたのは短い言葉だったが、それはきっと嬉しさのあまり言葉にならないのだと勝手に思い込み、深く考えることはしなかった。

それ以上なにも言わない妻に一方的に感謝の言葉を浴びせ浮かれていた。




この時にニーナの気持ちに気づいていたら、きっと未来は変わっていたのかもしれない。

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