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5.変わらない日常と変わっていく心②

叔母であるシャナにこれ以上ライナー伯爵邸に来て欲しくなかった。

彼女が悪いわけではないのは分かっている。だって叔母はなにひとつ表面上は道理に反することはしていない。

その心の奥にどんな想いを抱えていようとも、それを行動で示しているわけではない。



 分かっているわ、分かっているのよ。

 でも…どうしても受け入れられないの。



頭では分かっているけれども、私の心がついていかない。

 

その存在に私の心は簡単に揺らいでしまう。

もう自分自身が醜く歪むのは嫌だった。彼女さえ来なければと望んでしまうのは罪ではないはずだ。


あまり自分の意見を人に言うのが苦手な私にとっては勇気がいることだったけれども、この状況を終わらせるために決心をした。だから実家を訪ねた時に思い切って両親と叔母に話してみたのだ。


『叔母様も友人を作ったほうが良いと思うわ。私の屋敷にばかり来ても交流関係は広がらないし、それに頻繁だと…オズワルドとの仲を疑う悪い噂が出てくるのも心配だから』


遠回しにこう言えば分かってもらえると思った。

両親は娘である私の言葉に耳を傾けてくれるだろうし、叔母だってあのことがなければ…私にとって大切な家族なのだから誰も傷つけることなく穏便に済ませようとした。



でも私の願いは呆気なく崩れ去った。


『確かにニーナの言うとおりだ。でもシャナはこの歳まで社交界に出てこなかった。今から新しい友人を作るのも簡単ではないだろう、今まで身体が弱くベッドの上で過ごしてばかりいたんだから。なによりこれからは今まで苦労した分、自由に過ごさせてあげたいと思っているんだ。だからシャナが姉妹のような存在のお前を頼りにしているのなら話し相手になってくれないか?』


『シャナは分別のある大人だから、距離感を間違えることなんてないわ。現に付いて行っている侍女からもそんな報告はないもの。ニーナ、考えすぎよ』


『でも…』


何も知らない両親の反応は至極当然のものではあった。

きっとあのことを話せばいいのだろうけれども、話すことなんて出来ない。両親にとって叔母は大切な家族だから、きっと知れば心を痛めることになる。


私は優しい両親をこんなことに巻き込みたくはなかったから何も言えなかった。

だから叔母が自分の胸に秘めた想いから、自ら正しい判断をしてくれることに望みを繋いだ。



『ニーナ、私はあなたのことを姪というよりは妹のように思っているわ。それもとっても可愛くて大切なね。だから会いたいの。もちろん友人を作る努力もするわ、いつまでも妹離れできないなんておかしいものね。ただ時間が欲しいわ、いろいろと心の準備が必要なのよ、この歳になるとね…。それにあなたの夫は私と歳が近いでしょう?もしかしたら彼の友人と良い御縁があるかもしれないわ』


私があの会話を聞いていたと思っていない叔母は、平気な顔でそう言う。


叔母の口から紡がれた言葉は客観的に聞けば正論だった。

どこもおかしなことはない、だから父も『そうだな、いい縁があるといいな』とにこやかに頷いていた。



 何も知らないからそう思えるのよ…。



唖然とする私の手を優しく握りながら『ニーナ、心配してくれてありがとう』と叔母は話を終わらせてしまった。


その時叔母は笑っていたのだ、屈託のない笑顔を浮かべて。


 どうして…笑っているの?

 何を考えているの…。


後ろめたさを全く感じさせないその表情の裏で叔母は何を思っているのだろう。 


初めて人を怖いと思った。

そして大切な家族を壊すなんて出来ない私は『…そうね』と言って引き下がるしかなかった。



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