七話 『Let’sバンジージャンプ』
「よーし、お手玉はそろそろ終わりね。出来るようになった?」
「ん~、もうちょっとです。」
「そうか。で、何か気づいたことは?」
「重力魔法というものは、重さを操るのではなく、重力を操る。重力というのは引き付ける力であり、その強さや向きを操るっことですか?」
「…………。」
「な、なんか間違ってましたか?」
なんで急に無言になるの?めっちゃ不安になるんだが。そんなに俺に素質とか無かった?
「正解よ。大正解。」
「それならなんでさっき黙ったんですか?」
「それはね、驚いたのよ、あなたの天性の素質に。」
「どういうことですか?」
「普通はね、重力というものの概念を自分で理解するのにかなりかかるわ。一週間や、二週間。それをアーロンはたった一日でやってのけてしまった、ということよ。」
「そんなに難しいことだったんですか?」
「人間は自分の目に見えないことの理解は非常に難しい、だからこそこの魔法は扱いが非常に難しい。流石私のむす……いや、流石私の弟子ね!」
「……ありがとうございます。」
何か言いかけたよな?何だったんだ?
「この調子ならジャンプの訓練の第二段階に進めそうね。」
「ただのジャンプから進化するんですか!」
「そうよ!こっちに訓練場所があるから行くわよー!」
★ ★ ★
「ここで訓練するって冗談ですよね?」
「私は至極真面目よ。言ったじゃない、度胸がないと重力魔法は使えるようにならないわよ、って。」
「こういうことだったんですか!?」
目の前には断崖絶壁の崖が広がっていた。下がうっすらと見えるぐらいの高さだ。ここで訓練するって冗談だろ!?こっから落ちたりすんの!?
「この訓練の趣旨は自分の身で重力を体感することよ。さっきは頭で理解した、だから今は体で理解するのよ。ここで重力のイメージを掴みなさい!」
「……具体的にはどうするんですか?」
空気が読める俺は大体答えが分かっているが一応聞く。半ば察して軽く絶望してるけど。
「え?こっから下に向かってダイブするのよ。何十回も、感覚をつかめるようになるまで。あ!一応最初は足に紐を括り付けて飛ぶから大丈夫よ!」
こんなこったろうと思った!しかもバンジージャンプすんのに一ミリも大丈夫じゃねぇよ!
★ ★ ★
「さあ、心の準備はできたかしら?」
「全然できていませんが、やるしかないでしょう?」
「そりゃあね。昔の学者さんとかも何とか重力魔法を実用に足る魔法にしようと一生をかけて研究しても無理なのよ?ちょっと風変わりな訓練しないとその壁は越えられないわ。」
「ちょっとじゃないです。この訓練はぶっ飛んでますよ。」
「でも、使えるようになりたいでしょ?」
それは卑怯な一言だ。初日からこんな訓練、使えなくてもいいんだったらとうにやめている!
「やります!紐を足に!」
「よろしい!」
「準備できたわ!さあ、とりあえずダーイブ!」
ドンっと背中を押され地面の感覚が消える。浮いた、っと思った瞬間、凄まじい速度で落ちていく。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!しぃーぬぅぅぅぅ!」
ああ、この落ちる感覚が重力魔法で操t。
「ふべっ!」
足にいきなりもの凄い衝撃が加わる。落下してるときにいきなり紐が伸び切ったからか。
「いってぇぇーー!」
足がち、千切れるかと思った!
落ちている時間はかなり一瞬で、重力を感じることはできたが、魔法にできるかと言われると無理だ。多分まだ体の芯から理解はできてない。これをあと何回もやるのか……死ぬかもしれない。
というかさっきから頭がずっと下だからやばい、頭に血が溜まってクラクラしてきた。何とかして頭上げねぇと。腹筋を総動員して足に括り付けられている紐にしがみつき、頭を上にする。やば、お腹プルプルしてきた。早く上げてくれぇ!師匠!
★ ★ ★
「どうだった?快適な空の旅は。」
「快適さを感じる暇はありませんでしたね。しかも頭に血が行って死ぬかと思いました。」
「それでエビみたいな恰好で上がってきたんだね。」
「必然的に腹筋が鍛えられますね。」
「いいことじゃん!本命の重力を感じることはできた?」
皮肉が通じなかった!
「できたと言えばできましたけど、魔法に使えるような明確なイメージは全然できてません。」
「ん、一回目でそれができたら正真正銘の化け物だからね。ヒントは、最初はどんな感じで重力魔法を使えるようになりたいかってことを意識する。例えば私はアーロンに最初に使ってもらいたいのは体にかかる重力を操ることなんだ。」
「……どういうことですか?」
空中浮遊とかか?
「つまりだね、動くときは体にかかる重力を小さくして、速く動くようにする。攻撃の瞬間にだけ、蹴るんだったら足を瞬間的に重くすることで馬鹿みたいな威力の攻撃ができる。それが一番簡単かつ強い。」
「体にかかる重力をイメージすることを目標にすればいいんですね?」
「まあこの魔法はコツをつかんだらあとは大体できる。重力をどんな形で使うかが腕の見せ所だよ。」
「はあ。」
「細かいことは置いといて取り敢えずもういっかーい!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
今日飛んだ回数、100回。しかし、それを一週間、計700回続けてもコツは掴めなかった。
「うーん、そろそろ次のステップに入る?」
「なんでですか?」
「人は痛みを伴わない訓練から得られるものは少ないと思うんだよね。」
「…………つまり?」
この流れ、師匠が無茶なことを言う流れだぞ。嫌な予感!
「次からは紐無しで飛ぼうと思う。もちろん私が魔法を使って、地面に落ちても痛いで済ますぐらいの速度に調整するけど。」
遂に紐無しバンジー来たーーー!母さん、父さん、シーロン!俺ここで死ぬかも!