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八十五話 『二度目の初対面』

 ギルドから鐘が鳴り響く。俺は魔導具をいじりながら闘気を高めている。

 俺がスタンバイしてるのはアーロンが予言した通り沿いの家。今のところ敵らしき奴は見えないけど……。他の魔導具フル活用で索敵しよう。



 アーロンと通信をつなぐ。ふと気になったことがあった。



「アーロン、聞こえる?」

「なんだシン」



 冷たい声。


 多分戻って来たのは俺と部屋で話している時だったと思うんだけど、あまりにも突然だった。急に怪我が体中に現れて、態度が変わった。以前とはまるで別人だ。

 この戦いが終わるときには前のアーロンに戻ってほしいんだけどな。



「あの魔導具を使ったことって、皆に話した?」

「まだだ。シンにも詳しいことは言ってねぇな」



 仮にも俺の最終兵器。そりゃ使わなきゃいけない時だってあるけど、せめて状況ぐらいは詳しく伝えてほしい。


 そのとき使わなければ今の俺は使えたからね。



「いつか、話すの?」

「心配しなくてもこれが終われば全部話す。話は終わりか?」

「……ああ」

「……悪いな」



 ぶつっと通信が途絶える。


 悪いな? アーロンも、自分の態度とか、そういうのに後ろめたさがあるのか?


 そうだといいな。正直、今のアーロンは仲間とか、自分とか、世界の全てを軽く見てそうで何か不安だ。


 願わくば、元のアーロンに戻ってくれ。



 鐘が鳴り響いてから数分たち、通りに黒狼が溢れてきた。所々に大鬼もいる。アンデッドとこいつらを纏めて相手すんのは正直キツいんじゃない?




 突然、頭の中に蜘蛛カメラから視覚情報が流れてきた。人型の魔獣! 出た! 遂に来た!


 場所は……この通りのすぐ近く! テレポートでもしてきたのか? 皆にすぐ知らせないと!



「皆、聞こえる? この通りの一本北に出たよ。アリスは準備を」

「OK」

「了解や」

「……来たか」



 どんどんこっちに近づいてくる。


 赤い屋根の家の真下にいるのがアリスだよな。黒狼が多くて見失いそうだ。


 遂に通りの端、初めてその姿を生で見た。



「めちゃめちゃ強そうやな」

「ん、鳥肌が立つね」



 なるほど、アーロンの言ってたことが少しは理解できたよ。これは……確かに化け物だ。

 ビビるなよ、俺。俺がミスったらこの作戦は全部ダメになるかもしれない。


 作戦開始は、奴が俺の家の前に来たら――



 アリスが黒狼を装って近づく。あと数メートル、あと二メートル。今だ、手を伸ばせ!


 何でもない風で前足であの化け物に触れようと、した。



「何をしているのかしら、あなた」



 氷のような声が聞こえた俺とアリスが凍り付いた。


 瞬間、アリスのいた道路が吹き飛んだ。



「なっ!」

「何があってん!」

「静かにしろ!」



 確かに、思わず大きな声を出してしまった、バレたか?


 そっと奴を見るとこっちを気にしてもいない。セーフか……。で、アリスは!?



 宙を舞う黒狼、屋根の上に勢いよく落下した。

 続けて奴は攻撃を放つ。目で追えない程の速さだ。アリスはその全てをギリギリで避けていく。



 作戦は失敗だ。アリスを助けに――、



「動くなよ、シン、ラルフ。作戦はまだ続いてるぞ」

「アリスが死ぬぞ!」

「いや、絶対に死なない。問題ない」



 何を根拠に――っ! 駄目だ、アーロンが全部正しいわけじゃない、俺は行く!



「絶対に、動くなよ。誰も殺したくないんだったらな」

「何でだよ! 仲間を見殺しにするのか!」

「違う。訳は話せないがアリスは絶対に死なない。そして必ず隙を作れる。シン、お前はその時の準備をしてろ」



 理解できない、訳を話せよ! 今なら後ろを向いてて絶好の奇襲のタイミング! 俺たちで合わせれば一撃は入れられそうなのに、なんでだよ……。



 アリスは辛うじてだが致命的な一撃は貰っていない。攻撃を穴が開くほど見ているうちに、少しずつ目が慣れてきた。

 あれ、風の刃だ。それをアリスは避けながら少しずつ近づいている。まだ、アリスは諦めてないのか。



 物凄い魔法の嵐の中を強引に近づき、残り数メートルまで近づく。



「気持ち悪いわね。あなた黒狼……な訳ないわね。誰? S級かしら?」

「……」

「返事はなし。殺すわよ?」



 濃密な風刃が放たれる。


 動きたい、けど駄目だ。アーロンに止められてる。叫びたいのを我慢して手を握りしめた。



 アリスはその瞬間、人に戻った。


 怪物さえも少し呆気に取られたような表情をした。アリスはその隙を見逃さない。


 不可避と思われた風刃を、影踏み童子さんの魔法、テレポートで回避。アンデッドの後ろに移動した。

 首元を掴むと同時に、こっちにウィンク! 合図だ!



「あら? 魔法が……」

「「シン!」」

「分かってる!」



 家の窓を突き破って宙に躍り出る。山のような爆弾を放り投げ、叫ぶ。



「爆ぜろ!」



 アリス諸共大量の爆弾が炸裂した。



 ★ ★ ★



 よく我慢した、シン!


 少し離れて爆炎が見えた瞬間俺も遂に戦闘参加だ。


 続けてシンの魔導具、ガンナーが猛威を振るう音が聞こえる。



 作戦っが少しだけずれたが全く問題なし。アリスが収集した剣聖さんの魔法、魔法無効化で奴の魔法攻撃、結界の両方を無効化。よって、攻撃が通る。



「最高だ、シン」

「ナイス爆発や」

「お礼ならアリスだ。煙が晴れるよ」



 煙が晴れる瞬間、俺は助走をつけて奴へと駆ける。

 取り敢えず、一発――



「殴らせろ」



 テメェには恨みしかねぇよ。本当に、本当に!

 殺す! 死ね!



 地獄がよみがえるようなその不快な面がようやく見えた。



 思いっきり、その顔面を殴りつける。この思い全てを拳に載せて、自分が扱える最大重力をのっけて、殴った。

 肉が潰れる感触が拳に伝わり、悪臭と紫の体液が降りかかる。



「ああ、やっと殴れた、やっと攻撃が入った」



 無様に地面に転がった怪物を見てそう呟く。



「なあ、覚えてるか? 俺を、俺たちをどんだけ突き落としたか」

「何の……話よ」

「お前が知らない、復讐の話だよ」

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