六話 『最強の指南』
俺の名前はアーロン・アスレイド。国の騎士団長の長男なのですが……。訳あって顔が真っ赤なフードで隠れてて見えない、正体不明の賢者(仮)のところで強くなるための修行を始めました。
「ほらほら~、あとすこーし!」
朝から15キロのランニング、まあまあキツい!
「はい、終了。ご飯できてるからすぐ来てね。」
木の上の家、ツリーハウスに重力魔法を操って師匠が上っていく。え、俺は?
「まだ魔法使えないんで上げてくださいって!」
「あ、ごめん!」
昨日も似たようなことあったよな!
★ ★ ★
「はい、今日の朝ごはんはステーキです。」
「…………これって朝ごはんですよね?夜ごはんじゃなくて。」
「そうよ。」
「朝からステーキっすか。」
「素敵でしょ!」
「…………突っ込みませんよ。」
ちょっと俺には色々と刺激が強すぎるかな。ふー、ステーキか、重い……。
「あれよ、これから運動するから頑張って!ってことよ。このステーキ。」
「ありがたくいただきますよ。ちなみにこれ何肉なんですか?」
「………………秘密よ。」
何それ怖い。何なの、人肉とかカミングアウトされたらどうしよう。
「言ってください。」
「後悔しないのね?」
「いいですから。」
「ホーンラビット肉よ。」
「ブッ!」
何食わせんだ!あいつのかよ!
「あれよ!アーロンが襲われてたやつじゃないわよ!」
そういう問題じゃねぇ!
「ちょっと食べる気無くしました。」
「意外とメジャーなのよ!B級だから倒すのはちょっとだけ難しいかもしれないけど全部倒せばいっぱい手に入るから効率いい普通の肉よ!多分アーロンも食べたことあるわ!」
「知りたくなかった、その事実!」
大人になりたくなかった瞬間二つ目だ。ちなみに一つ目は魔法もらうときね。
「じゃあ食べ終わったら外に出てね。訓練の用意してるから。」
「了解です。」
用意してくれてるのか。なんか意外かも。
外に出た俺に期待しちゃダメってことを言いたい。痛烈に。
★ ★ ★
「下ろしてくださーい!」
「飛び降りていいわよ~。」
「そんなことできるわけないじゃないですか~。」
「地面で受け止めるからドーンと来なさい!」
快活に笑ってるけど何言ってんの?世間じゃパワハラって言われてもおかしくないよ?
「は~や~く~。」
「本気ですか?!」
「本気よ。大丈夫よ、私失敗しないから。」
「そういう問題じゃないです!」
「怖いの~?」
「怖くない人いるんですかねぇ!」
「あ、これくらいできないと重力魔法は使えるようにならないわよ。」
「そこにどんな関係が?!」
「訓練にならないわ。」
「……………………分かりましたよっ!」
「骨は拾うわ。」
「なんで人が覚悟を決めた瞬間にそれ言うんですか!」
「やーっと降りてきたわね。」
「どうせ度胸はないですよ。そしてこれは?」
「見て分からないの?木の人形よ。」
家の近くの草原に1本だけ木が、正しく言えば等身大の木の人形が突っ立ってた。
「そうですか、さっき言ってた用意っていうのはどれですか?」
「これだって。」
「…………OH……。」
なんか薄々感じてた予感が的中した。
「じゃあ始めてね。」
「何をですか?」
「格闘訓練よ。」
「師匠相手にですか?」
「違うってって言ってるでしょ。これ相手によ。」
これって木の人形相手に?
「はい、アーロンの剣ね。」
ほいって渡されましても。
「多分だけど重力魔術師はまずは近接戦闘をベースにした戦い方からよ。なんでかは後から分かるわ。だから格闘の技術が無いとただの一般人よ。ファイト!」
「師匠はどうやったんですか?」
「私も昔は頑張ったわ。今はやりたくないだけで。」
「……分かりました。」
もう慣れたぞ。
「私も外から見てガンガンアドバイスしていくからね!」
「よろしくお願いします。」
早速気を取り直して剣を持ち、人形へ向かって型を舞い始める。が。
「型なんかやってても冒険者じゃ意味ないわよ。型が通じるのは剣しか使わない人間だけ。冒険者が相手するのは魔獣たちよ。もっといろんな角度からより速度を意識して切り込みなさい。攻撃に一番大切なのは速さよ。それに重力魔法で重さはどうにでもなるからね。」
「はい!」
めっちゃちゃんとしたアドバイスだった!ぶっ飛んだこと言われるかと思ったら!
「適当にやったら今度は剣無しでも訓練してね。徒手空拳で。」
「分かりました!」
何気にキツくて身になりそうな午前中のランニングと格闘訓練は一日目を終えた。あとは午後のお手玉とジャンプなんだが……これの意味は?
★ ★ ★
「午後の部行くわよー!」
「はい!」
ご飯は何気に美味しい。なんか懐かしい、それこそ母のような味がする。
「午後第一はお手玉ね。今日中に二つ回せるようにはなってね。」
「そもそもお手玉って何ですか?」
「カルチャーショックってやつ!?」
「知りませんよ。」
「お手玉って言うのはね、この玉を空中でぐるぐる回すのよ。こんな感じに。」
「おおっ!」
師匠、なかなか上手い!てかかなり難しそうなんだけど、これ一日でやんの?
「この訓練の趣旨は、お手玉じゃないわよ。お手玉を使って重力を実感する。これが課題よ。よく考えながらやりなさい。」
「はい。」
言われた通りにポーンと1個の玉を投げ、その間にもう片手に持ってた玉を投げた方の手にパスする。丁度投げた方が落ちてくるので空いてる手でキャッチ。難しいな、これを理解すんのにかなりかかった。
重力をこれから感じ取れと?そもそも重力とはなんだ?それは地面が地面に引き付ける力の事だ。この玉が落ちてくるのが重力の影響ってことか?
つまり、重力魔法ってのは重さを操作する訳じゃなくて、この重力、引き付ける力を操作するってことか。師匠みたいに宙に浮いたりするためには、この引き付ける力を0にする、ってことか。ちょっと分かったぁ!
ここまで3時間、無心でお手玉をやり続けた結末だ。