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九十一話 『白銀の背中』

 体中はジンジン痛くてとても万全とは言い難い。しかも不死王の魔法は全開。正直絶望的な展開だ。申し訳ないがギルド長、前言撤回だ。全部救ってみせるとは言ったがこいつを倒して他の人たちのサポートに行くのは多分無理だ。



 だがポジティブに考えると奴は切り札を失った。俺たちの意表を突ける決定打を撃ったんだ。流石にこれ以上あんな魔導具があるとは考えられん。



「奴の魔法は威力も速度も異次元だ。慣れねぇうちは避けることに全力を尽くした方がいい」

「なんで知ってんの――はもうええか。了解や」

「分かった。アリスはどうする?」



 アリスは……生きてるか微妙なところだ。餓狼の王が守ってくれたらチャンスはあるが、守ってなかったら絶望的。そもそも餓狼の王でもあの爆風を相殺できるかは分からない。



「とりあえず気にしないで行こう。生きてたら出てくる。自分のことに集中するぞ」

「……仕方ない」



 三人揃って化け物に向かい合う。



「お話は済んだかしら?」

「ああ、待っててくれてありがとうな」



 強烈な禍々しいオーラ。近くにいるだけで足も声も震えてくる。


 怖い。正直にそう感じる。



「だからどうしたよ」

「アーロン?」

「俺はお前を殺して全員で明日を迎える。必ずな――」



 呼吸を整えて最大威力の魔法をぶつけろ。



「『グラビオル』」



 正面戦闘の火蓋は切られた。空間がひしゃげる程の重力が怪物に迫るが、体を覆っている結界が威力を消し去る。


 間髪入れずにシンの魔導具が火を噴く。目には見えないが無数の何かが結界にぶち当たりひびを入れようと襲い来る。全く同時に背後から光速のインビジブルソードが迫る。派手な硬質音を上げるが、未だその身には届かない。



「私の番ね!」



 高い奇妙な笑い声をあげながら魔法が生成される。



「まずい! 避けろ!」



 俺が声を上げた直後、視界を埋め尽くさんばかりの炎の刃が放たれた。

 これ……前回喰らっためちゃ痛いやつ。全力で避ける!



「つっ!」



 右に反重力をかけ左右で魔法が来るタイミングをずらす。同時にシンとラルフの方に向かう魔法を軽く散らす。できた僅かな隙間に飛び込み全ての刃をスレスレで避けきる。


 マジギリッギリ! しかもまだ奴は本気出してねぇぞ、命の危険が無くなって遊び半分って感じだ。そのおかげで生きていられるんだが。



「『グラビオル』!」



 すぐさま反撃。出来れば奴を押さえつけたいが――



「あら? そんな魔法効くわけないでしょう」

「結界……!」



 体中に張られている結界が俺の魔法の威力をほぼゼロに変える。全く意にも介せずに次の魔法――!



「ラルフ、シン! やっぱ少し離れて目を慣らせ! 無理だ!」

「いや、いける!」

「……了解。ラルフ、下がるよ!」



 その冷静な判断、助かる! こんなん俺みたいに経験がないと少しも耐えられねぇだろ!


 不死王の手に炎が生まれたと思った瞬間、それは爆炎となって俺を襲う。



「まさに炎の壁だなっ――!」



 逃げろ逃げろ逃げろ! 全力で後ろに下がれ!

 まだだ、追撃くるぞ注意しろ! 奴のモーションを、見ろ!



「雷か!」

「なんで分かるのかしら」



 咄嗟に思い切り横重力をかける。制御の域を越えて派手に吹っ飛ぶがなんとか回避。数メートル後ろで耳を劈く激音と衝撃が起こる。


 すぐに起きろ、次が来るっ……と!


 無数の風の刃が俺に迫る。後ろを確認する余裕――ない! シン、ラルフ、後ろにいるな!

 重力で減速させ、僅かに開いた隙間に体をねじ込みかいくぐって避けきる。後ろに下がり過ぎだ。どんどん距離が開く。


 今まで見てきたような魔法が来る直前の動きを奴はしていない。今がチャンス、近づけ。足を踏み込んだ瞬間、何回か味わった奴とっておきの攻撃が来る感じがする。



 第六感とは、本能が無意識の間のことを学習して発する危険信号。表情、僅かな動きなどからなんとなくヤバイ、という感じを俺に伝えてくる。



 その感覚に従い、後ろ向きに重力。慣性と逆に働き内臓が潰れる感じがするが些細なことだ。


 ずれた瞬間、目の前に氷の塊が突如現れた。だがほんの少し遅かった。俺のひざ下までが凍り付く。



「チ、邪魔だ!」



 体を捻りながら重力をかけ氷を割ろうとする。しかしその一瞬の隙が致命的。逃げられなかった。



「さよなら」



 金属でできた槍が横腹を狙い突き出てくる。まずい、間に合わない。死ぬ!



「早く動けっ!」



 氷の中から魔法で無理やり足を引き抜く。と同時に回転、槍は刺さらずに俺の腹を切り裂くにとどまった。引き抜いた足は無事じゃないな。舌噛み切りたくなるぐらい痛い。


 攻撃魔法はやまない。


 氷が変形して槍となり、俺を正面から突き殺しに来る。なんとか胸に到達する前に手で止める。地面からも、来るだろ! 咄嗟にその槍を起点に跳ね上がる。


 読み通りだ。動きが止まるであろう俺を狙って地面から何本もの槍が出てきた。次の回避行動――! 


 あ、遅かった。



 顔を上げた瞬間、ほんの目の前に風の刃。顔こそ咄嗟に守れたが腕と足を容赦なく切り裂いていった。


 その隙を奴は逃さない。雷が、降ってきた。



「当たったら、即死ぃぃ!」



 横に自分を飛ばす。しかしそれじゃ終わらない。この戦場中に雷が降ってきた。

 避けきれるわけ――ない。



「づうぅっ!」

「よく直撃だけでも避けたわね」



 痛い痛い! 体中が電熱で焼け付く。感電するから動きも遅いし痛い!



「ほらほら、踊りなさい、人間!」

「……あ?」



 何かの魔法が来ると読み、構えた。しかし何も起こらない――と拍子抜けした瞬間、人指し指に雨が当たる。


 強烈な痛みと共に、溶けた。



「あぁっ!?」



 そんな指が落ちる程じゃないが皮膚が液体となって溶けやがった! こいつ……!



「『グラビオル』――!」



 重力の傘を創るが、それが多分奴の狙い。少し、ほんの少しだけでも攻撃と回避に割く意識が減る。



「終わりにしましょう」

「まだ早ぇよ!」



 何が来る? 読め、読み切れ!



「いえ、終わりよ」



 大技か!? 回避――!



「『灼熱光線(フレイムビーム)』」



 技名を聞いて思い至った。それは例えるなら最高位の炎系魔法使いが何人も集まり、全魔力を振り絞って撃つほどの……大魔法。対魔王の戦争などで使われるほどの、究極魔法だ。


 やべ、死んだ。


 避けれないとはわかっても全力で横に飛ぶ。死の衝撃に備えようと目を瞑った――しかし、聞こえたのはつい最近聞いた声だった。



「『王の守護(キングシールド)』」


「……あ」



 目を開けて飛び込んできたのは見慣れたローブの色と、沸騰する地面。そして俺は無傷。



「無事だったか、重力魔法使い」

「お前、生きてたのか……」



 こっちの顔を向けられる。俺の叫びは通じたようだ。



「アリス、いや、キングか」

「貴様の叫びが我を起こした。仲間も無事だ」



 シンとラルフも今の魔法から守ってくれたのか。安堵の息が思わず漏れる。



「あら、やっと会えたわね。餓狼の王。私に付いてきてくれる気になったかしら?」

「虫唾が走るな不死王。生憎とたった今からは――四対一の総力戦だ」

「きゃはっ」

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