衝撃の事実 博士の行方
釣り開始。
静かだ。
穏やかな波の音が聞こえるだけ。
耳を澄ませば遠くで鳥のさえずりがする。
潮風が気持ちいい。
幸せ?
分からない。
急に不安が押し寄せてくる。
俺はなぜここに居るのだろう?
リンに誘われて。
いやそうじゃない。もっとこう根本的な話。
博士が戻って来てさえくれれば。
「もうお兄ちゃんブツブツうるさい! お魚さんが逃げるでしょう! 」
「済まん。済まん」
三十分後。
案の定リンは釣り竿を放り投げる。
「飽きちゃった」
そう言う性格だよな。ははは……
「お兄ちゃん。つまんない! 」
「おいおい。お前がやりたいって言ったから連れて来たんだぞ! 」
「でもリンもういい」
「待ってくれ。今日の分は確保しないと。できたら明日の分も」
「もうしょうがないなあ。だったら何かお話して」
「ええっ? 」
「何でもいいから! 」
「よしでは博士の話をしてあげよう」
「えっと…… 」
「どうしたつまらないか? 」
「博士ってあの博士? 」
「ああ。我々を置いて宝探しをしているどうしようもない男さ」
「違うよ! 」
「違う? 博士について何か知ってるのか? 」
「うん。雇い主だもん」
「それだけか? 」
リンは五人の中で一番ガードが緩い。
突破口があるとすれば彼女しかない。
「うん…… 」
「他に隠してる事は? 」
「リンは子供だから…… 」
「おいおい。その手は卑怯だぞ」
「だって…… 」
「よし一つだけでいい。教えてくれ」
「お兄ちゃん…… 」
観念したのか話し始めた。
「博士は…… 」
「博士は? 」
「もういない」
「ああそうだ。皆を置いて行ってしまった」
「そうじゃないよ! もうこの世にはいない…… かな…… 」
「ええっ? 」
「本当だよ」
あの純粋なリンが嘘を吐くとも思えない。
しかし信じろと言う方が無理がある。
「お兄ちゃん大丈夫? 」
「そうかリン。お前命令に背いたな? 」
「ええっ! お兄ちゃんじゃないの? 」
「何を言ってる俺は俺だ。少し鎌をかけてみたんだ」
「お兄ちゃん…… 」
「いや済まん。なぜかそんな気がしたんだ。心の声って言うか…… 」
リンは真っ青。笑顔だけは絶やさない。もちろん引きつっているが。
「博士は亡くなったのか? 」
「うん」
「そうか…… 」
「本当に覚えてないの? 」
「済まん。まったく」
リンは口を噤む。
持ち前の明るさは消えやけによそよそしい。
「リン…… 」
元のリンに戻してやることもできない。
博士が亡くなったと言う衝撃的事実に頭が追い付かない。
今日の分は確保できたのでコテージに戻る。
「行ってくるね」
リンは日課の水汲みに出かけた。
できるだけ手伝ってやりたいが今日はお供できない。
「ねえどうだった? 」
亜砂が駆け寄ってきた。
この様子だとリンと話をしたと見える。
笑顔を見せるがやはり引きつっている。
「何か思い出したの? 」
「いいや。ただ…… 」
「魚がこんなに大量だ。喜べ! 」
「ゲンジ…… 」
亜砂は警戒している。
思い出されてはいけない何かがあるとでも言うのか。
「教えてやろうか」
「ええ…… 」
いきなりのことに亜砂は何か言おうとするが上手く出てこないようだ。
「何のこと? 」
誤魔化して笑う。
「俺は別に何も思い出してないさ。ただ…… 」
亜砂は唾をのみ込む。
「博士が亡くなった」
「博士が? はっはは! ええ? 」
下手な芝居だ。
「だって博士は船で今も宝さがしをしてるじゃない。まさか今日不幸な事故で亡くなったとでも言うの? 」
「亜砂! 」
「何よゲンジ! 」
「俺の目を見ろ! 」
「み…… 見てる。見てるって! 」
「お前は俺が寝ている間に博士が戻って来たと言った。しかも何回もだ」
「だが俺は実際に見たわけじゃない。だから不確かだ。お前本当に博士が戻って来たのを見たのか? 」
「だって…… ゲンジが…… 」
「俺が何だって? 」
「まさかリンから聞いたの? 」
「やっぱりそうなのか? 」
「馬鹿なんだから。リンはいつもいい加減なことを言って私たちをからかっているだけ。真に受けたらダメ! 」
顔面蒼白な亜砂。明らかに無理がある。
しかし押し通そうとする。
「おいおい。それはちょっといくら何でも…… 」
「だってリンよ。あの子なのよ! 」
まるでアイミがリンを馬鹿にする言い回し。
今まで庇っていた亜砂が突然手のひらを反すのは不自然だ。
「俺にその話を信じろと言うのか? 」
もはや疑いようのない真実。
博士は亡くなった。
では一体なぜ? どのような理由から?
そして誰がやったのか?
「ゲンジ! 考えてはダメ! 思い出してはダメ! 全てを失うことになるのよ。
それだけじゃない。あなたは罪悪感に苛まれる。再び思い出してはあなたの心が持たない。
お願い! 私たちの為にも。あなた自身の為にもこれ以上は詮索しないで! 」
亜砂の切実な訴えを無視するわけにはいかない。
「ごめんよ亜砂。俺が言い過ぎた。ただ真実が知りたかっただけなんだ」
「真実なんてこの島にはない。無意味で形のない幻でしかない」
「分かったよ。亜砂」
亜砂は泣き出した。
ここまで追い詰めてしまったのか。
俺の為に……
夕陽に照らされた彼女の肢体はまるで蜃気楼のようにぼやけて見える。
なぜだろう?
そうか。俺も彼女の涙に誘われ潤んだに違いない。
真っ暗になる前にリンが戻ってきた。
さあ今日釣った魚を食すとしよう。
【続】




