17.後始末①〜叔母視点〜
久しぶりの投稿に気づいていただき有り難うございます(_ _)
「…えっ…なんて言ったの…。き、聞き間違いよね?私が結婚なんて…。こんな時に笑えない冗談はやめて。……お兄様?」
兄は私の部屋に入ってくるなり『お前の結婚が決まった』と告げてきた。
後妻の話すら断ってくれていた兄が、今になって突然そんなことを言い出す意味が分からなかった。
一瞬『…知られたのか?』と思ったが、そんなはずはないと思い直す。
だってまだあの子は目覚めていない。
私の過去を告げる人はいないはずだ。彼が自ら私との過去を話すとは思えない。
それに…私は上手くやっていた。
あからさまな事は何もやっていない。
言葉の意味を深読みしようが、それに私は関係ない。
そうよ、勝手に誤解したの。
ニーナだって、花屋の者だって。
名乗っていないし、直接なにかをしたわけでもない。それぞれが自分で考え行動した結果であってその責任はその人にある。
私はただ心のなかでそっと思っただけ。
どんなに立派な人だって心のなかではなにかを思っている、…誰だってそうだ。
『大丈夫…』という思いと『まさか…』と思いが入り混じり混乱する。
けれどもまだ前者の思い方が強かった。
だって憔悴している私に侍女達も優しく接してくれていた。兄夫婦も目覚めないニーナのことを優先していたから部屋に引き籠もっている私に顔を見せることもなかったけれど、何も責めることなど言ってこなかった。
僅かでも不審に思っていたら黙っているはずがない。
あの日から私に対する周りの態度はなにひとつ変わっていない。
目の前で起こった悲劇で憔悴している私をそっとしておいてくれている。
最初こそいつバレるかと怯えていたが、いつの間にか心の落ち着きを取り戻せていた。
だから私は安心して祈っていられたのだ。
なにが…起こっているの?
私の知らないところで一体なにが…。
戸惑いと言いしれぬ不安から聞きたいことはたくさんあるが言葉が出てこない。
だから『冗談よね?』と問い掛けるようにぎこちなく笑みを浮かべて兄を見つめる。
しかし兄の口から否定の言葉は出てこず、淡々と話を続ける。
「相手は公爵だ。すぐに結婚を望んでいるから二週間後には婚姻を結ぶことになっている。婚礼道具の準備はすべて終わっているからなんの問題もない」
貴族が婚約期間もなしに婚姻を結ぶなど特別な事情がない限り有り得ないことだ。それも相手は公爵だというのなら尚のことおかしい。
ただの政略ではなく『特別な事情がある結婚』なのだと嫌でも分かってしまう。
きっと私にとって好ましくない事情があるのだろう。
年がひどく離れているの?
それとも容姿が酷いの…。
我が家への援助と引き換えなのだろうか。
兄夫婦は何も言っていないけど、私の療養には多額の費用が掛かっていたことは気づいている。
それにニーナの為に良い医者を探し回っているようだから、いろいろと大変なのかもしれない。
我が家の為ならば政略結婚も仕方がないとは頭では理解している。
けれども事前の相談もなく、いきなり結婚だと言われても『はい』と素直に頷けなかった。
今よりも幸せになるのならいいが、これ以上幸せから遠のくのは嫌だった。
とにかく断らなければと必死になる。
「で、でも私は子を産めません。それに公爵夫人に相応しい知識も教養もありません。今まで病気だったから社交もしておらず、人脈もありませんから公爵家に相応しくありません。
私が嫁げばきっとお兄様にご迷惑を掛けてしまいますわ。ですからどうかブラウン伯爵家の為にもお考え直しくださいませ」
自分が嫌なのではない、生家に迷惑を掛けると訴える。当然の主張で私は間違ったことは言っていない。
誰が相手だとは聞かなかった、嫌な予感しかしなかったから…。