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婚約は私から解消します!

新連載開始しました。

よろしくお願いします!!

「ジェラルド様、どうか私との婚約を解消してください」


 私の言葉に、生まれたときからの婚約者であるジェラルド・バトン侯爵令息は深い溜息を吐いた。


「何。それ、君から言うわけ?」


 ジェラルド様がそう言うのも当然だ。

 私、クラリスはラブレー子爵家の娘で、本来侯爵家に意見できる立場の者ではない。

 婚約者とは言っても、祖父の時代に親交があったために結ばれた婚約で、幼い頃に何度か一緒に遊んだだけ。それも片手で数えられるほどの回数だ。

 社交界デビューをした後は一度もエスコートをされたことがない。

 それでも良いと思っていたが、もう我慢できなかった。


「……私から言わせていただきます。ジェラルド様には、私と婚約している必要などないはずですから」


「ふうん。そんなこと言うんだ」


 次期侯爵として厳しい教育を受けてきたジェラルド様は、その反動でか、華やかな女性関係で噂になることが多かった。

 それでもこれまでは我慢していた。

 どうせ互いにほとんど交流のない相手だ。嫉妬も何もあったものではない。

 私の目立たない茶色い色の髪と瞳、そして妙に現実的な性格は、可愛げがないと自分でも分かっている。母と妹が夢見がちな性格をしていることもあり、気付けば妙にしっかり者に育ってしまった。

 ジェラルド様が噂になるのは、いつも華やかで可愛らしく美しい令嬢ばかり。

 私が彼の好みではないことは分かっていた。

 互いの祖父が既に亡くなってしまっている今、婚約の意味はないように思えたが、それでも私は家の利益になるであろう婚約を継続しなければならないと思っていた。

 だからこそ、バトン侯爵家の夜会に招待された今日、どうにかして今後の話し合いをしようとジェラルド様の後を追ったのだ。次期侯爵として、せめて他所に子供を作るようなことだけはしないでほしいと、それだけは頼もうと考えていた。

 それ以外のことは受け入れようと、諦めようとしていた。


 それも、途中姿を見失いながらも後を追って辿り着いた中庭で、美しい令嬢とのいかがわしい行為を目撃してしまったことで、もうどうでも良くなってしまった。


「そちらにいらっしゃるのは、フロベール伯爵令嬢ロランス様ですよね。火遊びで手を出して良い御方ではないと思います」


 ジェラルド様の背中に隠れて乱れたドレスを直しているのは、ロランス・フロベール伯爵令嬢だ。伯爵家ではあるものの歴史ある家で、社交界では高貴な令嬢として一目置かれている。

 こんな火遊びの相手にするような女性ではない。

 ならば私が身を引いて、二人が結ばれれば良い。そうすれば、丸く収まるのだ。


「あら。私を立ててくれるのね」


 ようやくドレスを着直したロランス様は、ゆっくりとジェラルド様の影から姿を現した。

 こんな状況だが、同じ女性でも惚れ惚れとする美しさだ。


「ロランス様、このような場で失礼いたしました。私は身を引かせていただきます」


「ふふ。ありがとう」


 私にとってはどうでも良い婚約者だったのだ。

 ジェラルド様とロランス様は見た目も家柄もお似合いだった。

 私との婚約なんて、どうせ誰もが忘れていたに決まっている。解消するのならば、円満に別れられる。


「まあ君が言うなら、俺だって婚約なんて続ける気はないよ。妹の方ならまだしも、君じゃあちょっとね。手続きはこっちでしておくから、今日は帰って」


「……ありがとうございます。では失礼いたします」


 私はせめて指先まで意識を払って優雅に礼をして、走り出したい気持ちを堪えてその場を離れた。





 クラリス・ラブレー、十九歳。

 そろそろ婚約者との結婚の話を進めなければならないと思っていた矢先、婚約がなくなってしまいました。


「──って、暢気に言ってる暇無いわよ」


 私は広い寝台の上でごろんと寝返りを打った。

 これでも年頃の貴族令嬢として、結婚しなければならないという危機感はある。優しいお兄様はいつまででも実家にいれば良いと言ってくれているが、お兄様が結婚した後、私は完全に邪魔者になってしまうだろう。


「まずは円満に婚約解消をして、話はそれからね」


 そして、できれば今度こそきちんとした男性を相手にしたいものだ。

 先に帰宅していた私が、帰宅した両親に中庭であったことを話したら、心から同情してくれた。

 特にお父様は、これまで婚約を続けていたことまで謝ってくれて、こちらの方が申し訳ない気持ちになった。どうしようもないものだったと言うことは、私にだって分かっているから。

 溜息と共に心の中の後悔と未来への不安を吐き出す。

 すると心に残ったのは、ジェラルド様への純粋な怒りだ。


「『妹の方ならまだしも』って、あんな男をアレットが相手にするわけないじゃない」


 アレットは二歳年下の妹だ。

 お父様に似て地味な見た目の私とは違い、美しいお母様に似た華やかで愛らしい容姿をしているし、この家の力もちゃんと受け継いでいる。

 両親は私のことも綺麗だと褒めてくれるし、私も大好きなお父様と同じ色を持つ自分を卑下することは無い。それでもアレットと比べたら、確かに私に華がないのは事実だ。

 そんな気持ちは抱きつつも、可愛い妹であるアレットをあんな家柄と容姿だけのクズ男に渡すわけがない。


「あーあ。こんなに面倒なことになるなら、もっと早くどうにかするべきだったかしら」


 婚約解消の手続きは簡単だ。

 決まった形式に則って書面を書いて、両家の責任者がサインを入れたものを教会に提出するだけ。


「……バトン侯爵家にとっては、あまり良い縁談でもなかったのに」


 どうしてこれまで、婚約が続けられていたのかさっぱり分からない。

 私はもう一度寝返りを打って、掛けていた毛布を引き寄せた。

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