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九十話 『後輩の成れの果て』

 おびただしい量の魔獣が呼び出され、俺たちの前に立ちはだかった。


 割合で言うとS級三割、A級七割ってとこか? 正直このままじゃかなりきついな。

 元々童子の魔法は一対一には強いが大群相手だとテレポートできない。出来ても物量で潰される。かといって俺の魔法はS級魔獣に対しては致命傷とはならない。そこにA級魔獣もいたら完全にキャパオーバーだ。



「仕方ねぇなぁ~。ちょっと無理すんぞ」



 やるぞ、という意思を込めて童子を見つめる。闘志に満ちた目に少しばかり不安の影が見えたかもしれないが。



「やってくれるとかなり助かるけど……大丈夫?」

「……お前は自分の心配しやがれぇ~」



 俺の魔法『言霊』は魔力をこめた言葉で世界に干渉できる。不可能な物理現象を起こし、無生物にも強制力を与えられる。


 効果は絶大だが、いかんせん()()()()

 自分よりも格上の相手には効果がないし、魔力の消費も激しい。強い言霊を発すれば喉に焼けつくような痛みが走り、そもそも制御ができずに普通の言葉にすら言霊が混じる。


 だから俺は緊急時以外は魔法の強度というものがあれば中にして威力と代償をセーブしている。


 だが、今は緊急時だ。出し惜しみして勝てる程敵は弱くねぇんだぞ。魔法の強度を、数年ぶりに最大へとシフトする。



「あ、『あ』」



 少し声を出し喉の調子を確認。まあ、これ以外にも最大威力は痛みを無視すれば十数回は言えるだろう。



「A級魔獣諸君。さよならだぁ~」

「はあ?」



 魔の支配者から怪訝そうな声が漏れる。僅かに失笑と軽蔑も混じっているような気がする。

 そうだろう、お前たちにはA級魔獣を一気に屠るには俺単体じゃ十体程度が限界と言っていたからな。嘘じゃないが、騙して悪いなぁ、元後輩。



「『爆 ぜ――」



 大量の魔力が引きずり出される。同時にぐしゃりと喉から嫌な音がする。こりゃ激痛必至だな。


 魔法で直接喉を焼かれるような痛みを無視し、最後の一文字を絞り出す。そして言霊が――完成する。



「――ろ』」



 最後の一文字が発された瞬間、世界が俺の命令通りに構築される。

 残念。お前が必死こいて集めたA級魔獣は一言で、死ぬ!


 空から、地上から、地下から世界を揺るがした、と見まがうほどの爆音と振動と火柱が発せられる。

 奴の持っていた、ここに召喚されていたA級魔獣が最期の鳴き声をあげながら絶命していく。空から数十体もの魔獣の死体が落下してくる。



「実に壮観だなぁ~」

「怠惰な王……!」



 一瞬で何の役割も果たせることなく自分の傀儡を殺された魔の支配者の哀れさよ。怒りの視線が俺を貫く。痛みを忘れるほどの快感だ。



「視界がクリアになってよかったじゃねぇかぁ~、感謝しろ」

「いやらしい性格してるね」



 最大限の煽りをこめて言葉を発すると、魔の支配者の怒りが頂点へと達したようだ。直前の余裕の表情は消え去り、ものすごい剣幕で魔獣へ怒鳴る。



「殺せ! S級魔獣ども! 奴を殺せ!」

「出番だぜぇ~、影踏み童子。三十体ぐらいまで減らしたんだぁ~」



 背中を軽く押す。ここからの俺の役目はサポートだ。



「アシスト頼むよ」

「期待すんなぁ~」



 猛然と向かってくる魔獣たちに向かって影踏み童子が動きだす。


 同時に三つの頭をうねらせるのはケルベロスだ。目で追えぬほどの速さで真っ直ぐ童子に向かう。

 獰猛な牙が童子がいたところをかみ砕く――しかし、既にそこには何もない。



「惜しいね」



 当たる寸前に空中へとテレポートする。牙は空振りし、その上から剣が斬り降ろされる。二つ目の頭、三つ目の頭と襲ってくるが悠々とテレポートし優雅に首を切ってゆく。


 俺たちの鋭い目が魔獣の奥の魔の支配者を貫く。



「残念だけど……この程度の魔獣なんかじゃ私たちは殺れないよ」

「少し、先輩を舐めすぎじゃねぇかぁ~?」



 魔の支配者の怒りは行動で表された。俺たちのいたところをゴーレムの豪腕が薙ぎ払う。それに続いて数体のゴーレムとサラマンダーが走り寄ってくる。その奥にはガーゴイル……フェニックスまでいるのか。



「ったく危ねぇなぁ~」

「ゴーレムいける?」

「サラマンダーは頼んだぞ」



 左右に散開する。ゴーレムみてぇな巨体は剣を使う童子には不利だろうからな。



「こっちだぁ~デカブツ~」



 そこら辺の家の大きさをゆうに超える体から繰り出される攻撃の重さは半端じゃない。一撃まともに食らったらもう動けねぇな。

 何とかスレスレで前蹴りを跳んで躱す。俺の真後ろにあった家が全壊だよ。



「なんつー馬鹿攻撃力……!」



 動きは単純だが速いし強い。しかも堅いと来た。やりにくいことこの上ない。



「チッ――『崩れろ』!」



 いや効かない! ゴーレムのせめて足だけでも崩してやろうと思ったのに効果なしかよくそったれ!


 なんの障害も感じさせずに突き進んでくる。真ん中の奴のパンチを横にずれて躱すが、信じられねぇ。地面が吹き飛んで空中に踊りだされた。一瞬の間も与えられずに右の奴の拳が俺を狙って迫る。やばい、このままじゃ当たる。



「だぁくそっ! 『避けろ』!」



 言霊の、世界の力によって俺の体は物理法則を無視して横にずれた。ギリギリで横を拳が通過する。寒気がするような威力だ。


 不味いな、防戦一方。このままじゃ喉が使えなくなって死ぬ。攻撃に打開しないとジリ貧だな。考えろ、俺!



 地面に着地し、僅かな間で息を整える。見ろ、観察しろ。ゴーレム自体に効かないなら間接的に攻撃するしかない。


 一度距離を取るために走る。予想通り追いかけてきて――はまれ、俺の策に。



「『落ちろ』」



 ゴーレムが足を上げた瞬間、俺は呟く。次の足が着くであろう場所に魔法をかける。ゴーレムの足が着いた瞬間、落とし穴のように地面が崩れた。


 突然足場を失ったゴーレムは当然倒れる。相応の速度があったから尚更勢いよく。そして後続のゴーレムも突然できた障害に盛大に突っ込んだ。



 全てのゴーレムが地に伏したその隙を俺は逃さない。最大出力だ。



「『潰 れ ろ』」



 そのままじゃ効かない。だが、上に何体ものゴーレムが積み重なり弱まった状態の今なら、効くだろ。


 物凄い量の土煙が上がり、バラバラの破片となったゴーレムの残骸が飛び散る。



「まだじどめぎれでねぇ(仕留めきれてねぇ)奴がいんのが」



 ぼふっと嫌な音を出しながら吐血する。喉が焼けついた。まずい、もう魔法撃てねぇぞ。限界近い。

 ゆっくりと残りのゴーレムが立ち上がり、俺に殺意たっぷりの目を向けてくる。こりゃあいついないとキツい――



「ナイス怠惰!」

「やっどぎだか」

「アシストじゃないのにご苦労さん」



 安堵の息をつく。これで助かった。ここは任せよう。後の俺は完全にサポートに回る。



「魔剣は抜がなぐでいいのが?」

「あれは痛いからこのぐらいじゃいいや。やばくなったら使うよ。……じゃ、弱り切った人形たちを倒してくるよ」



 目の前から消え、ゴーレムの頸の上に現れる。俺の魔法で脆くなったゴーレムはS級の剣技には敵わず一瞬で崩壊した。



「あとは……奥の奴らだけだね」



 童子が挑戦的な目で魔の支配者の周りに漂っている魔獣どもを睨む。あれは二人だったら何とかなるだろう。客観的に分析してここは俺たちの勝ちだな。



 だが、何かが気にかかる。


 あ――



 それに気づいた瞬間血の気が引いた。奥にいる魔獣たちの珍しさで忘れていたのか。この中で、断トツ一番危険な魔獣を。



「ピエロドールはどごだ」

「え?」



 周りを高速で見渡す、だが姿が見えない。



「テレポートしでくれ!」

「分かった!」



 刹那のとき、一瞬。魔法を行使しようと思ってから発動するまでのその一瞬の隙。



「がっ」



 俺は赤い何かに喉を掴まれ地面を引きずられていく。



「怠惰!」



 童子の悲鳴のような声が遠くに聞こえる。

 ああ、お前。最初からこれを狙ってたんじゃないだろうな。ほんの一瞬だけ目についた魔の支配者の笑った顔。



 テレポートができないように何度も曲がり、童子の視界に入らないようにして数百メートル引きずられた。圧倒的な力に成す術もない。背中には凄惨な傷跡が付けられていることだろう。空気が沁みる。



 そして最後、民家に向かって投げつけられた。壁にぶち当たり、全身の骨が砕けるような衝撃が走る。壁を壊し、家の床に倒れる。


 視界が赤く染まる。全身痛いし痺れる。指先の感覚ねぇし。喉も話せないぐらい痛い。



 ゆっくりとした足取りで倒れた俺の前に、鬼が立つ。

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