五十二話 『因縁の開戦』
宿とは違い、一人部屋なのでよく眠れた。
起きて、顔洗って、赤いローブを纏う。身が引き締まり、目に光が宿る。
「よ、アーロン。眠れたか?」
「おはよラルフ。いいベッドだったな」
部屋の外に出ると、廊下でラルフが待っていた。続いてシンも部屋から出てくる。
「あ、おはよ」
「シン、準備は大丈夫か?」
「ん、出来てる」
アリスがまだか。女子だから少し時間かかってんのか? と思っているとドアが勢いよく開く。
「遅れてすみませン!」
「大丈夫やで」
全員揃ったことで事前に知らされていた部屋へ向かう。
「何があるんやろ」
「まずは……朝ごはんかな?」
「正解だよ!」
「「「「うわっ!」」」」
突然後ろから声がかかって振り向く。首がねじ切れるかと思ったぞ。
「腹が減っては戦はできないからね。入って、皆揃ってるよ」
中に入ると、朝ごはんとは思えないような豪華なものが用意されていた。
めちゃめちゃいい匂いだな。思わず唾が出る。
席に着くと、壇上から声がかかる。影踏み童子さんだ。
「さて、皆席に着いたので! いよいよ決勝戦の概要説明だよ!」
「「「「待ってました!」」」」
会場全員の目に火が付いた。
★ ★ ★
「この決勝戦で勝ち残ったグループだけが私たち直伝の強さを手に入れられる! オーケー?」
「ああ」
小さく呟く。
会場は説明を急かすような雰囲気だ。
「ルールは簡単……二人までの人数で行う、ただの……殺し合いさ」
ふっと声のトーンが低くなる。と、同時に一瞬で空気が張り詰める。
殺し合い? この戦いって殺しありなのか? わずかな恐怖と興奮が駆け抜ける。
「ま、降参させても勝ちだ。って、なんで皆そんな緊張してんの?」
心底不思議そうな声で問いかけられる。俺も周りを見渡すが、確かに顔強張ってんな。
俺? 全然躊躇も緊張もないな。何を今更他人を蹴落とすことにビビってるのか。
「君たちだって魔獣を殺すだろう。その延長線上じゃないか」
「ッ! あの! 殺すのはやりすぎです!」
童子さんが冷たい一言を放った時、勇者が声を上げた。正義感の塊みたいなやつだもんな。
「勇者さんか。なぜ殺すのは駄目なんだい?」
「それは! あんまりだ! 身勝手に他人の人生を奪うのは!」
「君は魔獣を殺す寸前に同じことが言える?」
「ッ……!」
言いくるめられたように一瞬口を噤んでしまう。
「でも……魔獣と――」
「人は違うって? それはあまりに傲慢だよ。私たちは彼らの屍の上に生きてるんだ」
「くっ……!」
「魔獣は人を殺すけど、私たちだって魔獣を殺す。視点が違うだけで客観的に何の違いもない。まさか他人を蹴落とさずして皆で仲良く強くなれると思ったの?」
子供には、いや、大人にも理解しがたい正論。理解できるのは真に修羅場を潜った人間だけじゃないか?
「責任から目を背けるな。その覚悟がある奴だけ、この城の闘技場においで。他は帰りな」
「私は!」
エミリアちゃんによって机が思い切り叩かれる。
「私は、この行為を認められません!」
「僕も、エミリアに同意かな」
「俺もだな。先の意見には納得したが、殺しは異常と言わざるを得ない」
シーロンと切れ目の剣士がエミリアちゃんに同調する。勇者は無視された。
そのとき、こらえきれなくなったように童子さんが笑い声をあげた。
「あー、ごめんごめん。流石に回復させるよ? 蘇生ができる人いるからね」
「「「え?」」」
「流石にそんなブラックじゃないよー」
「じゃあ、今の問答は……?」
「君たちの覚悟を測る、ただの質問だよ」
「なんだ……」
勇者が力なく椅子に座りこむ。
ま、リザさんがいるの知ってたしそんなこったろうと思ったが。
「まあ……一部本気で殺しも辞さない人もいたみたいだけど、ね」
軽く引き攣りながらも微笑んでこっち、特に俺を見つめてきたように思った。気のせいかもだが。
「まあ簡単に言うと実戦だ。一回戦の相手は闘技場で言うから、早く来てね」
それを言い終えると姿を消して、俺らは取り残された。
「ほな……行くか」
「「「おう!」」」
★ ★ ★
「随分広い闘技場だな」
「俺とアーロンの決闘を思い出すなぁ」
中心にグラウンドがあり、周りを観客席で囲まれている。俗にいうコロシアムだ。こんなのが地下にあんのか。
「皆集まったね? それじゃルールの再確認。相手を降参させるか殺したら勝利。ま、回復できるから安心してね」
全員が軽く頷く。
「他のS級冒険者たちは観客席から見てるから。やばいときは止めに入るよ、蘇生できなさそうなときとか」
観客席の方を見上げるが……母さんはいないか。共和国にいんだっけ?
「では! 第一戦目の組み合わせを発表します!」
「「「おおー!」」」
「来たる第一戦は……ライト君たちとラルフ君たちのパーティー! 双方、出場者を二人選んで五分後にここ集合!」
一回目であいつらの相手か!
……ぶっ潰してやるよ。胸の高鳴りに嗤った。




