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五十五話 『キングの采配』

 時は少し遡り、アリスが開戦の合図とともに走り出した。



 ラルフとの作戦ハ……あの二人は組ませたら厄介なのデ、とにかク――個別撃破!



「準備はいいですネ?」

『もちろんだ。前見ろ、敵来るぞ』



 あの女の子がこちらを見テ――魔力を練ってるんですネ。させませんヨ。取り敢えズ――



「『炎弾』」

『やれ』



 空中に出現した炎の玉が一斉にあの子に向かっていク。流石にaction(行動)せざるを得ないでしょウ。

 そのとキ、小さな詠唱が聞こえタ。



「『水弾』」

「あラ」



 同じ数の水弾が炎弾を打ち消す。しかもかなりの威力ですネ。



『確かに、少しは苦戦するかもしれぬな』

「目指すは圧勝、ですヨ?」

『当たり前だ』



 全速力であの子に接近する。近づいたらボカンで一発ですネ。……近づけれバ。

 自分を見つめるその子の瞳に――殺気、怪しさが灯る。本能が警告してきタ、何カ……やばいト。



『おい』

「……分かってまス」



 あの子の魔力が充満したここは危険ですネ。いつ何されるか分かったもんじゃありませン。一挙一動をちゃんと見――



 瞬間、確かに詠唱が聞こえタ。それは囁くようデ……死ヲ、錯覚させタ。



『貴様――ッ!』

「ぁやバ――」

「『水竜の咆哮』」



 私たちが感じていた嫌な予感の正体、それハ、()()()()()。妙に手出ししてこなイ、その割に魔力がヤバイ。予感ハ……当たったそうですネ。



 素早ク、荘厳ニ、巨大な水竜が形造られていク。もちろん水ですガ、半端じゃない存在感ですネ。



「あなたたちには時間をかけていられない。これが終わったらすぐ――ライト様の下へ行く」

「舐められタ――」

『貴様! 避けろ!』



 あの子が手を振り下ろした瞬間、がぱっと水竜の口が開いタ。魔獣も逃げ出すような魔力が溜まリ……ぶっ放されタ。

 地を抉リ、空気を震わせタ。莫大な破壊力を伴った水砲は一直線に私に向かってくル。それも避けようがない速度デ。



 キングの声が聞こえた瞬間、反射的に後ろに退避しましたガ……遅かったですネ。



 正面から私の体に『水竜の咆哮』が直撃した。












 世界かラ、すべてが消えたと錯覚しましタ。



 凄まじい威力ですネ。頭がぐらんぐらんして体が痺れていまス。No,これは闘技場の壁に叩きつけられたからですカ。四肢が吹き飛ぶかと思いましタ、冗談抜きに死にますネ、こレ。



『無事か、貴様』

「全然ですよっト」



 根性で起き上がル。そうでもしないとあの子ラルフの方に行っちゃいますからネ。



「もう本気出しちゃっていいですカ?」

『……まだだ。もう一回だけ、耐えられるか?』

「本当にそれで勝てるんですカ?」

『……油断させ、侮らせ、必殺を叩きこむ。一番勝率が高い方法だが』



 人使い荒いですネ。私のことをしゃべるサンドバックか何かだと思っているんでしょうカ。いつまでも耐えられるわけありませン。



『貴様を見込んで言っている。無理なら別の方法を考えるまでだ』

「いエ、行けますヨ」



 私がここで負けるわけにはいきませんからネ。



『いい心がけだ』



 ★ ★ ★



 結構遠いですネ、飛ばされましタ。



「『錬成』」



 闘技場の壁から剣を作り出ス。不格好ですガ、これでいイ。



「いきますよーッ!」



 大声でそう叫ビ、全速力で()に向かウ。殺気はあえて出しておきましょウ。



「馬鹿ね」

「聞こえてますよーッ!」



 このくらいでいいですカ、石造りの剣を思い切り投擲する。



「よっト」

「は?」



 別に身体強化はしていませんガ、普通に鍛えてるんでかなり痛いですヨ?



「つっ!」

「隙あリ」



 更に速度を上げる。あと数歩でス、もしかしてこのままいけちゃいまス?



「もら――」

「『渦潮』ッッ!」



 苦し紛れの技。そう思っていタ、間違ってはいなかったんですガ……威力がやばいでス。



「あゥッ」



 踏み出した一歩を強制的に発生した渦に引き戻されル。またも巨大な大渦ハ、私を引きずり込むように巻き続けル。体中の骨が折れるかと思うほどの重イ、衝撃。



 溺れますッ! ヤバイ!

 意識を失って堪るものかと必死にもがき続けるト、突如空中に投げ出されタ。



「ヘ?」



 渦が私を放り投げたんですカ? 何故――



 その答えはすぐに分かっタ。下から水竜たちが私を狙っていル、それも何匹モ。……キング、どうしましょウ。



『……死ぬなよ』

「他に言うことは無いんですカ」

「『水竜の咆哮』」



 前方全方位かラ、死の水砲が放たれタ。














 死が目の前に迫ってくル。視界が水で埋め尽くさレ、当たったと感じる暇もなく容易く吹き飛ばされル。比喩ではなく肋骨が粉砕さレ、四肢が断裂しそうになル。

 数秒後、闘技場の壁を放射状に叩き割りながら激突しタ。さっきとは比べ物にならないほどの痺れが私を襲ウ。指先すら動かせませン。



 もウ、本気出していいですよネ?



『ああ。やれ。作戦とは違ったが』



 もうちょっと油断させた方が良かったですかネ。



『確かにその方がいいが、問題ない。もうあの魔法は見飽きた。……次はこちらが翻弄する番だ。無限の魔法で掌にのせてやれ』



 えエ、Of course(もちろん)



「『究極の回復』」



 小さく呟いただけデ、骨が繋がり傷も消えタ。戦えル。私を殺したと錯覚してる奴ニ……反撃でス。

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