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神の使いと侠客  作者: 吾妻橋露
1862年 壬戌 如月
114/123

初午の神楽 幕前

神楽の儀式が始まる直前、控えの間にいた朱鷺を哉朱仁が訪ねた。


「装束の具合はどうですか?神祇官の装束は青色の狩衣で男用なので、それではおもって急いで女用を作らせたのですが…」


朱鷺専用に用意された神祇官装束は、目の冴えるような緋色の短い(うちぎ)と濃い紅色の(はかま)だった。上着には白兎の家紋が白抜きで(がら)として入っている。


「良さそうですね。着心地はどうですか?」

「動きやすいです」

「だからといって動き回られると困りますがね。昨日も言いましたが、氏神が出てきてもし声をかけてきたとしても、返事はしないでください。あちらとのやりとりはすべて僕がします」


哉朱仁の視線が朱鷺の手元にいく。


「もう一本、朱刀をこしらえたと聞いていましたが…いつもそれ一本だけ持ち歩いているようですね」

「ああ、あれは侠客さまにさしあげましたので」


おどろいたように目をみはる哉朱仁。


「あげた!?人間に自分の朱刀を…!?なぜです!?」

「恩を受けたお礼です。帝にはちゃんとお許しをいただきました」

「そうだとしても、人間ごときにあなたの朱刀をあげるなんてことはダメだ!」


朱鷺はすこしおどろいた。

それまでどんなことを話しても様子を変えなかった哉朱仁が、声を荒げて憤るような感情をみせたのだ。


「今日こそそれをもっていて欲しかったのですが…取りに行くような時間はもうないですね」

「……どうして、今日、もう一本朱刀がいるのですか?」

「…ここの氏神は元神使の狐です。昔教えましたが、神使の狐は他の神使とちがう。知恵もあっていろんな術を使う。もしもの場合、というのがあります」

「もしも……?」

「まぁそうなれば、むしろこちらとしても都合がいいかもしれませんけどね。神祇官の使命と役割をしやすくなる」


哉朱仁には朱鷺の知らない考えがあるようだった。


「とにかく、儀式が始まったら僕の指示に従ってください。いいですね?」


彼とこれ以上の対話を朱鷺はあきらめた。

朱鷺はこの場での『仲直り』はあきらめ、神祇官の仕事に集中することにした。

もうひとりの神祇官である蘇芳が儀式の始まりを告げにきた。


「時間だ。哉朱仁、行くぞ。そこの醜女(ブス)は、あとから入られる宮さまの後ろにしっかりとついてこいよ」


彼の言葉はすでに朱鷺の耳に入っていない。

雅楽が鳴り、神楽の奉納祭が始まった。

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