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純情聖騎士様に溺愛されたら聖女にされてしまいました〜精霊のいたずらで閉じ込められてしまった件〜  作者: 水野沙彰


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小さな夢見る私

「ソフィ。このお花、いくつかに分けて部屋に飾ってくれる?」


 この大きさの花束が入るような大きさの花瓶は、玄関用のものしかない。

 それに様々な花が入っているため、花束としては綺麗だが、このまま飾るとごちゃごちゃして見えてしまいそうだった。


「かしこまりました」


 ソフィが花束を持って部屋を出て行く。

 私は残されたカードをそっと持ち上げて、小さく微笑んだ。

 こんなカードを貰ったのは初めてだ。恥ずかしいが、動揺以上に嬉しい気持ちが強い。

 元々シリル様に対する憧れの気持ちはあったのだ。

 憧れの人からこんなカードを貰ったら、自分の未来とか気持ちとかはとりあえず脇に置いておいて、純粋に嬉しく思うのも当然だろう。そうだ、そうに違いない。

 少しでも気を抜いたら口元が緩んでしまいそうで、私は気を引き締める。


「──お父様。どうするかはまだ分かりませんけれど、まずはシリル様と向き合ってみます。はっきり突っぱねるわけにもいきませんし」


 シリル様が私のことを本当に好きなのかどうかは分からないが、少なくともこうして花を選んでくれるくらいには私のことを考えてくれているのだろう。

 信じられないことだけれど。

 シリル様は今日だって聖騎士の仕事をしている。それなのに、合間の時間を使ってこの花束を贈ってくれたのだ。

 もしかしたら何か勘違いもあるかもしれないが、まずは会話をしてみないといけないと思う。

 まして相手は公爵家。

 とてもではないが、子爵家程度の我が家が話も聞かずに断ることはできない。

 断れるかどうかも、断りたいのかどうかも、まだ分からないけれど。


「分かったよ。……後悔のないようにね」


 お父様が仕方がないというように頷いた。


「はい。ありがとうございます、お父様!」


 私は立ち上がると、カードを抱えてすぐに自室へと駆け戻った。


「でも、嫌だったら断って良いんだからねー!」


 背後から追いかけてくるお父様の言葉に、私は令嬢らしくない大きな声で返事をした。





「それで、どうするんですか。お嬢様」


 花を生けた花瓶を部屋に置きながら、ソフィが私に話しかけてきた。

 私は机の上のカードを指先で弄びながら首を傾げる。


「シリル様、私を『ずっと好きだった』って言ったのよ。でも、これまでシリル様とお話ししたことなんてほとんどないはずだし……好きになるところなんてないと思うの」


 私はカードを置いて、天を仰ぐ。


「それに私、アレットとかロランス様みたいに綺麗じゃないし。お父様にはああ言ったけど……シリル様の勘違いだと思うんだけど」


「うーん、そうですかね。でもお嬢様、私から見たら充分綺麗ですよ。仕草とか見てると、やっぱりすごいなって思います」


 私はソフィの言葉に苦笑する。


「ソフィも知ってると思うけど、うちはちょっと特殊だから」


「それは分かってますけど。お嬢様なら、公爵家の方に見初められてもおかしくはないと思います」


 このラブレー子爵家は、普通の子爵家とは少し違う。

 長く精霊に愛され続けた家であるからこそ、娘は高位貴族に嫁ぐことになるかもしれないと、徹底的に礼儀作法と知識を仕込まれるのだ。

 こうして普段はのびのびと読書ばかりして過ごしている私も、夢見がちでお洒落好きなアレットも、当然のこととしてそれらを身に付けている。

 私が精霊との相性が良くないことも、精霊についての知識がないことも、本当に異例なことなのだ。このラブレー子爵家に生まれた子が精霊に愛されないなんて、これまでに一度もなかったのだから。


「でも、私は聖女じゃないから……作法だけできても、求婚する理由にはならないわよ」


 ちなみに、聖女であるラブレー子爵家の娘が他家に嫁いで生まれた子が精霊に愛される確率は、半分くらいらしい。それでも何もしないよりはずっと確率が高い。

 アレットの元には、今日もいくつもの婚約打診が届いている。打診時点で断っているものもあるとはいえ、お見合いばかりで可哀想なほどだった。

 何通か代わってあげたかったが、彼等が求めているのは『聖女』であるラブレー子爵令嬢である。

 私に代われるものではない。


「でも──」


「良いの。……シリル様にお返事を書くわ」


 私はペンを手に取って、レースの透かし模様が入った便箋を一枚机に置いた。



 ──シリル様

 お花、ありがとうございます。

 早速自室に飾らせていただきました。

 しばらく考えましたが、シリル様のお気持ちが私に向けられたものだとはどうしても思えません。

 妹か他の誰かと勘違いしていませんか?

              クラリス・ラブレー



 好きな花は書かなかった。

 だって、もし厚かましくも好きな花を書いて、相手が私じゃなかったら恥ずかしい。

 それでももし、シリル様が追いかけてくれるなら。

 そうしたら、少しくらい信じてみても良いのかもしれないけれど。


「こんな私でも、誰かに愛されるかもしれないもの」


 両親は貴族の中では珍しい恋愛結婚だ。それを見て育った私が、今も仲の良い二人に憧れるのも仕方ないことだった。

 まして私は、これまでジェラルド様から一度もそういった見方をされていなかった分、余計に憧れが強い自覚はある。

 でも、叶わないことだから。

 私はまた、私の中の小さな夢見る私に蓋をして、二つ折りにした便箋を封筒に入れた。

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