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五十話 『ラルフ・ランド』

 城の螺旋階段を上り、自分の部屋に移動する。



「おお」



 広っろ。前の家と比べたら同じぐらいだが、宿とは別次元だな。



 王国にいたときよりは重い財布だけを置き、隣のラルフの部屋に行く。



「ラルフ、入るぞ」

「ほい、ええで」



 ドアを開けると、俺の部屋と同じ間取り。

 取り敢えずベッドの上に座った。



「入っていい?」

「シンか、いらっしゃい」

「ん」

「ア、待っテ! 私モ!」

「アリスか」

「全員揃ったやんな?」



 三人とも軽く頷く。



「じゃ、始めんで。俺の家の話やな」



 ★ ★ ★



 俺の生まれは共和国や。



 共和国ってのは色んな人種が混じり合ってんねんな。家もその一つやから方言やねんな。



 共和国には剣の天才、『剣聖』って人がおんねん。

 ランド家が、剣聖の家系やねん。貴族じゃないんやけど『剣爵』って位を貰ってる。



 家の伝統として、『長男が十五になったとき、その家で一番強いんを剣聖とする』ってのがあんねんな。



 で、そのときのランド家には俺と、『笑う剣聖』の二人やった。



 せや、俺と師匠は兄弟や。

 やけどな、剣爵家では兄弟って実感はなかってん。

 ただ剣を教えてくれた師匠、って感じや。

 俺の双流剣術も師匠に教わったもんや。ま、今の師匠は別の流派やろうけど。



 勇者との因縁もその頃だな。あいつも俺と一緒に習ってたんだ。そのときからあんな感じだ。



 で、その二人で決闘してん。そんとき俺は十二、完敗やった。



 師匠は勝ったから今代剣聖。負けた俺はもう家からは用済みちゅーわけやな。

 追い出されて冒険者になってん。



 酷い話? まぁ魔法もないとき冒険者になるなんて普通やったら自殺行為やな。



 やけど俺には剣聖の家系で培った剣があった。それでギリギリ生きてこられてん。



 血反吐吐きながら頑張ったで。我ながら。

 家見返すために何度も死線に行って、めっちゃ頑張った。



 それでも負けた。剣聖ってのはバカ強いな。



 あぁ? 剣聖の能力? ああ。



 剣聖になったら、家の奥義みたいなの知れて……、あとは剣が貰えんねん。せや、魔剣。代々剣聖が使ってる奴な。



 その名も『草薙』。

 剣……ちゅーか刀やな。魔刀。

 噂しか知らんけど、意志疎通ができて、使えば持ち主をアホみたいに強化すんねん。



 俺が言える情報はこんなもんやな。



 ★ ★ ★



「なるほど、良く分かった」

「だから勇者を嫌いだったんだ」

「せや、あいつは昔っからうざいねん!」



 ツンデレとかじゃなくて本気で嫌いなんだよな、ラルフは。



「皆で何か遊びませんカ?」



 アリスが隅に積んであるボードゲームを指差す。

 今日ぐらい楽しめ、って気遣いか?



「悪いが俺はパスだ。ちょっと用事がな」

「どうしたのですカ?」

「あの人?」



 勘がいいこった。ただ俺の身分がばれるのは避けたい……。



 うん、シーロンに口止めしよう。



「あの人は誰なの?」

「……俺の弟。……一介の冒険者だ」



 ★ ★ ★



 ラルフの部屋を出て、廊下に出る。

 廊下の端に行き、螺旋階段を上る。



 一段一段上るごとに僅かな緊張が迫る。若干気まずい……。



 俺たちの上の階に着く。階段を出て一番最初の部屋に行く。

 ノックする前に深呼吸。覚悟を決める。



「シーロン、いるか?」

「来たね、兄さん」



 ドアが開かれ、初めて近くで弟の顔を見る。

 別れたときよりも成長したか。時間を感じる……。身長も延びたな。



「……取り敢えず、入ってよ」

「ああ」



 部屋に入り、用意されていた椅子に腰かける。



「いつ振りだ?」

「半年振りだね」



 お茶を淹れるため、後ろ向きで答えている。



「半年でお前も随分変わったな」

「兄さんこそ」



 テーブルに紅茶が置かれる。

 流石は貴族、いい紅茶だな。香りが懐かしい。



 話題を考えるため、少し長めに紅茶を飲む。



「あの人たちは? 兄さん」

「あぁ? 俺の仲間だ」

「パーティー組んだの?」

「家を出てからな。王国で」



 思い返しても昨日みたいだな。ラルフとの決闘は。



「帝国はどんな感じだ? 俺が消えてから」

「父さんは……烈火のごとく()()()()()()を怒ってた」

「そりゃそうだろ。どうなった?」

「位取り上げ……にはならなかったけど、今度共和国で開かれる教育施設に放り込まれるって」

「ざまぁみやがれ」



 正直死んでても良かったんだが。

 もう苛つきもしないが、強くなったからか?



「じゃ、父さんは大丈夫なんだな?」

「……息子の生死が分かんないんだよ? 最初は騎士団を動員して探したさ」

「で、見つかんなかったと」

「でも死体は発見されなかった。父さんは心配してるけど大丈夫だよ」

「生きてるってことは伝えといてくれ」



 父さんは帝国で恨まない数少ない人だからな。

 心配ぐらい解消させてあげたい。



「兄さんは戻ってくる気は……?」

「さらさらないね」



 ハッ! 戻るわけがない。何故俺を蔑んでた奴たちの為に働かなきゃいけねぇんだ。



「騎士団に斡旋するけど?」

「絶対に却下だ」

「……残念だよ」



 本当に残念そうだ。半年前まで笑っちゃう程弱かったのにか?



「俺からも質問いいか?」

「何?」

「あの女の人は誰だ?」

「あー、あの人は……」



 初めてシーロンが若干口ごもる。

 脅されてる……ってことは流石にないよな。

 紅茶を口に含む。



「許嫁」

「ブッ!」



 紅茶を吹き出した、ちょっと予想外だ!



「……? はぁ?!」

「あー、やっぱり驚くよねぇ」

「当たり前だろ!」



 シーロンはまだ十六だろ?! もう許嫁?!



「き、貴族って許嫁なんて制度あったのか?」



 カップを持つ手が震える。



「少子化が進んでるからね」

「あ、相手は誰だ?」

「一般人」



 持っていたカップが床に落ちる。んー?!



「さ、最近はそういうのがあるのかー!」

「魔法が凄いんだよね。そして――」



 俺の耳に口を寄せてくる。



「可愛い」

「あ、そーか」



 シーロンも色気付いたか。そーかそーか。



「ありがとう。シーロン君」

「「はいっ!?」」



 兄弟ってのを実感したわ。

 二人、全く同じ姿勢で振り返った。



 後ろには、魔法使いのローブを纏う女子が立っていた。



「この人が……?」

「そう」



 今のを聞かれて顔を真っ赤にして答えた。



「初めまして、お義兄様。シーロン君曰く可愛いエミリア・スーウェンです」



 スーウェンって……マジか。

 あの童子さんの妹か!

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