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純情聖騎士様に溺愛されたら聖女にされてしまいました〜精霊のいたずらで閉じ込められてしまった件〜  作者: 水野沙彰


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これくらい普通





 ──愛しいクラリス嬢

 花束を受け取ってくれてありがとう。

 飾ってもらえて嬉しく思う。

 私が君と他の誰かを見間違えるはずがない。

 この気持ちは、確かに君に向けてのものだ。

 それだけ知っていてほしい。

              シリル・ヴァイカート



「あああああ、もう! なんなのこれ……!?」


 何度読み返してもどう返事をしていいか分からない手紙を机に投げて、私は頭を抱えた。

 好きな花を答えなかったことについて、責める文面は一切ない。その代わりに書かれた礼と重ねての口説き文句に、私はどうして良いか分からなかった。

 正直、もうジェラルド様とのことなんて考える余裕もない。社交界での私についての評判も、バトン侯爵令息に捨てられた令嬢というものだったのは一瞬で、あっという間にヴァイカート公爵令息に熱烈な求婚をされた令嬢というものに変わった。

 聖女じゃないから婚約破棄をされた『ラブレー子爵家の落ちこぼれ』ではない。

 今や私は『シリル・ヴァイカートが唯一惚れた姫』扱いだ。

 どうしても相応しくないと思ってしまうのは、私がひねくれているせいだろうか。


「やっと、正しくお嬢様を見てくださる方が現れましたね。私もとっても嬉しいです!」


 ソフィが笑顔でそう言って、柔らかく巻いた私の髪を丁寧に整えていく。

 そう、どんなに泣いてもわめいても、今日がそのデートの日なのだ。

 待ち合わせまではあと二時間。余裕はあるはずなのだが、本気のソフィはもう一時間前から私を離してくれない。

 朝から入浴し、髪を巻き、まるで夜会にでも行くのかという気合いの入れようだ。


「……どうなのかしら」


 憧れていた。

 甘い言葉を口にされると、心はふわふわとしてしまう。

 しかし、憧れと恋愛感情は違う。

 自分がシリル様と釣り合うなんて、とても思えない。


「お嬢様は気にしすぎです。大体、アレット様や奥様を綺麗と仰いますが、お嬢様だって充分過ぎるくらいお美しいのですから」


「それは身内贔屓が過ぎると思うわ」


「そんなことないです! それなのに、お嬢様はいつも落ち着いた装いを好まれるのですから──」


 ソフィはもう聞き慣れた文句を私に言いながら、ああでもない、こうでもないとぶつぶつ言い始めた。それでも手は動き続けているのだから、子爵家には勿体ないほどの腕である。

 これから化粧に入ろう、と言うところで、部屋の扉が控えめに叩かれた。


「お姉様、お支度中ですか? 今日がヴァイカート子爵様とのお出かけと聞いてきましたの。入れてくださいませ」


 声は妹のアレットのものだ。

 お出かけと聞いてきたとはどういうことかと思ったけれど、とりあえず入室の許可を出す。

 するとすぐに扉が開いて、いつも通り可愛らしい装いのアレットが入ってきた。


「どうしたの、アレット……って。え?」


 アレットに続いて入ってきたのは、アレットの侍女だ。しかし更にその後ろから、使用人達が車輪が取り付けられた商売に使うような物掛けを転がして入ってくる。

 そしてそれには、びっちりとドレスやワンピース、スカートといった外出着が掛けられていたのだ。


「──さあ、お姉様! この中からお好きな服を選んで!」


「待って、どういう──!?」


 思わず立ち上がりかけた私だったが、鏡台に足が当たって椅子に座り直した。焦りすぎて、椅子を引くのを忘れていた。

 アレットがうっかりというように小さく吹き出す。


「お姉様、そんなに慌てなくても大丈夫ですわ」


「……だって貴女、これ」


 私は読書が好きでつい自由なお金を本につぎ込んでしまうが、アレットは違う。街に出て、流行の服やアクセサリーを買うことが多かった。

 そして今ここに持ち込まれたのは、そんなアレットの私物だ。


「私が着るために買った物だけど、お姉様もサイズは同じくらいでしょう? せっかくのデートなんだから、お洒落して行きますよね」


 そして、ずいと私に向かって物掛けを押した。


「さあ、今日の服を一緒に選びましょう!」


 アレットのあまりの勢いに、私はぱちぱちと何度か瞬きをした。

 しかしそれで分かったのは、アレットは本気だということだけだ。

 まっすぐに私の目を見るきらきらと輝く瞳は、純粋に私とシリル様のデートが成功することを願っているのだと分かる。

 そして私の背後にいるソフィも、鏡越しに見える表情はアレットの登場を喜ぶものだった。色味の少ない私の衣装棚にさっさと見切りを付けたのだろう。

 早々に敗北を悟った私は、今度こそ気を付けて立ち上がり、物掛けに近付いた。


「これ、私が着るの?」


「当然です!」


「でも、これ胸元開いてるし……こっちなんて、スカートからふくらはぎが見えちゃうじゃない」


 外に出ることが少ない私は、今の流行もあまり知らない。ただなんとなく、心配性のお父様とお兄様の言うとおりに、上までボタンがあるブラウスやくるぶしまでの長さのスカートばかりを選んでいた。

 貴族令嬢なら珍しいことでもないらしいが、外出には堅苦しい印象なのかもしれない。


「え、お父様じゃないんだから。街に行くならこれくらい普通よ」


「でも──」


「流石アレット様です。本当に! ありがとうございます……!!」


 私の言葉はソフィの勢いに飲まれて途中で消えてしまった。

 そして化粧まで普段とは全く違う仕上がりにされた頃、邸にシリル様がやってきた。

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