五十四話 『策×策×策』
流石に一本やキツイと思って二本目出したけど正解やったな。やっぱしっくりくるわ。やけど……インビジブルソードは、まだ使わへん。
「切られた傷は治ったかいな」
「……ああ。待ってくれてありがとう」
もちろん皮肉や。あいつが感謝なんてしてるはずないやろ。
ただ……俺も油断してはられんな。本気出さないとすぐ死ぬわ。
二本の剣を正眼に構えなおす。攻撃と防御、両方スムーズにできるように。
「死ねよ、ラルフ」
「ぁ――」
その言葉と共に消えた、そう、錯覚した。あかん、受けろ。受けろ受けろ受けろ! 受けな――即死や!
「――ッ!」
ギリッギリ剣を間に挟み込む。硬質音と衝撃が来て手が痺れる。やばい、ライトも本気や。
動きが目でとらえられない。感覚と勘だけで剣閃を予測し、不格好に剣をはさんで何とか防ぐ。正面から叩きつけられる圧に押され、思わず後ろに下がる。
でもこのままやったらジリ貧――、攻撃や! 攻撃攻撃攻撃――
「攻撃すんで!」
大声を出して自らを鼓舞する。多少無理やり体を投げだし、技を放とうとする。
ライトの剣が肩口に思い切り切り込まれた――歯ぁ食いしばって耐えろ! 一撃!
「双流剣術『十薙ぎ』ッッ!」
「っくそったれ」
剣閃の間に強引にねじ込み、無理やり放つ。重ねられた二本の剣がライトを押し戻す。距離が一瞬離れたから、休憩……。
いつのまにか息めっちゃ荒い。地獄みたいにキツイな、というより想定より強いな。
多分、ってか確信やけど、俺あいつに勝たれへんわ。二刀流使っても、どうしてもライトの方が強い。正攻法やあかん。
勝つためには……どっかで、確実にインビジブルソードを当てるしかない。それも即死させないとあかん、絶対チャンスは一回しかないしな。
「やれるか……?」
思わず弱音が口を突いた。
ライトを見据える。さっきのお礼なんか知らんけどご丁寧に待ってくれてはるわ。
アリスを一瞥する。地味に劣勢なんかな、あの嬢ちゃんも強いなぁ。
やれるか、やないわ。何言うてんねん。
やれ。限界? 不可能? 突破しろ。
師匠やって初見はいけた。今のインビジブルソードは、圧倒的初見殺しや。
たった一回でええ、作れ。命がけで、チャンスを。
「目つき、変わったね」
「変わったのは目つきやない…………覚悟やろ」
さあ始めようや、殺し合いを。
★ ★ ★
過激なこと考えてても、心が静かや。深呼吸――――いくで。
踏み込みから最速で。ただ無策のように一直線に相手へと向かっていく。ただ、斬り伏せる。
「こいよ、ラルフ」
対してライトは微動だにしない。自分の間合い、そこに入るまで。俺たちの間合いはほぼ一緒……ただ、剣の速さが勝負やな。
下段に構えていた剣を振り上げる。
ほんの、少しだけ間合い外。それをライトも分かっているから一瞬遅れて、間合い内に引きずり込んでから動く。
だから遅いねん。
振り上げた剣の軌道を変えろ、顔の当たりに来たら、突く!
「なっ」
「遅いわ」
間合いをぴったり読み切った、やから、ちょっと間合いが伸びたら、俺の勝ちや!
全力で頭を横に振る。凄まじい反射神経、頬への傷だけで剣が通り過ぎた。
普通、突きが外れたら胴体はがら空きになる。やけど俺は……二刀流。
予想通り胴に来た聖剣をもう一方で受け止める。と同時に突いた刃を後方に横薙ぐ。ライトは躱したか。
「僕のターンだ」
「やば」
振り向きざまに体の前に剣を置く。震えるほどの衝撃で聖剣が叩きつけられた。危っぶな。
攻撃の手は緩まない。聖剣が連打される。だが、俺は一本を盾のようにし、もう一本で突きまくる。
今だ。絶好の時、今、崩せ。全ての隠し玉をぶっ放せ。
「『ジェット』」
機械腕に搭載された機能、超加速。
この数合いの突きと比較にならない速さで突きが放たれる。これが、
「必殺技、だっ!」
「チイッ!」
鍛えられた反射神経で接触だけは避ける。だが、受けた聖剣は跳ね飛ばされ、すぐには、振れない。
「インビジ――」
勝った、迂闊にも、そう確信した、してしまった。あのにたっと笑った笑顔を見るまでは。
「残念」
空いた俺の横腹に、意識外から殴り飛ばされる。は? 剣は――?
「鞘も、攻撃手段だ」
「あ」
ライトが上段に剣を大きく振りかぶる。余裕の笑みだ、倒れた俺は何も出来ひん。……普通なら。
「なあ」
「何」
俺は問うで。その余裕の笑みに、勝ちを確信したその笑みに。
「……なんで勝ったと錯覚してんねん」
「――」
なんで俺が最後の切り札を残してるって思わへんの?
ライトの胸をインビジブルソードが光の速さで穿つ。
「かはっ」
最後の悪あがきとでもいうように、聖剣を投擲してきた。
これは俺にも分かんないんやけど……俺は、インビジブルソードを、二本使えるようになっていた。
聖剣は、俺の前にある不可視の剣の腹に当たり、虚しく落ちた。
「何故かな? インビジブルソードって光速で動かしても防がれんねん」
多分やけど、なんか極めた、師匠みたいな人は感じられる。
「やから、策を弄して絶対に防げんようにしてから使うねん」
「ぁ……?」
死寸前の目をしながらライトが意味不明、みたいな感情を出してくる。
「つまりや、必ず殺す、やから必殺技やねんな、って思っただけや」
「お前は必殺やなかった、正々堂々、俺の勝ちや」




