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4.変わらない日常と変わっていく心①

私と夫の生活はあれからも何も変わっていない。


オズワルドは相変わらずに愛を囁いてくれるし、私を大切にしてくれている。私との時間も作ってくれるし、年の離れた妻の我儘も『そんな遠慮しないで、君は私の大切な妻なんだから』と寛容な態度で叶えてくれる。


穏やかな時間が私を包んでいる。以前の私はこれが幸せに感じていた。


でも今は違う、同じだからこそ違うのだ。


これで叔母との付き合いがなかったのなら、このままなかったことに出来たのかもしれない。けれども親族である叔母との付き合いを断つのは難しかった。


彼は何も告げてはくれずに時間だけが過ぎていき、叔母の存在によってじわりじわりと私の心が蝕まれていく。



叔母は病気のため婚期を逃しており、そのうえ病は完治したが子供を望むことはできない身体になっていた。


年の離れた兄である父は妹に後妻の申し入れを無理強いすることはなかった。

きっと兄として可哀想な妹に後妻としての苦労をさせたくはなかったのだろう。


『このままここで一緒に自由に暮せばいい』と父は労るように言い、母も幼い頃から病気で苦労していた義妹を見てきたので『シャナ、家族なのだから遠慮しないでね』と優しく接していた。


そして病気で隣国にいた為、友人がいない叔母の気晴らしになるようにと、親しい親戚への些細な使いを彼女に頼み外出する機会を積極的に作ってあげていた。


その親しい親戚のなかには勿論、ライナー伯爵家に嫁いでる私も含まれている。


前ブラウン子爵夫妻が早くに亡くなった為、私の父が親代わりとして叔母の面倒を見ていたので、私と叔母は姉妹のように暮らしていた時もあるからだ。


両親としては何も知らないから、良かれと思っていたのだろう。

私にとっても叔母にとっても…。




何も知らない叔母は『ニーナに会いたかったわ』と嬉しそうに訪ねてくる。その表情に嘘はない、姪であり妹のような存在である私に会って話すことを素直に喜んでいる。


でも私は気づいてしまう。


ほんの一瞬だけ見せる想いを込めた愛している者へ向ける視線に。誰も気づかないけれども、知っている私だけには分かってしまう。


――見たくなどない、知りたくなどないというのに。



ガチャン…。


私は動揺からお茶が入ったカップを倒してしまい、侍女が手早く片付けてくれる。



「まあニーナ、大丈夫?全くあなたって子は結婚して人妻になってもそそっかしいのだから。ふふふ、でもあなたが幼かった頃を思い出すわ」


「火傷はしていないかい、ニーナ。子供の頃の君も慌てん坊だったのかな?会ってみたかったな、可愛かったんだろうな」


夫の言葉に叔母は『ええ勿論、私の姪は本当に可愛かったわ』とにこやかに返事をかえす。

そしてあの眼差しを一瞬だけ見せるもすぐに大切な姪を自慢する叔母の顔に戻る。



「大丈夫よ、火傷はしていないわ。ごめんなさい、気をつけるわ」



そう言うのがやっとだった。



 …やめて、叔母様。

 そんな目で私の夫を見ないで。




叔母に笑顔で対応しながら心のなかではそう叫んでいた。

心の奥深くに染み込んだ黒いシミがどんどん広がってくるのを感じる。


憧れだった叔母に憎しみを感じてしまう。そんな自分は嫌だけれどそう思うのを止められなかった。



叔母も夫も使用人達も誰も私が心のなかでどう思っているかには気づかない。

だって何も知らない者から見れば叔母の来訪は常識の範囲内で態度だって普通なのだから…。



夫であるオズワルドと叔母は会う回数が増えたことによって自然と打ち解けたように接するようになってくる。


本当に…その様は不自然なところはどこにもなかった。



 違うでしょう?

 もともと親密だったくせに…。



私から見れば不自然ではないことが不自然で、そんな二人を受け入れ難かった。



適度な距離で穏やかに接する二人。それはまるで二人だけの秘密を大切にしているように見えてしまう。

互いに思いやり、周りにも気を配り、これが大人の対応ということだろうか。



 そうね…、私だけが愚かなのね



未熟な私だけが知った事実に向き合う術を持たずに一人で足掻いている。

誰にも言えない、私の夫と叔母の過去を知られたくもなかったから…。



なんて滑稽なんだろう。


三人で過ごす時間が穏やかであればあるほど、私の心だけが醜く歪んでいく。でも皮肉なことに心を隠すのだけが上手になっていった。



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